奇遇ですわね
「私、怒ってませんもの」
そう言うと、ツヴァイ殿下は弾かれたように頭を上げた。おそらく思わず…と言ったところで、顔には困惑が張り付いている。
「怒ってない…? 俺はアーガイル嬢を見くびって失礼な物言いもしたのに…?」
「確かに、妄言として片付けようとされた時はカチンと来ましたが……まあ、怒ってはいませんわ。その後のレオで毒気抜かれましたし」
ふふ、と笑うとツヴァイ殿下の顔から少しだけ困惑が剥がれる。
「だから許すも何もないのです。私は怒っていないのですもの。でも、ツヴァイ殿下の謝罪のお気持ちは受け入れますわ」
それに、煽るように踏み込んだのは私が先だ。
「その上で、私からも謝罪させてくださいまし。殿下のお気持ちへ踏み込んだこと、大変申し訳ございませんでした」
「いや……それに関しては、今、俺は感謝してるんだ。謝る必要なんてない」
下げた頭の上で、ツヴァイ殿下が慌てているのがよく分かる。……そう、彼もまだ子供なんだ。そして私達も前世の記憶があるとはいえ、子供。大人の世界では通じないこともあるが、今はこれで充分だ。
「では、お互い様ということで…。改めまして、この度レオナルド殿下の婚約者となりましたサラ・アーガイルと申します。よろしくお願いしますわ、ツヴァイ殿下」
そう言って仲直りの意味も込めて手を差し出すと、少し涙目になったのをグッと飲み込んだツヴァイ殿下が握手を返してくれた。
「ツヴァイだ。呼ぶ時も…公の場では難しくても、普段はツヴァイで良い。その、親しみを込めてサラ嬢と呼んでも…?」
「もちろんですわ! よろしくお願いします、ツヴァイ」
最初に呼ばれた時は親しみなど感じなかったが、今回はそのニュアンスに優しいものを感じて微笑むとツヴァイもにっこりと笑顔を返してくれた。
「さて! これで仲直りは完了かな。それで…ツヴァイ。君を僕と比較して卑下したのは誰なんだい?」
「………え? え、それは…え、まさか本当にさっき言ってたこと…しない、よな…?」
普段より硬いレオの声に、ツヴァイが引き攣った笑顔を浮かべる。
「そりゃ、可愛い弟をイジメたんだから……それなりの罰は受けてもらわないと、ね」
………あら、レオったら目が笑ってないわ。
「罰って…大袈裟だよ。俺は別に怪我したとかじゃないんだから」
「じゃあ言い方を変えようか。ツヴァイ。君は僕の弟であり、第二王子だ。教師は教える立場だから多少物言いが厳しくなっても仕方ないが、人格否定は頂けない。それは教師という枠を超えた行為じゃないかな」
「それは……まあ、確かに…?」
「まあ、僕も別に首にしろって言ってるわけじゃないさ。僕自身がツヴァイの家庭教師に対して処罰を下すのも越権行為だからね。ちゃんと手順を踏んで、お叱りを受けてもらうだけだよ」
「う……それなら、まあ……」
それなら良いでしょ。とばかりなレオに、ツヴァイも反論できないのか渋々頷く。
こういう言い方はあれだけど……この子、根が良い子だわぁ…。良い子過ぎてお姉さん心配になっちゃう。
確かにツヴァイは王族に向いてないかもしれない。それはレオと比べてどうこうとかではなく、根が優しい。それは美徳だが、情を切り捨てた判断をすべき時に出来ないのであれば王族には向いていないと思う。
「それに、正直腹が立ってるんだよね。ツヴァイを蔑ろにされたこと」
こっちはこっちで私情入りまくりだが……まあ、一応正論は掲げてるし、知った以上看過は出来ないのである意味向いてるんだろう。
「まあまあ…。レオは私情入りまくりですが、きっとやり過ぎることはないと思うので、任せてしまいましょう」
「…やり過ぎないよな、兄さん」
「努力するよ」
爽やかな笑顔で頷くレオだが……
「……俺、初めて兄さんの笑顔が胡散臭いって思った…」
「奇遇ですわね。私もです」
多分この人、ちょっとだけやり過ぎるつもりでいるわ……。
いつも読んでいただきありがとうございます!
久しぶりにサラ目線に戻ってきました。
実はサラ目線よりも他のキャラのほうが書きやすかったりします。




