気分はお祭りです。
「わぁ…! すごい!」
馬車を降りたのは富裕層のエリアの端近く。そこから5分ほど歩くと、そこには市場が広がっていた。
左右には露天が出ており、店先には果物やアクセサリー、野菜やパン等が並んでいる。
雰囲気的にはクリスマスマーケットとかで出ているヒュッテからイルミネーションを取ったような感じだ。もっと某魔法のランプが出てくる作品みたいな市場を想定していたので、お洒落で可愛い。
「サラは初めてなんだよね。どう?」
「可愛い! 素敵っ! どうしよう、今日一日で周りきれるかな?」
「テンション上がってるの可愛い……。今日一日は無理だから、周りきれなかった分はまた今度来ようね」
「うんっ」
なんか余計な事も言ってた気がするけど、気にならない。とにかく、見れる分は全部見て回りたい…!
観光地へと来たような気分に、心が踊る。何から見よう、と考えていると、レオが私の手を取った。
「はぐれないように手を繋いでおこう」
「あ、そっか…じゃあ、アルも繋ご」
「俺は、手が塞がっちゃうから…」
手を差し出すと、鞄のショルダー部分を握りしめたアルが首を横に振った。
そっか…いざという時に手が塞がってたら困っちゃうもんね。
「分かった。じゃあ、はぐれないように固まって歩こ」
なるべく近くに寄って気をつけて歩いていれば大丈夫だろう。そう思ってレオを引っ張ってアルの近くへ行く。
そのまま少し歩くが、なんだかこの感じ、既視感がある…。あれだ、女子高生が団体で歩く感じだ。地元のお祭りで屋台を回るとき、こんな感じだった。
「……焼き鳥、かぁ」
そうなると、レオが言っていた焼き鳥も気になって来た。お祭りといえば焼き鳥、たこ焼き、お好み焼き、焼きもろこし、綿あめにりんご飴。
無い物が多いが、お祭り気分を思い出した今、あるなら食べたい。
「サラも焼き鳥食べたくなって来た?」
「え…?…口に出してた…?」
「うん、出してた」
恥ずかしい…っ!穴があったら入りたい!ないなら穴を掘ってしまいたい!
思いがけず呟いていたことに顔が赤くなっていく。曲がりなりにも公爵令嬢が呟く内容ではない…。
「あの。焼き鳥食べたいなら案内し…するよ。美味しいところ知ってるから」
まだ敬語を抜いて喋ることに慣れていないアルが、たどたどしくも申し出てくれる。
「うー……これはレオが! レオが食べたいって言ってたやつだから…っ! 思い出して、ちょっと気になっちゃっただけだからね…っ!」
食いしん坊キャラだとアルに誤解されては困ると、慌てて弁解すると隣でレオが片手で顔を庇って空を仰いだ。
「照れて慌ててるサラ可愛い…」
「レオーっ!」
「ごめんごめん。じゃあ、アルに案内頼もうかな」
マイペースなレオに怒ってみせると、嬉しそうに微笑まれて繋いでいた手をギュッと握られた。
「割と近くだから…」
そんな私達に困ったように笑うと、アルは先頭を切って歩き始めた。
「ねえ、アルはよく食べに来るの?」
「父と出掛ける時に、たまに…」
「アルの父親は騎士団長なんだけど、豪快な人でね。貴族的なものよりも、こういうフランクな感じが好きな人なんだ」
「へぇ…あんまり想像つかないかも」
どちらかというと線の細いアルから豪快な父親というのは想像がつかない。母親似なんだろうか…。
「外見はソックリだよ。大人になったアルって感じ。ただ中身が外見に合わないんだよね」
思考を読んだかのように新しく情報が与えられる。大人になったアル…つまりはゲームよりも少し老けさせたアルってことよね。
……その姿と豪快な姿が想像がつかない…。
「ここです」
イメージがつかなさすぎて頭を悩ませていると、先陣を切っていたアルがピタリと止まった。
さっきまで気付かなかったが、ふわりとお肉が焼ける香ばしい香りが漂ってくる。
「いらっしゃい! うちの串焼きは美味しいよ!」
