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第7話

 翌週の夕方、広場へ向かった。まだトーマスの姿は見えないが、すでに人だかりができている。

「来たか、悠真」 畑の持ち主が腕を組んで待っていた。

「どうなると思う?」 村人達が話し合っている

「さあ……豚の餌が売れるなんて、想像もつかねえ」

「売れるわけねえだろ。街の連中がそんなもん食うか」近くにいた農夫が鼻で笑った。

日が傾き始めた頃、遠くから馬車の音が聞こえてきた。

「来たぞ!」 誰かが叫ぶ。トーマスの馬車が、土煙を上げながら広場に入ってきた。

「全部売れました!」 トーマスが両手を広げて叫んだ。

「1時間です。たった1時間で30本、完売しました!」

広場が静まり返った。

「……は?」

「1時間だと?」

「豚の餌が……1時間で……」

トーマスが革袋を掲げた。

「1本銅貨3枚で売りました。合計銅貨90枚です」

「銅貨90枚!?」 村人たちがざわめく。

「俺の日当より多いじゃないか!」 若い農夫が叫んだ。

「一日汗水たらして働いて銅貨50枚だぞ。それが芋を焼いただけで90枚だと?」 別の村人も驚きを隠せない。

トーマスが興奮気味に続ける。

「街の人々が奪い合うように買っていきました。『もっとないのか』と聞かれて困ったほどです」

畑の持ち主が俺の肩を叩いた。

「また作れるか?イモならたっぷりあるんだ!」

「あっ、はい、大丈夫です」

「良かった。それと、売上の分配ですが」 トーマスが革袋から銅貨を数え始めた。

「約束通り3等分で、一人30枚ずつです」

「でも……」

俺は受け取った30枚を見つめ、リリアとマーサの方を向いた。

「リリアさん、マーサさん、これを」 銅貨を10枚ずつ差し出す。

「え? でも、悠真さんが稼いだお金なのに」 リリアが戸惑う。

「芋を灰に埋めただけよ」 マーサも遠慮がちに言う。

「今朝、手伝ってくれて助かりました」

「でも、そんな大したことじゃ……」 リリアがまだ遠慮している。

畑の持ち主が豪快に笑った。

「いいじゃねえか! チームで稼いだ金だ」

「ありがとうございます、悠真さん」 リリアが銅貨を大切そうに握りしめた。

「私も……まだ役に立つのね」 マーサが静かに微笑んだ。


 翌週、トーマスが再び広場にやってきた。今回は息子のレンも一緒だった。

「レン君も一緒ですね」俺が声をかける。

「悠真さん! また会えて嬉しいです」

レンが笑顔で応える。あのグレイウルフの一件からすっかり元気を取り戻したようだ。

トーマスが説明を始めた。

「実は、息子に商売を学ばせようと思いましてね。これからは週3回、焼き芋を引き取りに来させていただきたいのですが」

「週3回?」畑の持ち主が驚く。目を丸くしている。

「月曜日は私が、水曜日と金曜日は息子が来ます。もちろん、護衛をつけます。街の人々からの要望が多くて、毎日でも欲しいという声があるんです」

「大丈夫です。作れます」

「ありがとうございます!」トーマスが安堵の表情を見せた。

「父の仕事を手伝えるよう、頑張ります。悠真さんたちの作った焼き芋、しっかり届けますから」レンが緊張した面持ちで言った。

「頼むよ。でも無理はしないように」

「はい!」

「それでは、昼前に焼き芋を用意しておいてください」トーマスが付け加えた。

「分かりました」

商談が一段落したところで、俺は思い切って尋ねてみた。

「トーマスさん、一度、街へ行ってみたいんですが」

トーマスが笑顔になった。

「それはいいですね。来週、来るときに馬車に乗っていってください。空きがあるので、よろしければどうぞ。帰りは、息子のレンが夕方、街から隣村へ配達に行きます。途中であなた方の村に寄れるので、送らせますよ」

