初代聖女は、すごい人でした
すみません。予約したはずが投稿されていなかった為、こんな時間ですがあげます。
結局アルが何を言いたかったのか分からないまま、私たちはその後、市場をある程度見てから近くの喫茶店へと入った。
割と人気があるカフェらしくなかなか大きな店構えで、一階と二階にテラス席が用意されている。一階はベーカリーが併設されていて、サンドウィッチなどの軽食を安価に楽しめるカフェに。二階はケーキなど少し高価なものを楽しめるようになっていて、私達は二階のテラス席へと案内された。
「今日は風が心地良いから、ここは特等席ね」
眺める街並みは活気に溢れていて、雑踏の音が耳に心地いい。
この国は豊かで食べ物の種類も豊富にあり、治安も良い。ゲームのエト学自体が平和な作りとなっているので、今思えばそのゲーム効果なのだろうが……サラとして生きてきた私は、代々の王族がどのようにして王国を発展させてきたのかを学んでいた。
今は平和だが昔は戦争が多く、土地自体があまり良くなかった為、周辺国と食料や水を奪い合っていたそうだ。その食料も土が良くないので育ちが悪く、川の水も下水道など整備されていない為、決して清潔とは言い難かった。
しかし、ある時にどこからか聖女が現れた。聖女が祈りを捧げるとやせ細っていた土地は生き返り、水は浄化され、植物は凄まじいスピードで成長して飢えていた国民を救った。
飢えがなくなり土地が肥えた諸国は聖女を崇め奉り、どこの国が彼女を手に入れるかで争うかと思われた……が、不思議なことに戦争を起こそうとするとすぐさま土地がやせ細って行く。
その様子から、彼女は神からの使いだという話が全土を駆け抜け、神の怒りを買ってはならないと彼女を王にして一つの国家を成した。これがグレイグ王国の成り立ちだ。
つまり、この国の初代王妃が聖女である。
その後も数十年に一度、不思議な力を持った女性が現れると聖女として国が保護してきた。
ヒロインも種からすぐに花を咲かせられる力が発覚して保護されるのだが…。
ただ、特に役に立っていた描写はないのよね…。
そう、ゲームの中では特に役に立っている描写はない。魔法がないこの世界で不思議な力を持っている為、力を得たい周辺国の密偵に攫われそうになったりはするが種が植えられる土がなくて力が使えないまま攻略キャラが颯爽と助けてくれるので、描写としては
「この国がいつまでも豊かであるように、頑張ります!」
とか
「満開のお花は、私からのお礼の気持ちです!」
とか。特に国が危機に陥ったりはしないのでそういう平和なシーンでしか使われていなかった。
本当に、甘々な学園ラブストーリーなのだ。エト学は。豪華な声優陣と、ひたすら甘やかしてくれる男性陣にキャーキャー言うゲームで、たまーにヒロインが危険な目に遭うくらいの平和なゲームだった。
魔王とかドラゴンとか出なくて良かったわ…。破滅フラグ立たせないだけじゃなくてそっちの心配までしてたら、ハゲそうだもの…。平和でよかった。
そう思って遠い目をしていると、目の前にヒョコッとレオの顔が現れた。
「なに百面相してるの?」
「えっ! いえ…平和だな、と」
そう言っておほほ、と笑うと「なにそれ」とレオも笑った。
「ところで、なに頼む? 結構種類あるよ」
目の前に差し出されたメニューに目を落とすと、確かに思ったよりもケーキの種類が豊富だ。チーズケーキにイチゴタルト、シフォンケーキにくるみのパウンドケーキなどもある。
「これは…思ったより悩むわ…。飲み物は紅茶で良いとして…シフォンケーキも気になるけど、イチゴタルトも捨てがたいわ…」
うぅん、と悩んでいると、目の前のメニューがスッと遠のいた。
「じゃあ、僕がシフォンケーキ頼むからタルトを頼みなよ。半分こしよう」
「良いの…?」
「もちろん。そうしたら両方食べられるでしょ」
レオの提案に思わずこくこくと頷く。これは前世でやっていた、シェアってやつね…!
「あ、そしたらアルもどうかしら? そしたら三人で色々食べられるわ!」
きっとそれは楽しいと思ってアルの方へ向くと、困ったように眉を下げた。……困った時に眉が下がるのは彼の癖ね。
「すみません…。甘いものが得意じゃなくて、その…紅茶だけにしようかと…」
「あ…ううん、無理しないで大丈夫よ! 苦手なものを分け合おうなんてしないわ。じゃあ……あ、キッシュがある! これとかどう? 野菜だから甘くないし、アルも食べられると思うの」
そこまで言って、ハッとなった。
「その…お腹が空いてれば、だけど……」
無理強いをしてしまったのではないかと思い、言葉が尻つぼみになってしまう。
私は楽しいけれど、アルが迷惑だと思ってしまったらそれは本末転倒だ。楽しいは押し付けるものじゃない。
「いや、その…お腹は空いてるから、サラさ…サラの言うとおり、キッシュにする」
「ほんと…? 良かったぁ」
表情から嫌がっていないのが分かり、ホッとする。その様子を微笑ましげに見ていたレオが、またサラッと通りがかりのお姉さんに注文をしたのが横目で見えた。
「……レオはちょっと、気が利きすぎだと思うの」
「そうかなぁ。頼めるタイミングがちょうどあっただけだよ」
「そう…? なんにしても、ありがとう」
「どーいたしまして。……ところでアル、ちょっと頼みたいことがあるんだけど…」
そう言ってコソコソとレオが耳打ちをして何かを握らせると、アルは頷いて席を立った。
「では、行ってきます」
「え、どこに?」
「ちょっとお使いを頼んだんだ。さすがに僕とサラが別行動するわけにも行かないからね」
「あとで一緒に行けば良いのに…」
「今じゃなきゃ駄目なんだよ。じゃあ、アル。頼んだよ」
「はい」
頷いて去っていく背中を見送っていると、トントンと目の前のテーブルが指でノックされた。
「さて、じゃあ二人になったところで本題に行こうか」