「わあ、本当に美味しそうだね。サラは何が食べたい?」
屋台の壁にはメニューが書かれた紙が貼られており、上から鶏肉の串焼き、豚肉の串焼き、牛肉の串焼きと書かれており、その下には塩/香草と書かれている。味付けだろうか。
「じゃあ…鶏肉の串焼きを塩で…」
他のものも悩んだが、今は焼き鳥に敵うものはない。
「アルはどーする?」
「いえ、俺は…」
「せっかくなら一緒に食べましょ。ひとりだけ食べないのは寂しいもの」
遠慮して辞退しようとするアルを遮ると、アルは少し躊躇ってから下を向いて同じもので…と呟いた。藍色の髪の隙間から見える耳が赤くなっている。
もしかしてこの子、ゲームではクーデレだったけど、ただのシャイなんじゃないかしら…。
「じゃあ、鶏肉の串焼きを3本塩でお願いします」
「はいよ! 串焼き3本で、銅貨3枚ね!」
「はい」
ついついアルを観察していると、注文を終えたレオがそのまま支払いをしてしまった。
「あ、私ちゃんとお金持ってきてるから…」
払うよ。と言おうとしたが、レオが首を横に振る。
「レディーに払わせるほど野暮じゃないよ。それに今日は僕のわがままに付き合ってもらってるから、ふたりは気にしないで」
「しかし…」
「アルも、僕の面目を立てると思ってさ」
ぱちん、とウィンクを飛ばしてくる。そういう言い方をされてしまえば、私達は引かざるを得ない。
「まったく、ずるいわね。……ありがとう。レオ」
「ありがとうございます」
「どーいたしまして」
引き下がった私達にレオは満足げな笑顔を浮かべる。本当に…発作とも言えるサラ大好き病さえなければ普通に王子様なんだけどね…。
「はいよ、お待ち!」
そんなこんなしていると、焼かれていたものを再び炭火の上に乗せて温めるだけだったのですぐに焼き鳥は出来上がり、差し出された焼き鳥をアルが受け取った。
「さて、どこか座れるところを探そうか」
そう言ってレオが周りを見渡すので私も周りを見るが……。
「ねえ、普通こういうのって座って食べるの?」
わりと皆、立って食べている。さすがに歩きながら食べるのは転倒した時に危ないからしないが、座って食べている人はほぼ見受けられなかった。
「一般の人はその場で食べることが多い…。冷めると固くなるから。でも」
「それなら私も立って食べたい!」
「そうだね。せっかく温かいなら冷めたら勿体無い」
「いや、でもふたりは……」
立って串焼きを食べるなど王太子や公爵令嬢がする事ではないと止めようとするアルからふたり分の焼き鳥を取り上げる。
「あ…っ」
「郷に入っては郷に従え。こんな経験滅多にできないもの」
「そうそう。その場のルールに従うのも大切だよね。……ん、美味しい!」
私から焼き鳥を受け取ったレオがぱくりと食べると、感嘆を洩らす。
「私もっ」
それに倣ってぱくりと食べると、懐かしい味がした。普段食べているお肉とはもちろん比にはならないが、こういう庶民的な味を求めていたので問題はない。
「んーっ、美味しい!」
懐かしい味にもう一口とかぶりつこうとすると、目の端にポカーンとしているアルが映りこんできた。
「どうしたの? 早く食べないと冷めちゃうよ」
全く口を付けずに焼き鳥を握っているので首を傾けると、アルは少しだけ口を動かして何かを言おうとし…やめた。そのまま口元に焼き鳥を運ぶ。
何か言いたかったんじゃないのかしら…。
ブックマーク&評価ありがとうございます!
生き生きと動き回ってくれるレオサラのコンビとは対極的に、アルは一歩引いてなかなか喋ってくれません。
なので、どこかでアル視点を入れるつもりです。
その時は金土の更新予定日とは別にアップしようと思います。
そして今回から活動報告も書き始めました。
キャラクターや物語の裏話的なものとかで、読んでも読まなくても大丈夫な内容ですが、もしご興味あったら見てもらえたら嬉しいです!




