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第2話

 目が覚めると、俺は草原に横たわっていた。

透き通るような青空、爽やかな風、遠くに見える村、家々が点在し、煙突から立ち上る煙がのどかな朝を告げている。

「本当に……異世界に来たんだ」

立ち上がって、自分の姿を確認する。服装は地味な麻の服に革のブーツ。腰には小さな革袋がぶら下がっていて、中には銅貨が数枚入っていた。

体が軽い。異常に軽い。

「これは……若返っている?」

手を見ると、明らかに若い。肌にハリがあり、しわ一つない。おそらく十代の体だろう。

(38歳が20歳くらいに……これはすごいな)

視界の端に、ステータスが浮かび上がった。


【相川悠真 レベル1】

【職業 介護士】

【体力 100】

【魔力 50】

【攻撃力 10】

【防御力 10】

【介護経験値 0】

【スキル ケアビジョン】


「レベル1からか。でもケアビジョンって?」

試しに自分の手を見つめると、健康状態が数値として見えた。


【体温 36・5℃】

【血圧 120/80】

【脈拍 72】


「バイタルが見える……これは便利だ」

前世で欲しかった能力だ。これなら利用者の体調変化を見逃さない。

「そうだ、魔法! 異世界といえば魔法だろ」

手を前に突き出す。

「ファイヤー」

ボッ!

本当に火が出た。手のひらサイズの火球が宙に浮かぶ。

「すごい……本当に魔法が使える」

試しにジャンプしてみる。

「うわっ!」

背丈以上は跳んだ。着地も全く衝撃がない。

「これが異世界転生ってやつか」

興奮が止まらない。次々と魔法を試す。

「アイスブレイド!」

氷の刃が生成される。

「ウィンドカッター! サンダーボルト!」

全部成功

「ヒール」

手のひらから淡い光が出た。試しに、さっき木の枝で切った小さな傷に当てると、すうっと消えた。

(回復魔法まで使えるのか……)

(待て、落ち着け。38歳の精神年齢を忘れるな)

深呼吸して冷静さを取り戻す。でも、体が若いせいか、つい子供みたいにはしゃいでしまう。

「……」

視線を感じて振り返る。

小さなおばあさんが、じっとこちらを見ていた。

「あの……いつから、見ていました?」

「『ファイヤー』のところから」

「最初からですか……」

顔が熱くなる。おっさんが魔法ではしゃいでいる姿を見られていた。

「すみません、つい興奮してしまって」

「いいのよ、若い人は元気が一番」

おばあさんは微笑んだが、すぐに困った顔になる。

「ところで、私の家はどこでしょうか」

「え?」

「家が……どこだか分からなくて……」

俺は一瞬固まった。

(認知症の方だ)

さっきまでのはしゃいだ様子は消え、穏やかな介護士の顔になった。

「お家を探しているんですね。お名前を教えてもらえますか?」

俺は腰を落とし、おばあさんと目線を合わせる。威圧感を与えない基本姿勢だ。

「名前……? 私の名前……」

おばあさんは困った顔をする。

「大丈夫ですよ。ゆっくりで構いません」

「マーサ……マーサです」

「マーサさん。素敵なお名前ですね。マーサさんのお家には、どんな特徴がありますか?」

「赤い……赤い屋根……」

「赤い屋根のお家。他には?」

「孫が……孫がいるはず……」

マーサの目に涙が浮かぶ。

「でも、どこにいるか……道が分からなくて……」

「大丈夫です。一緒に探しましょう」

ケアビジョンで見ると——


【マーサ 66歳】

【認知症(軽度)】


「マーサさん、どちらから来られました?」

マーサは振り返り、なんとなく一方向を指差す。

「あっち……かしら」

その方向を見ると、遠くに煙が立ち上っているのが見える。炊事の煙だろうか。

「あの煙の方向に、村があるかもしれませんね」

歩きながら、俺は観察を続ける。マーサの服装は質素だが清潔。誰かが世話をしている。足取りはしっかりしているが、少し疲れやすそうだ。

「マーサさん、朝ご飯は食べましたか?」

「朝ご飯……? 食べたような……食べてないような……」

「そうですか。お腹空いてませんか?」

「少し……空いているかも」

会話を続けながらしばらく歩くと、村が見えてきた。木の柵に囲まれた、のどかな農村だ。

「あそこに村がありますね。もしかしたら、マーサさんのお家もあるかもしれません」

「村……そうね、村があったわ」

ゆっくりと、マーサのペースに合わせて歩く。これも介護の基本。相手を急かさない。

村に入ると、若い女性が走ってきた。

「おばあちゃん! またいなくなって!」

金髪青眼の美しい少女だった。年齢は20歳くらいだろうか。

「心配したんだから……」

少女の目には涙が浮かんでいた。

「すみません、草原でマーサさんが迷われていたようで」

「あ……」

少女は俺を見て、一瞬言葉を失った。

「ありがとうございます。私はリリア、祖母の孫です」

リリアは深々と頭を下げた。そして顔を上げた時、俺と目が合った。

「あなたは……?」

「相川悠真といいます。旅の者です」

「悠真さん……」

リリアは小さくその名を呟いた。

「本当にありがとうございます。最近、祖母がよく外に出てしまって……」

「そうなんですね」

「はい……どうしたらいいか分からなくて……」

俺は優しくマーサに話しかける。

「マーサさん、お散歩は楽しかったですか?」

「ええ、とても気持ちよかったわ」

「それは良かった。でも、リリアさんが心配していましたよ」

「あら、そうなの? ごめんなさいね」

マーサがリリアの手を取る。

「おばあちゃん……」

「マーサさん、ここは安全ですよ。リリアさんもいますし」

マーサの表情が穏やかになる。

「そうね……孫がいるなら、大丈夫ね」

リリアは目に涙を浮かべた。

「すごい……祖母がこんなに落ち着いている」

不思議そうに俺を見つめた。しかし、頬がほんのりと赤くなり、すぐに視線を逸らした。

「あの、悠真さんはこれからどちらへ?」

「特に決めてないですが、しばらくこの村に——」

俺が答えかけた時だった。


「大変だ!」村の若者が息を切らしながら走ってきた。

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