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ストップウォッチ⏱  作者: やごうまさはる
35/101

第35話

玄関を入ってすぐの右側の壁近くにはサッカー部員が集まって騒いでいた。

その中心には桑田が右手で左腕を抑えながら倒れている。

「どけ、みんな!誰かタオルを持ってこい!ほかのやつは外に出て誰でもいいから大人を捕まえるんだ。携帯を借りて救急車を呼べ!」

英がてきぱきと指示を出し、数人が外へ走った。

緑丘中学校では携帯の持ち込みは禁止なのだ。

そして英は1年生が持ってきたタオルを受け取り、桑田の肩の近くできつく縛った。


「ちくしょう・・・俺はなんてバカなんだ、こんな大事なことを忘れるなんて・・・。」

英の顔は恐怖で歪んでいた。

和人は英が何を言っているのか理解できなかったが、桑田の手首のおびただしい出血と蒼白な顔を見てうろたえた。

(これは一分一秒を争う。早く救急車を呼ばないと桑田は死ぬ!・・・そうだ!)

「俺も救急車を呼んでくる!」

和人は英にそう告げて、玄関へ向かって走りだした。


外に出ると、和人はあたりを見渡し身を隠す場所を探した。

そしてプールとボイラー室の間のわずかな隙間を見つけ潜り込むと、ストップウォッチを鞄から出した。

すぐに2つの「STOP」ボタンを押す。

白い光とともに「Time must stop!」の黒い文字が浮かんだ。


― 時が止まった。


和人は大きく深呼吸した。

「よし。とりあえず民家があるところまで行ってみよう。慌てる必要はない。」

そう言ったものの、和人は思わず走り出していた。

(時計は動いていないが)10分ほどすると、前方に松永の後ろ姿が見えた。

「さすがだな、もうこんな遠くまで来ていたか。でもまだ民家まで5分はかかる。」


追いつくと、松永の顔は苦しそうだった。

きっと全速力で走ってきたのだろう。

「こんな時に限って車が一台も通らないなんてな・・・。」


さらに和人は駆けた。

50メートルほど先に家の屋根が見える。

「あと少しだ。あと少しで電話ができるぞ。」

和人のスピードが上がる。

そしてやっと一軒の民家についた。


「さて、このうちの人、いてくれよ。」

言いながら和人はドアノブに手をかけた。

ガッ。

回らない。

カギが閉まっているのだ。

留守の家に上がりこんで電話をするのは後ろめたい。

「仕方ない、次の家をさがそう。」


和人は、さらに先へ進んだ。

「あった、家だ。」

その家の主らしい初老の男性が庭の花壇にホースで水をまいている。

和人は周りを見渡し、ほかに誰もいないことを確かめると、その男性の後方へ回り2つの「STOP」ボタンを押した。


「すみません、おじさん!友達が大怪我しているんです。電話を貸して下さい。」

和人が後ろから叫ぶと、その男性はびっくりしてホースを放り投げた。

「おわっ!な、なんで後ろにいるんだよ。びっくりするじゃないか!」

「すみません話は後です。とにかく電話を貸して下さい!」

和人の剣幕に押され男性は目を見開き、うんうんとうなずいた。

「わ、わかった。玄関の電話を使え。」

そう聞こえた時には、和人はもう玄関のドアを開けていた。


119番をダイヤルする。

ガチャッ。

「はい消防署です。火事ですか、救急ですか?」

「救急車を、すぐに緑丘中の第2体育館へお願いします!」

「第2体育館と言えば、以前に市民体育館だったところだね。」

「はい、そうです。出血がひどいんです。すぐにお願いします。」

「大丈夫。救急車は今出発します。けがしたのは誰ですか?どこをけがしたんですか?」

「中学生です。部活中に手首の動脈のところを切ってしまったんです。」

「君の名前は?」

「たち・・・、すみません急ぐので切ります。」

ガチャッ。


和人はふうっとため息をついた。

(あせった~。あやうく自分の名前を言いそうになった。それにしても早く来てくれよ救急車。)

顔を上げると、目の前にさっきの男性が立っていた。

「第2体育館から走ってきたのか?大変だったね、どれ、おじさんが車で送ってやろう。」

「いえ、いいんです。電話を貸していただいただけで。ありがとうございました。それじゃあ失礼します。」

「あ、君。」

男性が止めるのも聞かず、和人は飛び出していた。

そして、わき道に入り周りに誰もいないことを確かめると、もう一度2つの「STOP」ボタンを押した。

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