あなたの心の栄養素はなんですか?
只今、お外はどしゃ降り状態です。
「あ~あ。こんなに降ったら、木々や花々が痛んじゃうよぉ」
「でも、リア様。水属性の者達は喜んでおりますよ。それに、この雨のせいでしょうか、水属性の妖精の卵も増えているみたいです」
緑属性のコ達の紹介から三日。ここに来て初めての雨です。
食堂の窓から外を見ると、朝とは思えないくらいどんよりとした暗い空。ホント、気が滅入るよ。
チラチラと見える妖精の卵達が、光りながら飛んでいるのは綺麗と言えば綺麗だけど。アレ? いま、赤い光りの卵が……気のせいかな?
今日のジャージは、シアンが気を利かせてくれたおかげでピンクのセット。でも、これって細い水色の他に、黒の太いラインが入っていて、何気にピンクマタンとペアルックっぽく見えるんだよねぇ。
「シアン。私、錬金室でレシピを読んでる。何かあったら声掛けて」
「はい。リア様」
どうせなら、ポイントが増えそうなモノでもチェックするか?
一応、作った事の有るヤツは、レシピ本に印を付けているので、印を増やすのも良いかな? まぁ、材料が有る物限定だけどね。
食堂を出て、ポテポテと錬金室に向かう私。……うん、足取りだけでも、テンションが下がっているのが解ります。
「指示本も、もう一度見ておくか」
錬金室のドアを開けて、レシピ本を数冊、本棚から取り出して椅子に座る。
レシピ本は、カテゴリー別で本になっているから、こういう時は全部出す。
「アクセサリー系も良いよねぇ。女の子っぽいし。アレもそろそろ錬成しないと、木箱から溢れそうだし……」
横目で木箱を見ると、キラキラといろんな原石が山盛り状態になっています。……って、また増えてるよ。
原石は一度錬金釜に入れて、錬成しなちゃ使えない。暇を見付けてはチマチマとやっているけど、ノーム達が毎日の様に持ってくるので、貯まる、貯まる。
シアンの言う通り、錬金術スキルを持っている者を一体用意するべき? でもなぁ。そうすると、私の存在意義が……ねぇ?
「駄目だぁ~ッ! 何かモニャモニャするぅ~ッ! 何かテンションが上がる様な事をしないとッ!」
「リア様ぁ~。以前戴いた本に載っていた、パンケーキなるものを……」
…………ゴメン。
気分転換に、室内をうろうろと倒立歩行していたら、オヤツを持って来てくれたシアンと私の膝裏がご対面。スカートじゃないから許して。
「何をやっているんですか、リア様? はしたないですよ。まったく、私だから良かったものの、セバスさんならお小言が始まりますよ」
「うん。ごめんなさい。何かテンションが上がらなくて……。今日は『ミンビーソ』を収穫して、クエストをクリアする予定だったでしょう。雨で中止になっちゃって、やる気が……」
子供か……。というシアンの小声は、聞き流してあげる。
パーティションで区切られたスペースに、ワゴンを転がして先に入るシアン。そこには、ローテーブルとソファーが設置されていて、一息付けれる様になっています。
うん。せっかくだから私も、パンケーキを楽しみますか。シアンが頑張って作ってくれたんだもんね。
いそいそと、シアンの後に続いて入ると……
「ねぇ……シアン。これ凄くない? 量が多いというか、多すぎると思うんだけど……」
テーブルの上には色鮮やかな紅茶と、ところ狭しと置かれたパンケーキの山々。
小窓の下。壁沿いの棚の上には、魔導湯沸かしポットと、お茶の葉を入れたガラス容器が並んでいます。えぇ、半数以上、私が薬草をブレンドして作った、なんちゃって茶ですよ。
「すみません、リア様。本にいろいろな作り方が載っていましたので……。どれがリア様の好みか判らなかった為、目に付いたモノを複数用意させて頂きました。残されても結構ですので、いろいろお楽しみ下さいませ」
「ありがと。でも、こんなに作って大丈夫なの?」
席に座りながらシアンを見ると、自慢気に説明してくれましたよ。
「お忘れですか? ここのキッチンには、時間停止型の貯蔵庫が有るんですよ。食べ残しは後日のオヤツにしても良いですし。後日配置されるコックに食べさせて、リア様の好みを覚えさせるのも良し。それに、ジーニアス達が、酪農計画を立てていますから、少しくらい玉子や牛乳を使っても平気です」
忘れてた。でも、そういう事なら、遠慮なく食べさせてもらいましょう。そして、シアン。さりげなくコックさんを、ホムンクルスで作れって言ってる? まぁ、いいか。
う~ん。どれから食べよう? と悩んでいると、シアンが小さめの丸型パンケーキに、バナナとクリームを乗っけた小皿を出して来ました。
「リア様。これは粉を使っていないパンケーキなんですよ」
「バナナの匂いが凄いね。それにしても、粉を使っていなくてもケーキっていうの? あぁ、レアチーズとかは使ってないな」
一口食べて見ると、口の中がバナナ! しかも、美味い。
「潰したバナナに玉子を加えて、フライパンで焼いたモノです。如何ですか?」
「へぇ、こんなパンケーキも有るんだ。美味しいよ。パンの要素は全然ないけど」
「ここだけの話なんですが、マゼンダ様が、妙にバナナ推しでして……。このレシピを見付けた時、作らないと呪われそうな気がしたんですよ」
「あはは。マゼンダ様はバナナがお気に入りだもんね。でも、このバナナは黄色でしょう? マゼンダ様の言うバナナは青々とした緑のヤツだよ。シチューとかに入れて食べるらしいから」
あら、まぁ……。と驚きながらもシアンは、次々とパンケーキを小皿に取り分けてくれました。
「こちらはスフレタイプです。ふわふわしていて、口当たりが良いですよ。こちらはカールがゴリ押しで作った大豆を、粉状にして作りました。土と緑の精霊達も、粉にするのを手伝ってくれたんですよ。少々、色が濃いですし、麦系の粉で作ったモノとは微妙に味が違いますが、これもなかなか美味しいので、是非召し上がって下さいませ」
シアンが合間合間に紅茶を入れながら、いろいろとパンケーキの説明をしてくれました。
此処で作られた果実が添えられたり、ジャムを伸ばしたソースが掛かっていたり、本当に綺麗で可愛い。しかも、甘くて美味しい。
まさにスイーツは心の栄養素だね。
「……ありがとうね、シアン」
「はい? 改まって何ですか、リア様」
「気が滅入っている私を、元気付ける為に頑張ってくれたから、お礼を言いたかったの」
「えっ? あっ、いえ……そういう訳では……」
私に似て、シアンも嘘が下手なのかなぁ?
目が泳いでいますよ~。
「あっ! リア様! 御覧下さい。雨が上がったみたいですよ」
棚の上の小窓を見ると、厚い雲間から陽射しが降り注いでいました。雨はすっかり上がったみたいだね。
「リア様。今日はもうお休みにして、この後はお散歩の時間にしませんか? この陽光なら、雨上がりの草花をキラキラと演出して、見応えも有ると思いますよ」
「良いね。……でもその前に、おトイレ」
だって、パンケーキと一緒にお茶を飲みまくったから……仕方ないよね?
シアンがテーブルの上を片付けている間に、行って来ます。




