4 君と幼馴染みを卒業
「…あー、どうしよ。やばい。」
くいっと傾げた首にこちらを伺うくりくりした瞳。
「…何が?」
初めて感じる、胸の高鳴りに混じった、幸福感のある心地よさ。
「今めっちゃ、…小夏にチューしたい。」
自分の言葉一つでぼっと顔をさらに赤くする小夏。…なんていじらしいんだろう。なんで気付かなかったんだろう。
「うううっ、この色魔め!だいちゃんが私に骨抜きになるまで絶対させてあげない!」
この意地っ張りで小さな天使はどれだけ自分のことが好きなんだろう。こんなに自分は意気地なしなのに、小夏はそこまで見通して、それでも嘘偽りなくまっすぐな愛をくれる。
「なんで?両想いなんだからいーんじゃないの?」
「!」
真っ赤な小夏を揶揄うのはこの上なく楽しいが、俺もちゃんと、応えてあげよう。
「ね?」
これまで自分が不甲斐ないために、無視して傷つけてしまった分。
「ね?じゃないし!乗り換え早すぎだし!だいちゃんの気持ち聞いてないもん!」
膨れていても小夏は大智を的確に煽ってくる。くるみが庇護欲を掻き立てるタイプだとすれば、小夏は加虐心を擽るタイプで、大智には恐ろしく魅力的に映る。
「あ、やっぱり言わなきゃダメ?」
「ダメです。」
ふくれっ面も良いけど、そろそろいつものように隣で健気に笑う小夏が見たい。
「…小夏、好きだよ。」
これでいい?と抱きしめると俯いたまま胸を両手で力いっぱい押してきた。もちろんしっかり腰を抱いているので小夏が腕の中で足掻いたところで抵抗にもならないが。
「〜〜〜ッ!!わ、私が待たされた分、せいぜいだいちゃんも苦しめばいい!」
強く引き寄せると腕が曲がり、小夏は押すのを諦めてポカポカ攻撃に移った。そんなことをしても加虐心を掻き立てるだけだ。
「それってどのくらい?」
期間によってはこの愛しくてしょうがない幼馴染みに従ってあげようと思った。それに、実際いつから自分のことが好きだったのか単純に気になった。
「10年は確実!!」
「そんな前から!?」
こくん、弱々しく頷く小夏。どうやら本気らしい。
「…困ったなー、10年後だろ?…26歳?その間禁欲とか絶対無理だしなー、誰か後腐れないヤツ……」
「だめ!!!だいちゃんは私の!そーゆーのは今後一切、私以外とするのは、禁止です!」
はあ…当然、全部冗談だが、小夏が自分にこんなに必死になってくれるのが嬉しくて。
「そーゆーのって?」
ダメだなあ、俺。大事にしないとって思うのに、小夏をいじめたくて仕方ない。
「…チューとか、ハグとか!」
「じゃあエッチはいいんだ?」
これ以上ないくらいリンゴみたいな顔になる小夏。
「〜〜〜ッ!!だいちゃんのいじわる〜ッ!」
羞恥心からか泣き出しそうになってしまった小夏に、さすがにやりすぎたかと反省する。
「ごめんごめん、俺も…小夏としかしたくない。」
「…ほんとに?」
…ああやばい、約束するからそんな目で見るな!もう今すぐ持って帰りたい…!!
「当然。…だから、チューしていい?」
小夏の家はお向かいだけど、そうなったらこのまま一晩中…明日の朝まで可愛がり倒した挙句、しばらくは帰してあげられないだろう。
「やはりそれが狙いか!許さん!」
がばっと大智を見上げる小夏。
…やっと、こっち向いた。スキあり___
ちゅ、と小夏のちいさい唇を覆うようにキスをして、瞬きと同時に涙が零れてきた右目に軽く口付ける。
小夏の身体が強張るのがわかって、初々しいなと思いながらそれすら愛おしくて、もう一度口を塞ごうとすると、
「は、初めてだったのにーーーッ!!!」
いよいよ恥じらいからの怒声を上げたかと思うと、えぐえぐと更に涙が溢れてきて。そんな小夏に言いようもなく満足している自分がいることに驚いた。
腰に回していた手でぽんぽんと背中をさすると、両手で涙を拭いながら、伏せ目がちに爆弾発言を落とした。
「でも、…大智にされるのは、うれしい。」
控えめに顔を上げて泣き笑い。
ちょっと…可愛すぎるんだけど、しかもここで名前呼びとか…何これ何の拷問?
大智が照れる要素を盛り込んだような小夏(小悪魔)を前に、大抵のことは涼しい顔をしていられる大智も屈服した。
今、面白いほど赤い自信がある。初めてかんじるくらい顔に熱が集中している。
突然身柄を解放された小夏は、両手で顔を隠す大智を神妙な面持ちで見つめる。
「___やっべぇ、お前、今こっち見んな。」
「?」
本人は全て、無意識みたいだ。
なんて末恐ろしいんだろう、でもそういうのは全部俺だけが知ってればいいと思った。
「___はーい、いちゃいちゃするのはそこまでー。」
ん?
途端、道の脇の茂み辺りが騒がしくなった。
そこからわらわらと出てきたのは…大智と小夏のクラスのメンバー。
「…って、お前ら何でここに居んだよ!?」
さっきのを全部見られていたのかと思うととんでもなくハズい。小夏の方を見ると、心ここに在らずといった状態だった。
「そりゃ当然我らが学級委員小夏様があまりに哀れだったからに決まってるでしょクズ。」
出てくるや否や非難轟々である。
「クズって…!それはないだろ!」
反論すると、よくつるんでいる杉谷にお前はまず小夏様をやきもきさせた10年分反省しろと喝を入れられた。
「だいたいお前は気付かなかったかもだけどな?小夏様には中学の時からその大和撫子っぷりを讃えるファンクラブがあるほどなんだ。そんな小夏様を大智はなおざりにし続けてきたんだぞ?既にお前を是とするか非とするかで派閥ができてて、男女問わずお前を非難する声も多い。」
わかったらせいぜいおとなしく小夏様を守っておくことだな、と大智の肩をたたく。
今回の件に関しては俺が悪かったと思うので、おとなしく従うことにした。
それから手を繋いで家に帰ると、小夏の家の玄関にコウちゃんが仁王立ちしていた。そういえばコウちゃんがブラコンなことを忘れていた。大智といえど小夏に妙なマネをしようもんなら…覚えとけよと凄んで釘を刺されたので、これからはコウちゃんをお兄さんと呼べるように誠意を持って小夏さんを幸せにしますと返すと、コウちゃんは満足げに微笑んで家に入っていって、隣の小夏はまた真っ赤になった。
…ちょっとプロポーズっぽかった?と思ったが、まあ良い。そう遠くない未来に、ちゃんと小夏が泣くくらいすごいプロポーズをしてやろうと思う。
あ、そういえば、今年はまだ小夏からチョコレートをもらってない。
長さが恐ろしくまちまち…すいません…(泣)
チョコレートはリア充にも非リアにも平等に甘いので、あげたりもらったりするあてがない人もぜひちょっと高めのチョコレートを食べて楽しみましょう。
ハッピーバレンタイン!
追伸、よければ、非リアな私に感想をください!(泣)