2 すれ違う食事会
ウィリアムとの見合いは――
必ず【フルコース】の食事会だ。
そして。
必ず、断られる。
「理想が高すぎる」
それが、社交界での彼の評判だった。
筆頭公爵家の、次期夫人選び。
その席に呼ばれる令嬢たちは、誰もが完璧だ。
所作、会話、気遣い――すべて非の打ち所がない。
……にもかかわらず。
ウィリアムは、首を縦に振らない。
その理由は――
誰も、知らない。
けれど、
彼が断っていた理由は、ただ一つ。
(……少食すぎる)
目の前の皿は
ほとんど手がつけられていない。
優雅に微笑みながら、ほんの一口だけ口に運ぶ令嬢。
(それで、満足なのか?)
理解できない。
料理は、もっと――
味わうものではないのか。
だが、その本音を口にすることはない。
結果として。
“理想が高い男”という評価だけが、
積み上がっていった。
そんなある日。
社交界に、一つの噂が駆け巡る。
【ウィリアム様が、ついに婚約を打診された】
その相手は――
伯爵令嬢、シャーロット・スミス。
その知らせは、光の速さで広がった。
本人の耳に入るよりも、早く。
「シャーロット!」
伯爵が、青ざめた顔で娘を呼ぶ。
「くれぐれも、食事会では完食するんじゃない!」
「え……?」
思わず固まるシャーロット。
「もしそんなことをすれば……家の存続に関わるのだぞ!」
額に汗を浮かべながら、何度も言い聞かせる父。
その剣幕に、さすがのシャーロットも言葉を失った。
(お食事を……残す……?)
それは、彼女にとって。
想像すらしたことのない選択だった。
(でも……)
家が、なくなる。
それは困る。
とても困る。
そして。
悩みに悩んだ末――
彼女が出した結論は。
当日。
「……申し訳ございません。
本日、娘は急な体調不良で……」
伯爵は、地面に頭がつく勢いで謝罪していた。
「それは……大事なことだ」
ウィリアムは、静かに頷く。
「どうか無理はなさらず。回復を第一に」
会えなかった残念さよりも。
彼女の体調を気遣う言葉だった。
その翌日。
伯爵家に、大量の贈り物が届く。
花束。
ドレス。
靴。
それは、丁寧なメッセージカードと共に。
「お、お嬢様……!」
侍女カレンが、目を輝かせる。
「こんなに素敵な贈り物が……!」
「え……?」
戸惑いながら、ドレスに手を伸ばすシャーロット。
そして、ふと気づく。
「……ぴったり……?」
サイズが、まるで誂えたかのように合っている。
(……どうして?)
情報が、早すぎる。
正確すぎる。
「すごいですわ、お嬢様……」
カレンは、感嘆の声を漏らす。
だが、シャーロットの胸には。
別の疑問が浮かんでいた。
(どうして……私なの?)
その答えを。
彼女は、まだ知らない。




