第17話 いざ、出陣ッ!!
――何も、戦場までついていかなくても。
案の定、戦の話を聞いた伯母から心配顔で止められた。
――殿下のお子を身ごもれとはいいましたけど、戦争についていくことはないでしょう。
戦場で、子を作ることも出来るかもしれないけど、それよりも、伯母として、姪を心配する気持ちが勝っているのだろう。
その気持ちはありがたい。やっぱ、肉親なんだなって思う。
けど。
「私、殿下をお支えしたいんです」
キッパリと伯母に告げた。
一万の軍は、ほぼ騎兵で構成されていた。
この戦は迅速な動きが求められる。糧食隊など、騎馬ではないものもいるけど、それはほんの一部。
もちろん、私だって、愛馬アレアートに乗って、出陣っ!! なんだけど。
(うう、お尻痛い…)
出陣したことを後悔しそうなほど、痛い。
シャキッと乗ることは難しい。
幸い、辺境までは街道を行くわけで、難しい山越えとかはないから、なんとかなるけど。
それでも、ウッカリすると置いていかれそうなほど遅れてしまう。
「今からでも遅くない。王都に戻れ」
そんなセリフを殿下に言われないためにも、必死でアレアートに乗る。アレアートは、私にはもったいないぐらいいい子で、下手な私をよくフォローしてくれた。兄である、殿下の馬がいるから、それについて行きたくて、フォローしてくれてるのかもしれないけど。
国境までは、この行軍で二日はかかる。
一日目の夜は、途中の草原で一泊ということになった。
次々に天幕が張られ、糧食隊が食事の支度を始める。
アレアートにタップリ揺られて、もうグッタリだけど、そういうことは言ってられない。
「今からでも~」と言われないためにも、殿下のためにもガンバラねば‼
殿下の馬(アクイラという)と、アレアートに水と飼い葉を与えてブラッシング。
糧食隊から食事を受け取って、殿下のいる天幕へ持っていく。
「失礼します」
私が天幕に入ると、そこにいたのは殿下だけだった。
床に広げた地図を、難しそうな顔で見つめている。
「殿下…⁉」
「ああ、レオか。すまない、考え事をしていた」
殿下が少し肩の力を抜いた。
「ローレンシアがどこから攻めてきているのか。イロイロ考えておこうと思ってな」
軍議はすでに、イリアーノさんたちと終えている。だけど、殿下はそれ以外にも考えたいと思ってるらしい。
「ローレンシアが正攻法で攻めてくるのなら、この国境の橋を渡るだろう」
パンッと地図の橋を叩かれる。橋は、砦の下流、街道に沿った場所に設けられている。
「しかし、すでに、渡河は済ませてる可能性もある。橋を使わない可能性だって捨てきれない」
だとすれば、どこから川を越えるのか。
「あの中州も渡河の場所として最適だが、橋同様、隠密に行動するなら、村に近くて見つかりやすい」
夜陰に乗じて。というなら、あの中州は村に近いので不適格だ。
「だとしたら、この、上流はどうでしょう」
砦から遠く、街道からも大きく外れ、それでいて川が蛇行していて流れが緩やかそうだ。
ちょうど、そのあたりには両岸に森がある。姿をひそめるにも、うってつけそうだった。
「そこも、候補だな」
私の案に、殿下が頷いた。
「どっちにしろ、渡河させないのが一番だが、今、敵がどこにいるかわからないからな。あらゆる場合の対応を考えておかなくてはいけない」
「はい」
イリアーノさんの戦術授業でも聞いている。「想定外」という言葉は、戦場では許されないのだと。あらゆる場面を想定できずにいれば、必ず困ったことが起きる。起きてから、「考えてなかった」では、損害も大きく、取り返しがつかない。
「それは、夕メシか⁉」
不意に、殿下が口調を変えた。重くなった空気を変えたいらしい。
「え!? あ、はい。糧食隊でいただいてきました」
簡単なシチューと、パン、チーズ。リンゴ。
今日はまだ、簡単でも炊事ができるから、温かいものが食べられる。
「毒見…しますか⁉」
「いや、いい。レオが全部食べてかまわない」
え、でも…。
「食欲があまりなくてな」
困ったように、殿下がお腹をさすった。そして、再び地図に視線を落とす。
おそらくだけど、襲撃されたかもしれない村や砦を心配しているのだろう。昨夜からずっと張り詰めた表情をしている。
だけど、このまま何にも食べないでは、殿下の身体がもたない。
(こうなったら…)
えいっとばかりに、よそったシチューを殿下の目の前に突き出す。
「おいっ、レ…、っん‼」
半ば強引に開いた口に匙を押し込んだ。驚きながらも、殿下が口の中のものを嚥下する。
「少し召し上がってください」
怒ったようにお願いする。
「今、殿下に倒れられたら、どうしようもないんですから」
この国を守れるかどうかは、殿下の肩にかかっている。食べて、英気を養ってほしい。
二口目をよそい、顔に近づける。
「…わかった。わかったから、匙を下ろせ」
降参とばかりに、殿下が両手を上げた。それから、シチューに手を出す。
「これで、いいか⁉」
シチューを頬張った殿下が言った。
「あと、このパンとチーズ、リンゴも召し上がってください。剥むいてあげますから」
調子にのって追加注文する。
「…レオが女だったら、かなりの世話焼き女房になりそうだな」
モゴモゴと、シチューを口に運びながら殿下が不満をたれた。
いや、「世話焼き女房」って。女だし。
「従者は、主の身の回りの管理が仕事ですから」
そうよ、そうだよ。世話焼きが仕事なんだもん、しょうがないじゃない。
シチューを食べ終えた殿下に、剥きたてのリンゴを一かけら手渡す。
シャクッと殿下がかじる。
「レオ」
次を用意しようとしてた手を止め、殿下を見る、が…。
(――――――――っ!!)
口に咥えたリンゴの先を、私の口に押し込まれた。
一つのリンゴを、二人で食べてる状態。
イヤイヤイヤイヤ。ナニコレ!?、ナニコレ!?状態。
殿下、顔近いっ!! 焦点合わなくなるほど近くに、殿下の青い瞳っ!!
こんなの、まるで、まるでっ!!
「おい、アル、邪魔するぞ~」
天幕の入り口が開くと同時に、バルトルトさんがノソッと入ってきた。
「………お楽しみ中か⁉」
ボソリと呟かれる。
邪魔したな、とバルトルトさん。
イヤ、どう見ても、そりゃ「キス‼」の場面に見えたかもしれないけど。
違うっ!! 違うんだってばっ‼
リンゴを齧りとるとダッシュで、出ていこうとするバルトルトさんを追いかけた。




