★何よりも自分らしく(ツヴァイ視点)
『弟には変わりない』
半分しか血が繋がってなくても。
側室の子でも。
迷いなく兄上は俺のことを、弟と言ってくれた。
「俺は、兄上の弟なの…?」
俺は、兄上にとっての弟でいても…良いの?
そういった意味を込めて訪ねると、兄上は困ったように眉を下げた。
「……え、ごめん。お兄ちゃんになりたかった? さすがにそれは今から変えるのは……はっ! もしかして心は女の子的なやつだった? それなら僕はツヴァイの事、妹として扱…」
「弟! 弟で合ってるから! 俺は兄ちゃんの弟でいたいから大丈夫!」
突拍子もない方向に勘違いし始めた兄を止めるために叫ぶと、ぱちくりと瞬きをした兄上がふっと口元を緩ませた。
「久しぶりに“兄ちゃん”って呼んでくれたね」
「あ……」
そういえば、久しぶりに呼んだかもしれない…。昔はずっと「兄ちゃん、兄ちゃん」って後をついて回って……。でも貴族らしくないって叱られて、兄上の真似をするようになってからは兄と……兄上と呼び始めたんだ。だけど…
「~~~はっずかしい……」
さすがにこの年齢になって兄ちゃんって呼ぶのは照れがある。しかもここ数年はずっと兄上って呼んでたのに…。
「僕は兄ちゃんでも良いよ。兄上って呼ばれるよりもそっちの方が好きだし」
精神的にダメージを負っているところに、笑顔で掘り返してくるな…。しかも多分、悪気ないやつだ。期待して見つめてくる目が、キラキラと輝いている。
「………兄さん」
数秒考えて、出てきたのはそれだった。
「兄ちゃん」
「いや、無理だから! さすがに恥ずかしいからっ! 妥協はここまでしか出来ないからな!」
なんで兄ちゃんにこだわるんだよ! 兄さんでも良いじゃんか!
変なところでこだわりを見せた兄上……兄さんに譲れるのはここまでだと伝えると、唇を尖らせてブーと声を出している。
「ブーじゃねーし…。兄さん、そんな性格だったっけ…?」
あまりにも子供っぽい仕草に少し呆れて言うと、いつも通りの優しい笑顔を浮かべて隣にいるサラ・アーガイルへと目線を動かした。
「うん。最近ね…僕も自分らしくいようと思って。今まで特別好きなものも嫌いなものも作ってこなかったけど、心底好きなものに出会ってしまったからね。この色付いた世界の為に、僕も自分の気持ちを大切にしようと思ったんだ」
「………そっか」
そう語る兄さんから、本当に愛おしく思っているのだと伝わってくる。
王宮では立派に王太子として振る舞っていた兄さん。
でも幼少期よりも子供らしい笑顔が減ったのには気付いていた。それを俺は大人だと思っていたが、きっと兄さんは兄さんで心を摩耗していたんだと思う。
それを変えた、サラ・アーガイル。
最初はムカつく奴だった。王族として相応しかった兄さんを変えた女。
どんな手を使って誑かして、兄さんを恋愛脳に変えてしまったのかと思った。
でも……兄さんが変わった訳じゃなかったんだ。きっとこれも、兄さんの一面。それを見ないように…見えないように蓋をしてたのは俺達だった。
それを取り払ったのは、紛れもなくサラ・アーガイルだ。そして今、兄さんは生き生きとしている。
顔合わせが決まった時に、俺は見極めようとしていた……どんな女なのか。
もし兄さんを誑かして王族に取り入ろうとするような奴なら、きっと俺の事も利用するだろうと踏んで尻尾を掴めないかと思った。けれど実際は……
『なぜレオナルド殿下に似せた喋り方をされていらっしゃるのですか?』
その一言に、俺の方が凍りついた。
誰も気付かなかった。誰もが受け入れたソレを指摘され、心がヤバい。と叫んだ。
このままだと、見透かされる。
こちらを見つめるアメジストの瞳が心の中を見通しているようで恐怖を感じた俺は、拒絶しか出来なかった。
そこに敵意などなかったのに。俺は、自分を守るために敵意を向けてしまった。
「……サラ・アーガイル嬢。先程までの無礼、許してくれとは言わない。大変申し訳なかった」
王族らしくなくても良い。俺はアーガイル嬢へとしっかり頭を下げた。
「ツ、ツヴァイ殿下! 頭を上げてください、王族がそんな…」
「いや、王族だから頭を下げてはいけないなんてものは間違ってると俺は思う。間違いを起こしたら謝るのが筋だ。王族だからと免除されて良いはずがない。本当にすまなかった」
慌てるアーガイル嬢を遮ってそう言うと、頭上で困惑する気配を感じる。
「サラ。僕もツヴァイと同じだ。王族だからと謝らないのは間違いだし、無条件で許されるのも間違いだと思ってる。その上で、サラ……君はどうする?」
「どうする、と言われましても……」
ふう、と溜息をついたのが分かった。
「私、怒ってませんもの」
誤字報告、ありがとうございます!
気付くのに遅れてしまいましたが、修正させていただきました。
次回よりサラ目線に戻ります。