レンが頷く。

「はい、お送りします」

「それは助かります。ありがとうございます」すると、マーサが目を輝かせた。

「あら、街? 私も行きたいわ」

リリアが心配そうに祖母を見る。

「でも、おばあちゃん、疲れるんじゃ……」

トーマスが優しく言った。

「馬車なら疲れませんよ。街の人たちも、焼き芋を作っている方々に会いたがっています」

「そうですね、良い刺激になるかもしれません」俺も賛成した。

リリアが俺を見た。

「悠真さんが一緒なら……安心です」

頬を少し赤らめながら言うリリアに、俺は頷いた。

「もちろん、しっかりサポートします」


 翌週の月曜日、トーマスの馬車が到着すると、俺はまずマーサの乗車を手伝った。

「マーサさん、ゆっくりでいいですよ。右手はここを掴んで」安全に馬車に乗せる。段差に気をつけて、体重移動をサポートする。

「ありがとう、悠真さん」

リリアも一緒に乗り込んだ。

「では、出発しましょう」トーマスが手綱を取る。

途中、マーサが懐かしそうに外を眺めた。

「この道、懐かしいわ。昔はよく通ったのよ」

道の両側には麦畑が広がり、風に揺れている。

「マーサさんは街によく行かれたんですか?」

「ええ、若い頃はね……冒険者として」

マーサの目が遠くを見つめる。


 街に到着すると、市場の活気にマーサの目が輝いた。

「まあ、昔と変わらない賑わいね」

石畳の道には露店が並び、呼び声が響いている。果物、野菜、肉、魚、様々な匂いが混じり合っている。

人混みの中、俺はマーサの歩調に合わせてゆっくり進む。リリアが反対側から支えてくれた。

「おばあちゃん、大丈夫?」

「ええ、楽しいわ。こんなに歩くのは久しぶり」

焼き芋の売り場に着くと、すでに行列ができていた。

店主が俺たちに気づいて声をかけてきた。

「あ、もしかして作っている方々ですか?」

マーサが誇らしげに答える。

「ええ、私たちが作っているのよ」

「すごいな! この焼き芋、街で大評判なんですよ」

客たちが次々に声をかけてくる。マーサは嬉しそうに応じていた。

その時、行列の前の方に白髪の品の良い老女が立っていた。焼き芋を手に取ろうとして、ふとマーサの方を見て……手が止まった。

「あら、まさか……マーサ?」

マーサも相手を見て、驚きに目を見開いた。

「ノエル? ノエルなの?」

「やっぱりマーサだわ! 生きていたのね!」

二人は人混みをかき分けて近づき、抱き合った。周りの客たちが不思議そうに見守る中、二人は涙を流していた。

「二十年以上会ってなかったわね」ノエルが涙を拭う。

「お互い結婚してから、それぞれの道を歩んだものね」マーサが頷く。

「あなたの旦那様は元気?」ノエルが尋ねる。

「夫は一年前に亡くなったわ」マーサの声が少し震える。

「そう……私も五年前に夫を亡くしたの」

「お互い、一人になってしまったのね」

二人の表情が曇る。

「実は最近、この街に越してきたの。王都は一人には広すぎて」

「王都にいたの?」

「ええ、静かな街で暮らしたくて」

マーサが微笑む。

「まさかこんな偶然があるなんて」

「覚えている? 私たちの冒険者時代」ノエルが懐かしそうに言った。

「ええ、三人パーティーだったわね。ゴブリンの群れに囲まれた時のこと、今でも覚えてる」

マーサが懐かしそうに言う。

「そう! あの頃は楽しかった」

「でも結婚してからは、冒険も卒業して」

「ええ、私は村で子供を育てて、あなたは王都へ」

ノエルが続ける。

「私、ここで小さな店を始めたの。日用品とか薬草とか扱っているんだけど」

「まあ、すごいじゃない。ノエル、夢を叶えたのね。うまくいっているんでしょう?」 マーサが自分のことのように喜ぶと、ノエルは少しだけ困ったように微笑んだ。

「昔と違って最近は若い採取者が増えてね。根こそぎ引き抜いたり、似たような毒草が混ざったりして『目利き』ができる人がいなくて困っているの」

二人は再会を喜び、しばらく話し込んでいた。俺とリリアは少し離れて待っている。

「あんなに嬉しそうなおばあちゃん、久しぶりに見た」リリアが驚いている。

確かに、マーサの表情は今まで見たことがないほど生き生きとしていた。

やがて二人の話が一段落して、ノエルが提案した。

「マーサ、来週お茶でもしない?」

マーサが嬉しそうに頷きかけて、ふと俺を見た。

「悠真さん、来週も街に来られるかしら?」

「トーマスさんに聞いてみましょう」

俺はトーマスを探して、焼き芋の売り場近くにいた彼に声をかけた。

「トーマスさん、来週もマーサさんを街に連れてきていただけますか?」

トーマスが快く頷く。

「もちろんです。毎週月曜日に来ますから、いつでも乗っていってください」

「ありがとうございます」

俺はマーサのところに戻った。

「トーマスさんが、来週も乗せてくださるそうです」

「まあ、良かった!」

マーサがノエルに向き直る。

「それじゃあ、来週お邪魔するわね」

「ええ、楽しみにしている!」

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