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第16話

「勘違いするな」レオンが遮る。

「規則は守る。ただ、事実を正確に報告するだけだ。病気の妹がいること、薬代のこと、全部な」

リリアが小さく微笑む。

「それに、私も証人として一緒に行く。実際に妹さんに会ったことも伝えるわ」

「ありがとう。でも、それでも私は……」

「そうだ、処罰は免れない」レオンが現実を突きつける。

「だが、事情を考慮される可能性はある。処刑されずに、労働奉仕で済むかもしれない」

「労働奉仕なら、働きながら妹さんの面倒を見れる」俺が付け加える。

シャルが震える手で顔を覆う。

「どうして……どうしてあなたたちは……」

「さっさと立て」レオンがぶっきらぼうに言う。

「ギルドが閉まる前に行くぞ」

リリアと顔を見合わせる。レオンなりの優しさだと二人とも分かっていた。

シャルが涙を拭いて立ち上がる。

「……ありがとうございます」

「礼はまだ早い」レオンが歩き出す。

「ギルドがどう判断するかは分からないんだからな」


 ギルドへと向かう前に、シャルが妹の部屋に寄った。

「お姉ちゃん……どこ行くの?」ミナが不安そうにシャルの手を握る。

「大丈夫よ。この人たちと一緒に、大事な話をしに行くだけ」

ミナは咳き込みながらも、俺たちに小さく会釈した。


 ギルドに到着すると、受付には女性が座っていた。

「依頼の報告ですか?」

「いえ、その……」俺が言いかけると、レオンが前に出る。

「盗賊の自首です」

受付嬢が眉をひそめる。

「自首?」

シャルが震えながら前に出る。

「私が……最近この辺りで盗みを働いていた者です」

ギルドがざわつき始める。他の冒険者たちが注目し始めた。

「えっ」受付嬢がシャルを見る。

「それで、なぜ自首を?」

「この方たちに諭されて……」シャルが俺たちを見る。

レオンが割って入る。

「本人から自首を申し出た」

受付嬢が立ち上がる。

「ギルドマスターを呼んでくるわ。待っていて」

重い空気の中、俺達はじっと待っていた。周囲の冒険者たちがひそひそと噂話をしている。

「盗賊が自首だって?」

「あの子が、盗みを」

しばらくして、髭を蓄えた壮年の男性が現れた。ギルドマスターのバルドだ。

「話は聞いた」バルドがシャルを見下ろす。

「自首したというのは本当か?」

「はい」シャルが頭を下げる。

「薬代のため、か」

「言い訳をするつもりはありません」シャルが顔を上げる。

「罰は受けます。ただ……」

「ただ?」

俺が口を開く。

「ギルドマスター、俺たちからも話があります」

バルドが俺を見る。

「我々は、彼女から事情を聞いて……」

リリアが続ける。

「妹さんの病状も確認しました。歩けなくなった妹さんを養うためだったと」

バルドが顎髭を撫でる。

「それで?君たちは?」

俺が一歩前に出る。

「彼女に更生の機会を与えてください。労働奉仕でも何でも」

「俺が彼女の保証人になります」

「ほう」バルドの目が光る。

「赤の他人のために、随分と熱心だな」

レオンが付け加える。

「自首したことも考慮していただきたい。逃げることもできたのに、自ら出頭した」

長い沈黙が流れる。


 バルドが口を開いた。

「被害総額は銀貨36枚。月々3枚を1年間納めればいい」

「月に銀貨3枚?」レオンが聞き返す。

「そんなに少ないのか?」

「ああ、被害は豚2匹だからな」バルドが淡々と答える。

「えっ、豚2匹?」リリアが驚く。

悠真がシャルを見る。

「盗んだの豚2匹だけか?」

「豚2匹……みんなで分けて食べた」シャルがうつむく。

レオンが聞いた。

「殺しは?人は襲ってないのか?」

シャルが顔を上げる。

「私たちは殺しなどしない!盗みだけだ」

「集落で、殺すって」

「ああ、あれは脅しだ」

「なんだ……」

「そんなことで盗賊討伐?」リリアも呆れたような声を出す。

レオンも肩の力が抜けたように息をつく。

「豚2匹で大騒ぎか」

「月3枚なら」リリアが計算する。

「生活費を稼ぎながらでも払えるわね」

俺が頭を掻く。

「なんか、拍子抜けだな」

「本当に」リリアも力が抜けたように笑った。

「命がけで乗り込んだのに、豚2匹って」

「笑い事じゃない」シャルが顔を赤くする。

「あの時は本気で……」

「分かっている」俺は微笑んだ。

「必死だったんだよな」

バルドが咳払いする。

「それで」俺がバルドを見る。

「俺が保証人になるという話は?」

バルドが即答する。

「問題ない」

俺が苦笑する。

「まあ、これなら安心して引き受けられるな」

シャルが深々と頭を下げる。

「本当に、ありがとうございます」

「礼には及ばん」バルドが書類にサインする。

「これから毎月銀貨3枚を納めてもらう」

「はい、わかりました」シャルがまだ信じられないという顔をする。

「きちんと払えば、それ以上は問わん」

バルドが俺たちに向き直った。

「討伐依頼の報酬、銀貨30枚だ」

そう言って、袋を差し出した。

「えっ?」俺は驚いた。

「でも、討伐はしていませんよ」

「依頼は『盗賊団の脅威を取り除く』ことだ」

「方法は問わん。むしろ血を流さずに解決したなら、それに越したことはない」

レオンが袋を受け取りながら呟く。

「……納得いかないが、規則は規則か」

「これ、シャルさんの生活費に」リリアが提案したが、シャルが首を振った。

「いえ、あなたたちが正当に得た報酬です。それに……」シャルが小さく微笑む。

「自分で稼げるようになりますから」

俺は袋から銀貨を10枚取り出した。

「これ、貸すことにする。当面の食費に使ってくれ。返すのはいつでもいい」

「悠真さん……」

レオンも銀貨を10枚差し出す。

「……俺からも。利子はいらん」

リリアも同じように10枚を。

「私からも。女の子同士、助け合わないとね」

結局、報酬の銀貨30枚は全てシャルに渡すことになった。

「必ず……必ず返します」

「焦らなくていい」俺は言った。

「まずはミナさんのリハビリに集中しよう」

レオンがぼやく。

「最初から聞いてれば、あんなに悩まなかったのに」

「でも」リリアが優しく言う。

「これで良かったじゃない」

「さて」俺は振り返る。

「明日から本格的にリハビリを始めよう」

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