現実は厳しいようです。
そんな三人に若干呆れた目を向けると、サッと視線を逸らされた。
でもまあ、デリカシーがないわけじゃない3人がこう言うって事はなかなかなのだろう。
数日前の謁見を思い出すと頭が痛くなるけど……ううん。でももしかしたらあれからマナーくらいは覚えてくれたんじゃないかしら……。
そう期待して走ってきた彼女の方を見て……私は頭を抱えた。
そもそも淑女は走らないわ……ましてや王宮の中で…!!
他にも、レオの事を愛称で呼んでいるのも気になる。多分、レオが許可したとは思えないから彼女が勝手に呼んでいるのだろうけれど…。
そんな事を考えている間に彼女は私達の間近まで来て息を整えてから笑顔を浮かべた。
「おはようございます! 遠くから見つけて、慌てて来ちゃいました! 3人が揃ってるなんて珍しいです……ね…」
そしてその笑顔が私を捉えた瞬間に固まる。
「ご機嫌よう。アリスさん」
きっと認識していなかったのだろう。確かに普段から王宮に住んでいる訳ではないので、私だとわからなくても仕方ない。
「サラ・アーガイル………さん」
「あら。存じ上げて下さっていたようで嬉しいですわ」
確か謁見の間では、レオが私の名前を言ったけど家名までは言ってなかったはず……。多分、ゲームの知識かしら?
「え、ええ…まあ……。そんなことより! 皆さんどーしたんですかぁ? こんなところに集まって」
パチンと手を叩いてレオの隣…つまり私の反対にアリスさんが座る。
「アリス殿、すぐさまそこから退いてくれ」
「えー、何でですかぁ」
「第一王子であるレオナルド殿下の隣に許可なく座る事はマナー違反だ。ましてや、隣にサラ様という婚約者がいる以上…」
そうアルが注意を促すが、アリスはこてんと首を傾けるだけだ。
「それが何か問題あるんです?」
「は?」
「ただの婚約者でしょ? まだ結婚するって決まったわけじゃないし」
あら……それはちょっとまずい発言だわ……。
「君は……僕とサラが結婚しない可能性があると思っているの?」
「だって、まだまだ先はどうなるか分からないじゃないですかぁ。それに親が決めた婚約者だったら心変わりだってする可能性あるし、それにもっと相応しい人が…」
「ないよ」
嬉々として饒舌に語るアリスさんの言葉を止めたのは、怖いくらいに冷たい声をしたレオだった。
「ないよ。心変わりなんて。僕は生涯サラだけを愛し続けるし、サラ以上の相応しい人がいるとも思えない。そして僕自身もサラのためならどんな努力も怠らないから、サラに見合うのも僕しかいない」
顔は笑っているのに、レオが怒っているのをひしひしと感じる。
私が思わず身体が引けそうになると、グッと腰に腕を回された。
「さて。そろそろ僕らはお暇するよ。次の視察先も決めないといけないからね」
「あ、じゃあ私も……」
「来ないでくれるかな? これは僕ら4人の仕事であり趣味なんだ。他人に邪魔されたくないんだよ」
「でも、でもきっと私は将来……っ!」
「あのさぁ。身を引くってこと覚えたら? キミは聖女かもしれないけど、俺たちの関係に口を出したり首を突っ込んだりして良い立場でも関係でもないわけ。いまキミがした不敬罪については見逃してあげるから自分の部屋に戻ったら」
レオの言葉に尚も食い下がるアリスさんは、我慢の限界を迎えたツヴァイに牽制されて言葉を飲み込んだ。
そう、まだアリスさんは貴族ではない。
普通の市民であり、貴族や王族に対してこんな態度は許されないのだ。それを聖女だからと見逃してもらえるほど、世間は優しくなかった。
「さあ、3人とも行こうか」
そう言って立ち上がるレオにエスコートされ、さらにアルとツヴァイに囲われるようにしてその場を離れさせられた。
ふと振り返った時に見えたのは、憎々しげにこちらを睨む少女……。
これから先、穏便に事は済まないだろうと、私は嘆息した。




