第20話 大脱出ッ!!
でも、どうやって殿下にお伝えする!?
自分はこうして砦の塔に閉じ込められた。
幸い、どこも怪我しておらず、動くことは可能。けど、もし逃げ出したのを見つかったら、次はタダではすまないだろう。
――面倒だから、殺しておいてもいいが、欲しいと言われるお方もいらっしゃる。
メリクリオス将軍の吐いたセリフにゾワッと背筋が震えたが、まあ、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
どこか逃げだせる場所を捜さないと。
でも、どこから!? 塔の入り口は閉じられ、閂、錠前つき。外から誰かが開けてくれない限り、出ることは不可能。
なら、塔の窓!?
だけど、窓は二階以上にしか存在しない。なにもなしに飛び出せる高さじゃない。
だとすれば、どうすれば!?
「逃げるのかい!?」
その言葉に、ビクリと身体が跳ねた。
「手を貸そうか⁉」
気がつけば、オバちゃんたちが集まってる。
「アタシたちも、なんとかしたいと思ってるんだよ」
ニヤッとオバちゃんたちが笑う。
「アンタなら、出来ると思う作戦があるんだ。やってみないかい!?」
オバちゃんたちに、「ニヤッ」「ニヤニヤッ」が広がる。互いに顔を見合わせ、また「ニヤッ」。
どんな作戦!? 作戦自体より、その「ニヤッ」の理由が気になるんですけど⁉
ちょっとコワい。
「やる気があるんなら、こっちへおいで」
グイッと腕を引っ張られ、そして。
「きゃあああっ…‼」
すべての服を剥ぎ取られた。
……エッチ。
「これで、いいですか⁉」
裸にひん剥かれた私が身につけたのは、以前着たような村娘の服。
今回は、カツラがないので、布を巻いて髪の短さを隠している。
「似合ってるなあとは思っていたけどねえ」
「まさか、本物の娘だったとはねえ」
オバちゃんたちが感心してる。女の私がどうして従者に!? そんな質問をしたくてウズウズしてる。
「あの、私のこと、殿下には話さないでいただけますか⁉」
オバちゃんの好奇心を満たす回答は出来ない。下手をしたら、伯母にも迷惑がかかる。
「いいよ。なんか事情がありそうだしね」
フフフと、オバちゃんが笑う。その顔、絶対なんか想像して楽しんでるでしょ。
「いいかい。これからアンタは、アタシらと塔の外に出て台所に向かう。アタシらは食事を作る時だけ、数人、塔から出してもらえるからね」
女なら、脱走される心配もないし、食事は必要だから。そういうことらしい。
「その時に、アンタは、隠し通路から逃げるんだ」
「隠し通路!?」
オバちゃんの言葉を聞き返す。
「こんな砦にはね、そういう秘密の抜け穴があるんだ」
どうしてもな時に使う、抜け穴。
「でも私、その場所を知らない…」
いくら女の格好をしていても、ウロウロしていれば怪しまれる。
「そこは、任せときな」
オバちゃんがふくよかすぎる胸をドォンと叩いた。
「アタシの息子が兵士として働いてる。リュカって言うんだけどね。その子に案内させるさ」
え!? でもどうやって!?
勝手にうろつけば、危険なのでは!?
「アンタにはリュカの恋人でも演じてもらって。そうさね。久々にお楽しみをしたいからイチャイチャと暗闇に紛れ込んでく…。そんなふうにして抜け穴に近づくのさ」
オバちゃんが台所までの道中で、リュカさんに説明してあげると、請け負ってくれた。
「抜け穴から先は、アンタ一人で行かなくちゃいけないけど。どうだい!? やる気はあるかい!?」
大胆な作戦だと思う。
失敗したら、私が生命を落とすだけじゃなく、このオバちゃんたちと、息子のリュカさんにも迷惑がかかる。
けど。
「やります」
ハッキリと決意を伝える。
「出ろ」
夕方近くになって、私たちは数人だけ塔から出ることを許された。
先ほどのオバちゃんを先頭に12人。この人数に、特に決まりはないらしい。
私は、オバちゃんたちに紛れて外に出る。
台所までは、一応の監視がつくものの、女と侮っているのか、案外緩かった。
「リュカ、ちょっと…」
道中、見張りに立っていた男性、――おそらくリュカさん――にオバちゃんが声をかけても、監視は特に文句を言わなかった。そのあたり、ホント、ユルユル。
私は、そのオバちゃんと別れ、一旦、台所で食事を作る。
食事作りは、まあ、もともと女だし!? 一人で自炊してたぐらいだし!? 手伝うことに不安はなかった。
途中、何度か味見と称して食事をいただく。あとでお腹が空いて動けなくなると困るから。おいしくって手が止まらなくならないように、我慢、ガマン。
しばらくして、あのオバちゃんも調理に合流する。
「リュカには話をつけてきたよ。食事を運んだすきに、二人で抜け穴を目指しな」
オバちゃんの言う通り、兵士たちに食事を運ぶと、そこにリュカさんがいた。
演技なのだろう。やけにベタベタと触れてくる…が、それも我慢、ガマン。
私も精一杯恋人のフリをする。
「会いたかった~」とか、「さみしかった~」とか。こんなかんじかな~と思いながら、しなだれかかったり。
そうこうしてるうちに、リュカさんがグッと私を抱き寄せて、みんなの輪から外れてくれた。
他の兵士から少し冷やかされるような口笛が出たけど、誰も咎めなかった。
暗闇に紛れていくことに、不審がられることもない。
演技成功。
だけど。
「あんまりやりすぎてくれるなや。お前が男だって忘れて、襲いそうになる」
顔を真っ赤にしたリュカさんから苦言を呈された。
オバちゃん、私のこと「男」として説明してたのね。
リュカさんに、「すまない」と短く謝っておいた。
私が案内されたのは、塔と居館の間にある、小さな小屋だった。
「この暖炉の奥だ」
力任せに押すと、人が一人通れるぐらいの穴が掘ってある。
「この先は、砦を抜けて、村の外れの森につながっている」
火の入った小さな携帯用のカンテラを渡された。
「ローレンシア軍がいる可能性もある。気をつけて行けよ」
「はい。ありがとうございます、リュカさん」
「オレたちだって、殿下と戦いたくないんだ。頼んだぞ」
そう言って、リュカさんが暖炉を閉じる。彼がくれたカンテラがなければ、坑道は真っ暗だった。
さて。
意を決して前を向く。
ここまで来たら後戻りはできない。
殿下を目指して。
カンテラの小さな灯りを頼りに、私は歩き始める。




