アラサーは強いんです
「え、どういうこと…?」
本当に分からないようで、目の前のレオは首を傾けている。
「あのねぇ、今までツヴァイ殿下の前でどんな性格してたのか知らないけど、いきなり兄が婚約者をベタ褒めしてみなさいよ。少なくとも、設定では彼は兄であるレオに劣等感を抱いていたのよ? つまり、自分よりもすごいと思っていたの。そんな彼の中にあった“レオナルド殿下”のイメージと違いすぎてショックを受けたのよ…」
部屋から出ていく彼の足取りは覚束なく、背中には哀愁が漂っていた。
これは予測の域を出ないけど、ツヴァイ殿下はレオの事を慕っているんだと思う。でなければ…嫌いだったら、あんなにレオそっくりに振る舞ったりはしない。
「確かに、ツヴァイの前に限らず今までの僕は優秀な王太子であろうとしていたけど…そんなにショックを受けるほどかなぁ」
「………まともだと思ってた兄が急に壊れたように婚約者ベタ褒めしたらショックは受けるわね」
少なくとも私なら、キーゼルバッハがどうこう言い出した兄は見たくない。
「そうか…。それは悪いことをした」
そう言って肩を落とすレオ。……でも、それもレオの一面であることは変わりない。
「レオ…。あのね、レオ。でも私はそれが悪いことだとは思わないわ」
「どういうこと?」
「さすがに衝撃は大きかったと思うけど、ツヴァイ殿下にとって悪いことではないと思うの。彼はレオを良く見すぎているし、レオは良く見せようとしすぎてる。それに、今のツヴァイ殿下はそのままにしておけないわ」
よく見せるのは彼らにとっては必要だけれど、それは対外的なもので、兄弟間でそれで苦しんでしまうのはよくない。少なくとも私はそう思う。
「今のツヴァイをそのままにしておけないって…どういうこと? さっき話して、なにかわかったの?」
「レオは……。いえ、それよりもツヴァイ殿下は昔からあんな感じだったの?」
「あんな感じって…性格のこと? うーん…少なくとも二年くらい前からかな。それまでは普通の活発な子だったよ。王族としては落ち着いて欲しいって声があったから悪いことではないと思っていたけど…」
「そう……」
それならやっぱり、今のツヴァイ殿下は無理をしてるんだと思う…。
「レオ……私、今悩んでる。このまま一度帰って、ツヴァイ殿下が落ち着いてから出直すか。それとも、このまま彼と話をするか…」
クッと顔を上げて、レオをまっすぐ見つめる。踏み込まないといけない。けど、今の彼に独断で踏み込めるほど、私は強くない。
強くないからこそレオを伺いみると、彼は優しく目元を緩めると、ぽすん、と私の頭に手を乗せた。
「ありがとう。僕ら兄弟のことを考えてくれて。僕も正解は分からないけど、行こう。ツヴァイのところに」
そのまま、優しく頭を撫でられてなんだか気持ちがくすぐったくなる。
「でも…大丈夫かな」
「大丈夫だよ。サラはサラのしたいようにして良い。僕がついてるから。それに…」
そのままイタズラっ子のようにニヤリとレオが笑う。
「アラサーは図太いんだよ。多少の事じゃめげない。…でしょ?」
きっとそれは半分は冗談。でも私は、なんだか湧き上がる笑いを堪えきれなかった。
「……ふっ、ふふ、そうね。そうだったわ」
10歳でアラサーというのもなんだけれど。でも、確かに私は前世の記憶があって、そこではアラサーだった。
たった26年。それでも私は確かに世間と戦っていた。夢追い人への視線。そして飲み会でのコミュニケーションと名を打つ、セクハラ紛いの発言。他にも挙げたら切りはないが、私はそれらに屈しまいと戦っていた。めげなかった。
きっと、誰もが理不尽と戦っていたと思う。そういう世間の物差しとの戦い。
「年齢合わせたらアラサーどころかアラフォーだもの。ちょっとくらい図々しくても良いわよね…?」
チラッとレオを見ると、彼も頷いてくれる。
うん。めげない。レディーなら大人しく引き下がる所だけれど、私はアラサーの記憶があるんだから。それに私は次期国王の婚約者で、普通のレディーじゃないんだから、こんなことで引き下がってたまるもんですか!
そう心に言い聞かせて、私とレオはツヴァイ殿下の部屋へと向かった。
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