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食べる令嬢 貢ぐ公爵の溺愛事情  作者: シャルru


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12/16

12 本当の自分

唇が離れても――

距離は、ほとんど変わらなかった。


互いの息が触れ合うほど近くで、

ウィリアムはシャーロットを見つめている。

その視線に、もう迷いはない。


「……ナトゥー、か。」


ぽつりと、呟く。


「え……?」


思わず顔を上げるシャーロット。


「聞いたことがある。たしか、遠方の珍味だったか…?」


「ご、ご存知で?」


一瞬で顔が熱くなる。


「名前しかしらないが…。」

「なるほどな……。」


そのまま、少しだけ視線を逸らし――


「確かに、淑女としては……

   知られたくないだろう」

「……っ」


否定できない。

貴族社会で“香りの強い食べ物を好む令嬢”など、

どう思われるか分からない。


「でも」


再び、視線が戻る。

そして、次に聞こえた言葉はあまりに優しい言葉だった。


「先に教えてくれたら、あなたの楽しみの邪魔などしないと誓うよ。」


「……え」


ぐっと、腰を引き寄せられる。


「君が何を好もうと、何を食べようと……関係ない」


低く、静かな声。

けれど、確かな熱を帯びている。


「むしろ」


わずかに、口元が緩むウィリアム。


一気に頬が染まる。

「ウィリアム様……」


嬉しいのに、涙が出るなんて。

「礼を言うのはこちらの方だ。

隠さずにはなしてくれた。」


再び引き寄せて、額に軽く口づけする。


「これからは、何も隠すな。」

「……っ」

(やさしい……)

「はい。」

胸の奥が、じんわりと温かくなる。


そして――


もう一度、静かに唇が重なる。

今度は、迷いのないキス。

触れるたびに、想いが確かになっていく。


(ああ……)


この人なら。

全部、知られてもいい。

好きなものも。

恥ずかしいことも。

全部。


「……シャーロット」


名を呼ばれるだけで、胸が高鳴る。


「正式に、結婚の準備を進めよう」

「……はい」


もう迷いはなかった。


その後の事は驚く程早かった。


互いの気持ちを確かめ合った二人は、

正式な手続きをとり、両家に挨拶。

そしてすぐに結婚の準備に取り掛かる。


公爵家のあらゆる手段を使って、

とても準備期間が半年とは思えないほど豪華な式が

用意された。


ウェディングドレスは

デコルテが映え、緩やかなゆとりがある

新しいデザイン。


「素敵!」


結婚後の食事も、シャーロットの好みは研究済み。


「でも、ナトゥーは別室でいただきますわ」


きっぱりと宣言する。


「もちろん! その為の可愛いい部屋も、

新しく作らせた」

二人は笑う。


そんなやり取りがとても幸せだ。



…現公爵の時代、

公爵夫人は社交界でも名高い【少食の淑女】であった。


繊細に、ほんの僅かだけ口にする。


その姿は『優雅』だとされ、やがてこう言われるようになる。


「淑女のたしなみは、小鳥がついばむ程度の食事である」


誰もがそれを理想とし、無理にでも少なく。

それが美しいのだ。と。

そして…貴族社会の、常識となった。


だが、 

時代は移り変わる。


次の世代

新たに公爵になり、その隣に立つシャーロット。


ある日の晩餐会。

ずらりと並ぶ料理の中に、ひときわ異彩をはなつ

一皿がある。


見慣れない香り。珍しい一品。

ざわめく貴族たち。


「あれは?」

「どの様ものだ?」


その時。

シャーロットはためらいもなく口にする。

そして…


「とても美味しですわ」


ニコリと微笑む。

その隣でウィリアムは頷く。

「珍しいものほど、貴族として知っておくべきだ。

味も香りも、文化の一つだ。」


誰も何も言えない。


かつての正しさが、静かに変わっていく。


無理に取り繕う美しさではなく、

知り、楽しみ、受け入れる豊かさ。


やがて社交界ではこう囁かれるようになる。


…淑女たるもの、珍しい珍味の一つくらい、

知識として知っているべきである。


それは単なる流行りではなかった。


一人の令嬢が、自分を偽らずに愛され、

一人の公爵子息が、それを誇りとして受け入れた。


その事実が、時代をゆっくり変えていったのだ。


               終

次回は、結婚編の予定です

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