★それを人はヤキモチと言う(ツヴァイ視点)
あんな兄上、見た事がない…。
胸中にあるのは、動揺だった。兄であるレオナルドは人当たりが良く、勉強も出来て非の打ち所がない。昔からずっと、比べられてきた存在…。
『レオナルド殿下は大人しくて優秀ですのに…』
『兄上様はもっと早くにご理解していらっしゃいましたよ』
『またこんなに泥だらけにされて…! 少しはレオナルド様を見習ったらいかがですか!』
耳が痛くなるほど聞いた言葉たちは、いつから俺を狂わせただろう。
兄の事は嫌いじゃない。本来なら疎ましいはずの俺に対しても優しくて、普通に接してくれる。みんなが兄のことを好ましく思う気持ちもわかる。俺だって……普通の兄弟だったらもっと素直になれたんだ。でも…
俺は、代用品だから。
なかなか子供が出来なかった王妃様に代わって、俺の実の母親は側妃になった。このまま跡継ぎが出来ないのは問題だということで、白羽の矢が立ったのだ。
だが、しばらくして王妃様の懐妊が分かり……その半月後、母親も懐妊していることが分かった。
実際、兄のほうが少し予定日よりも早く生まれたため誕生日は一ヶ月近く変わるが、ほぼ同時期に生まれた俺達は同じように育てられた。
でも、当たり前だが何をしてもやはりレオナルドの方が先だった。
寝返りを打つのも、ハイハイも、掴まり立ちも、言葉を話すのも……
俺はずっと、二番手。成長してからも、レオナルドに勝てるものはなかった。
それで良いと思ってたんだ。
俺は王位は継がない。継ぐ気もない。それに優秀で優しくて明るい兄が自慢で、俺は大人になったら王位を継いだ兄を支えようと思ってたんだ。
でも、周りが許さなかった。
なにかあればすぐに比較され、俺は気付いたんだ。
あぁ…俺は要らないんだ。みんなが欲しいのは、王太子の代用品なんだ…。
そう気付いてから、俺は『レオナルド』を真似し始めた。
外で走り回ることを辞め、図書室で勉強し、大きな声で話すことを辞め、穏やかに話すようにした。
周りは驚きながらも、手のかからなくなった俺に文句を言うこともなく快く受け入れた。
唯一、兄だけが心配をしてくれたが、大丈夫だと言い聞かせるうちに何も言わなくなった。
「これで良かったんだ」
そう言える頃には兄の模倣も上手くなり、王宮も少しだけ居心地が良くなってきた。元々父上も俺や母上に対して配慮してくださっていて不遇な処遇に合うこともなかったが、それでもずっと比較され続けるのは辛かったから。
だから、本当の俺を殺してでもこうして良かったんだ。
何度も何度も、胸が締め付けられる度に自分に言い聞かせた。
大好きで尊敬している兄だから、真似するのも辛くない。だから、いつでも代用品になれるようにずっと兄のことは見てきた。
なのに……
「あんな兄上、見たことがない……」
ボスンとベッドに寝転がると、先程の光景が思い起こされる。
あんなに楽しそうに、年相応になにかを語る兄を見たことがない。
それを引き出したぽっと出の婚約者を思うと、胸の辺りがムカムカするような、チリチリとするような感覚に陥って衝動をどこかに投げ付けたくなる。
「……ダメだ。兄上ならそんなことはしない。落ち着かないと…」
お茶でも飲んで落ち着こう。そう思って起き上がると、コンコンコン、と、ノックの音が響いた。
いつも読んでくださりありがとうございます。
ツヴァイ視点ですが、本編として進むので閑話ではない回です。次回もツヴァイ視点から始まります。




