ゆめのうち
「こんな所で喧嘩しないの。それより、早く戻りましょうよ…本当にむつさんにタコ殴りにされて起こされるなんてそれこそ、悪夢です」
「くそ女ならやりかねん…あっちだ」
尻尾を大きく振り動かし、管狐を離すと獏は祐斗にずんぐりとした前足で方向を指示した。
「相当…むっちゃんから酷い扱いを受けたのかな?」
颯介は祐斗に並ぶと、態度のデカい獏を哀れに思いつつ横目に見た。獏に、ふんっとそっぽを向いた。
「まぁ…早々に尻尾を掴んで中吊りにされて脅されたようなもんですからね」
「呼び出されたから来てやったのにな」
「本当に…可哀想に」
祐斗は獏の指示に従い、玄関に向かうとドアを開けた。颯介が触った時には、ぴくりともしなかったのに簡単に開いたのだ。
「驚くな。夢の中なんだ…俺に出来ない事なんかない」
「凄い…動物なんだ?」
「妖怪だ。悪夢を喰うっていうな…よし、次はあっちだ」
獏は手すりの向こう側を指している。だが、颯介も祐斗も空を飛べるような能力はない。獏を見て、手すりの向こう側を見た。
「無理っすよ?」
「行け。死にはしない」
命令口調で言われた祐斗は、獏を手すりに置いてよじ登った。手すりにのぼって下を見ると、地面も何もなくただ黒い闇があるだけだった。とてもじゃないが、飛び降りる勇気はない。
「落ちるなよ。こっちだ」
「え?手すりを歩くんすか?」
「そうだ。道が決まってるんだ、急ぐぞ。そろそろ朝が近い」




