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第6話

 翌朝、早起きして広場へ向かうと、すでにガロンが待っていた。

「おう、来たか。イモならもう用意しておいたぞ」

「ありがとうございます。朝早くからすみません」

「なんの、豚の餌が金になるかもしれないんだ。こっちこそ礼を言いたいくらいだ」

「手伝うわ」 振り返ると、マーサとリリアが立っていた。

他の村人たちは遠巻きに見ているだけだ。

「失敗したら笑い者だな」

「街の連中が豚の餌を買うわけがない」

本当に売れるだろうか。

「悠真さん、大丈夫?顔色が悪いわよ」 マーサが心配そうに覗き込む。

「あ、いえ、大丈夫です」

「緊張しているのね」 リリアが優しく微笑んだ。

「でも、昨日ゲオンさんがあんなに喜んでいたじゃない。きっと売れるわ」

そうだ。ゲオンが涙まで流して喜んだ姿を思い出す。 あの反応が全てを物語っている。必ず売れるはずだ。

ガロンが追加のイモを4本持ってきた。

「これも一緒に焼いてくれ。後でみんなで食べよう」

「いいんですか?」

「昨日食ったらうまかったからな。また食いたくなった」

昨日と同じように、まず焚き火で灰を作る。 十分な灰ができたところで、イモを埋めていく。リリアとマーサも丁寧に一つずつ埋めてくれた。

リリアが最後の芋を埋め終えて立ち上がった。

「30本全部埋めました」

「おばあちゃん、思ったより簡単だったね」とリリアが手を払いながら言った。

「そうね、それに体を動かしたのは久しぶりで……気持ちいいわ」

新たに薪を組んで火をつける。 煙が立ち上り、朝の広場に香ばしい匂いが漂い始めた。


 一時間後、焼き芋が出来上がった。

「よし、まず俺たちの分を食べよう」

ガロンが試食用の4本を取り出した。

皮を剥きながら、ガロンがマーサを見た。

「マーサさん、元気になったな」

「ええ、最近は調子がいいのよ」

マーサが嬉しそうに焼き芋を頬張る。

「1年前、旦那さんが亡くなった時は憔悴していたからな」

ガロンが続ける。

「リリアが冒険者やめて帰ってきて、本当に良かった」

俺は驚いてリリアを見た。

「冒険者だったんですか?」

リリアが少し照れたように頷く。

「はい、少しだけ……祖母を一人にしておけなくて」

ガロンが頷いた。

「リリアの両親は、この子がまだ赤ん坊の時に流行り病でな。マーサさん夫婦が引き取って育てたんだ」

「仕事を捨てて帰ってきて面倒見るなんて、こんな孫、他にいないぞ」

ガロンが感心したように言う。

「ええ、自慢の孫よ」

マーサが誇らしげに微笑んだ。


 昼前、約束通り トーマスがやってきた。

「おお、いい香りだ!」

灰の中から焼き芋を取り出すと、黄金色の中身が顔を覗かせた。 トーマスは一口味見をして、顔をほころばせた。

「間違いない。これなら必ず売れます」

慎重に荷台に積み込む。

「売り上げは、来週の夕方来た時に報告します」

「よろしくお願いします」

馬車が走り去るのを見送った。


「まだ夕方まではだいぶ時間がありますね」 俺が日差しを見ながら言った。

「昨日、村を案内してもらって、まだ行ってないところありますか」

「それなら、村の外れの森の方はどうですか?案内しますよ」

「いいですね。行ってみましょう。マーサさんもどうですか?」

「私も行くわ」

3人で家を出て、村の外れへと歩いていく。

「風が気持ちいいわね」 マーサが嬉しそうに言った。


 森の入り口に差し掛かった時、マーサが立ち止まった。

「ここ……知っている」

「来たことがあるんですか?」

「ええ、昔……でも、いつだったかしら」

記憶が断片的になっているようだ。でも、場所の記憶は残っている。

「懐かしい場所に来ると、記憶が蘇ることもありますよ」

森の中を歩き始めて少しすると、マーサが突然立ち止まった。

「あれ、ヒールグラスだわ」

緑の細い草を指差す。

「ヒールグラス?」

リリアが聞く。

「回復薬の材料よ。でも、似た毒草もあるから注意が必要」

マーサが草の特徴を説明し始めた。急に生き生きとしている。

「葉の裏が銀色なのが本物。毒草は紫がかっている」

「すごい、おばあちゃん」

「覚えていたのね」

俺も感心した。


 さらに奥へ進むと、小さな泉があった。

「ここは……」

マーサが泉を見つめる。

「主人と、初めてデートした場所」

急に鮮明な記憶が戻ってきたようだ。

「おじいちゃんと?」

リリアが興味深そうに聞く。

「そう。あの人、不器用で……告白するのに1時間もかかったのよ」

マーサが楽しそうに笑う。

「どんな人だったんですか?」

俺も聞いてみた。

「優しくて、真面目で……でも、戦うときは誰よりも勇敢だった」

「冒険者だったんですか?」

「ええ、剣士だったわ。私が魔法で援護して」

マーサの目が輝いている。

「二人でたくさんの冒険をしたわ。ドラゴン退治もしたのよ」

「ドラゴン!」

「本当よ。その時の報酬で、この家を建てたの」

次々と思い出が蘇ってくるようだ。

薬草を探しながら、マーサは昔話を続けた。

「あ、これはマナハーブ」

青い花を咲かせる草を見つける。

「魔力回復薬の材料ね。高く売れるわよ」

「本当ですか?」

「ええ。でも、朝露がある時に採らないと効果が薄いの」

専門的な知識が次々と出てくる。

「マーサ、すごい知識ですね」

「あら、こんなの基本よ」

謙遜しているが、明らかに只者ではない。

「マーサさん、たくさん歩いて疲れていませんか?」 俺は心配になって声をかけた。

「そうね、少し休憩しましょうか」 マーサも素直に同意した。 近くに倒木があったので、腰を下ろせるように落ち葉を払った。

「ここで少し休みましょう」

持参した水筒で水分補給をする。

「今日は楽しいわ」

マーサが満足そうに言う。

「まだ、私も覚えていることがあるのね」

「たくさんありますよ」

「そうかしら」

「はい。マーサさんの知識と経験は宝物です」

リリアも頷く。

「祖母がこんなに詳しいなんて知らなかった」

「あなたに話してなかったかしら」

「うん、初めて聞く話ばかり」

「悠真さん、おばあちゃんがこんなに楽しそうなの、久しぶりに見ます」

「昔の知識を思い出すのは、良い刺激になりますからね」

「悠真さんのおかげです」リリアが真っ直ぐに俺を見た。澄んだ瞳に、俺の顔が映っている。

「いえ、僕は……」

「謙遜しないでください。本当に、感謝しています」

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