第14話 おにいちゃんの、みかた。
ねえ、おにいちゃんはどうしてないてるの⁉
おとうさんにしかられたの⁉ おしり、ペンペンされたの⁉
なんか、わるいことでもしたの⁉
してないなら、なくことないよ。
もしかして、だれかにイジメられたの⁉
なら、アタシがおにいちゃんをまもってあげる。
おにいちゃんをなかせるヤツは、アタシがおこってあげる。
アタシだけじゃないよ。おとうさんだって、おにいちゃんのためにおこってくれるよ。
アタシたちは、なにがあってもおにいちゃんのみかただよ。
どうしてかって⁉
う~ん。あのね。アタシ、おにいちゃんがだいすきだもんっ!!
だいすきだから、みかたなのっ!!
だから、ひとりでなかないで⁉
おにいちゃんがなくと、アタシも…かなしいよぉ。
* * * *
「あ…」
ここ、どこだろ。
知らない部屋、知らない寝台。
辺りは暗く、ここがどこなのか判別がつかない。
「気づいたか」
「殿下…」
かけられた声に、意識がハッキリしてくる。
よく見れば、そこは辺境村近くの砦。殿下の寝台の上だった。
ノソリと身体を動かすと、衣装はまだ村娘のまま。あの会談のときのままだった。
「疲れが出たんだろう。無理するな」
起こしかけた身体を、トンと押され、寝台に転がされる。
「今日は大変だったからな」
そう言ってくれる殿下の目が優しい。
けど、純粋に優しいだけじゃない。別の何かも隠されていそうな、そんな優しさ。
(私、こういう目を知ってる…)
遠い昔、見たことがある。優しいのだけど、優しさの向こうに、寂しさも含まれている瞳。自分の感情を殺して、相手をいたわってる。そんな感じの目。
「あの、会談はどうなりましたか⁉」
何を尋ねればいいのかわからなくって、気になっていたことだけを口にした。
「ああ、無事に終わったよ」
あんな出来事があっても、両国の平和は保たれるということだろうか。
「あの一件に関しても、ローレンシアは、ローレンシア皇帝は無関係だろう」
「ローレンシア皇帝!?」
どうしてそんな相手国のトップの名前が出てくるんだろう。
「ああ、あの辺境伯だがな。あれは、ローレンシアの皇帝、フォルクハルトだぞ」
「ええええっ⁉」
皇帝直々に⁉ 会談に参加してたの⁉
「黒髪の皇帝。アイツの、あの黒髪は先祖返りの結果だからな。結構有名な話だぞ。ローレンシアでもあそこまで見事な黒髪は、そうそういるもんじゃない」
偉大な先祖に似た容貌…ということなのだろうか。だとしたら、そんな有名な容姿で、隠すこともせずに、堂々と会談に参加してくるなんて。
「大胆…ですね」
「まあな」
殿下が苦笑する。
「下手に人を介して物事を押し進めるより、このほうが、何かとやりやすいから問題はないがな」
確かに、トップの二人が直接会って話したほうが、事は運びやすいだろうけど。
「あ、でもご先祖さまに似てるっていうのなら、殿下も負けてませんよね」
だって、あのルティアナ建国の王、偉大なアルカディル英雄王にそっくりなご容姿なのだし。
「そうだな」
殿下のお声に元気がない。あれ!? なんかおかしなこと、言った⁉
「お前、アルカディル王を見たことあるか⁉」
ううん。さすがに、お会いしたことなど、一度もない。
「ものすごくよく似ている、瓜二つだそうだぞ。気味悪いぐらいにな」
プルプルと首を振った私に、殿下が笑いかける。
けどそれは、似ていると言われ、喜んでいるようではなかった。
――どちらかというと、自虐的な笑み。
(英雄王に似た容姿と言われても、うれしくないのかな⁉)
気味悪いぐらいって、言ったし。殿下は、ご自分の容姿、好きじゃないのかも。
先祖がえりを隠さない、ローレンシア皇帝とは対照的だ。
「あ、でも、ボク、殿下のご容姿、好きですよ。とても、ステキです」
濃い金色の髪、深い青色の瞳。
なんの芸もない、栗色の自分の髪にくらべたら、すごく華やかで、殿下らしいと思う。
「…ありがとう」
軽く殿下が、目を閉じた。私の言葉を反芻はんすうしてるみたい。
「お前にそう言ってもらえるなら、この容姿も悪くないか」
グイッと顔を近づけられる。
とたんに意識する、今、自分がいる場所。
あわわわっ。マズい、その気にさせちゃった!?
伯母は喜ぶかもしれないけど、私はまだ、気持ちの準備が出来てない。
励まそうと思って、容姿を「好きだ」と言っただけで、そういうつもりは毛頭なかった。
ちょっ、ちょっと待って~‼
ギュッと目をつむっていると、ポンポンと頭を撫でられた。
………あれ⁉
「明日は王都に戻る。今日は、このままゆっくり休め、レオ」
一瞬、その空気になったような気がしたけど、あれ!? 気のせい!?
「オレは、バルトルトたちのところで寝る。じゃあな」
スイッと殿下が離れる。
私は、このまま、殿下の寝台で休んでいていいようだけど。
「あっ、あの…‼」
扉を開けかけた殿下に声をかける。
「わたっ、いえ、ボクは、殿下の味方ですからっ!!」
言いたかったことを、どうにか口にする。
あんな風に生命を狙われて、平気な人はいない。あれが、ローレンシアの仕業だろうと、そうでなかろうと関係ない。
「死ね」と願われて、傷つかないはずがない。
だから、せめて、自分だけは、殿下の味方だと、…ううん。殿下の味方は私だけじゃない。バルトルトさんだって、イリアーノさんだって、殿下の味方だ。
殿下が困っていたら、助けてあげたい。
私なんかがって、おこがましい気がするけど。それでも、守ってあげたいと思う。
「レオ…」
扉に手をかけたまま、殿下が大きく目を見開いた。こちらをふり返り、ジッと動かなくなる。
………⁉ あれ⁉ 私、何かおかしなこと、言った⁉
「あ。すみません。出過ぎたことを言いました」
従者ふぜいが、味方なんて、笑っちゃうよね。
「いや。頼もしいよ」
殿下が笑う。とてもキレイな笑み。
「じゃあな。しっかり休めよ、レオ」
パタリと扉が閉じられる。
一人残された部屋の中で。
(はあぁ……)
何度もため息をもらした。
だって。
(殿下、カッコよすぎ…)
最後に見せられた笑顔が目に焼きついて離れない。
なんだろう。胸がものすごくドキドキする。顔が熱い。
休めと言われたけど、とうぶん寝つけそうになかった。




