クエスト19 旅立つ前に
旅立ちの時はすぐそこまで迫っていた。しかし、ルーザックは、旅立つ前にやるべき事を残していた。
まがりなりにも、8年間世話になったアルテミーラに一言礼を言う事であった。そこで、ルーザックは手紙に想いをしたためる事にしたのである。
「こうやって、手紙を書く事にしたのも、きちんと想いを伝える為です。右も左も分からねぇ10歳のクソガキを8年間も今日のこの日まで、ありがとうございました。こき使われていた召し使いが、手紙を書くなんて何だか可笑しな気もしますが、まぁ、それで気持ちが伝わるのなら、良しとしましょう。これからは別々の道を歩む事になりますが、この8年間で身に付けた呪文や、経験が役に立つ事でしょう。きっと更に大きな困難が待つ事になりますが、油断せず冷静に乗り越えてみせます。エルギノティオ城下町最強の魔法使いアルテミーラなくして、今の自分は存在していないでしょう。将来、自分が勇者一行と共に世界平和を成し遂げた時には、アルテミーラの名が世界に轟く事になるでしょう。迷惑かもしれませんが(笑)つたない文章ではありますが、あなたがこの文章を読んでいる頃にはルーザックはアルテミーラの元を旅立っている事でしょう。この手紙を持って、8年間の御恩とさせて頂きます。○○年×月吉日。」
アルテミーラが、この手紙を読んだとき、彼の涙は止まらなかった。確かに自分とルーザックは、一種の雇用契約の関係にあった。そうであったとしても、8年間も寝食を共にした仲である。
一種の情というものがわいて溢れるのも無理はない。家族のいないアルテミーラにとってみれば、ルーザックは、年の離れた弟のような存在であったのかもしれない。アルテミーラは、その手紙を読んで立ち上がり、ルーザックを追いかけた。
自分には、まだ伝えきれていないものがある。本能的に身体中が反応したような感じであった。
「待て!ルーザック。」
「どうしたんですか?もう契約期間は終わりましたよ。」
「最後に一つ、俺のとっておきを学んで欲しい。」
「とっておき?」
「そうだ。とびきりの。」
「急がないと、グドルフ・オリスタイガーのオーディションに間に合わないっすよ?」
「手間はとらせねぇ。簡単な呪文のコツだよ。」
「分かりました。そこまで言うなら、5分だけ付き合いましょう。」




