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ストップウォッチ⏱  作者: やごうまさはる
34/101

第34話

(俺はなにパニクッてるんだろ。英と千波ちゃんはいいカップルで俺が間に入る余地なんかないのに。親友として一緒に喜んでやらなきゃならないのに・・・。)

雨は今も激しく降っていた。


「どうだった?和人。」

近寄ってきたのは鶴田だった。

「うん、鶴田の言うとおりだった。千波ちゃんは昨日英の家に泊まったらしい。」

「な、なに!」

「て、アホか。親がそんなこと認めるはずがないだろ。英の親父さんが千波ちゃんも送って行こうって言ったらしいんだ。」

「わかってるよ。リアクションだよ、リアクション。」

鶴田が顔の前に人差し指を出し、チッチッと横に振った。

「でもそうか、いよいよ家族ぐるみの付き合いになったんだな。あの純真な千波ちゃんが・・・園山の毒牙にかかって・・・一段、一段と堕ちて行くんだ。南無阿弥陀仏・・・。」

「大げさだな。とにかく俺は今から勉強するんだから、自分の教室に戻れよ。」

「ひゅー、和人は受験生のかがみだな。赤まきがみ青まきがみ黄まきがみ、受験生のかがみ・・・。」

「ぷっ、何わけのわからないこと言ってんだよ。」

鶴田との会話で、和人の心はずいぶん軽くなった。


(まあ、英はきっと合格するさ。逆に、時間を止められることを英に話したら、カンニングのために使うかもしれない。それだけは絶対にだめだ・・・いてっ。)

和人は考え事をする時に、左腕の傷痕をかく癖がある。

今もまたきつくかきすぎたらしく、ごく僅かに血がにじんできた。

ティッシュでその血をふきとると「さあ、がんばるとするか。」と誰にも聞こえないような小さな声でそう呟き、教科書を開いた。


「和人、ちょっと部活に顔を出さないか?」

放課後、正門を出た直後に英が追いついた。

「冗談だろう、よくそんな余裕でいられるな・・・。」

「余裕じゃないよ。ただダメなんだ、運動しないとさ、体が調子悪いんだ。受験前に体調を崩したらまずいだろう。」

「いや、下手に汗かいて風邪でも引いたら最悪。」

「そんなこと言わずに1時間だけ付き合えよ、な。今日はグラウンドが使えないからたぶん第2体育館でフットサルをやると思うんだ。」

雨は降っていないが前日の雨でグラウンドがぬかるんでいる。

英の一生懸命な説得に和人の気持ちが揺らいだ。

「本当に1時間だけだぞ。」

「さすが和人!そうこなくっちゃ。」

笑いながら英が和人の目の前に体育館シューズを出した。

そのシューズには「橘」と名前が書いてある。

「それは俺のシューズじゃないか。手回し良すぎだぜ、まったく。」

二人は第2体育館へと向かった。


第2体育館は人家がない小高い丘の上にある。

もともとは市が管理する市民体育館だったのだが、別の場所への建て替えが予定されているため部活動用として中学校に移管されていた。

かなり老朽化が進んでおり、あと2年後には取り壊す計画らしい。

中学校からは歩くと30分もかかる程の距離だが、使用する部はジョギングをしていくため、ちょうどよい準備運動になる。

「1時間だけ付き合うって言ったのは、練習時間のことだからな和人。この移動の時間は当然含まれないぞ。」

「はいはい、お好きなように。」


和人たちが体育館に着くと、突然松永が玄関から飛び出してきた。

顔がこわばり眉が吊り上がっている。

松永は二人に気づくと一瞬安堵した表情を見せたが、すぐに険しい顔に戻り体育館の中を指さし叫んだ。

「大変です!桑田の手首の動脈のところが切れてしまって、血が止まらないんです。楠田先生はまだ来ていないし、救急車を呼ぼうにも電話がないんです!」

「しまった!今日は高校受験の3日前だったんだ。」

英がはじかれたように血相を変えて体育館の中へ駆け込む。

和人も遅れて中へ入った。

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