『肥田城の攻防戦』
かなり重めのお話しです。
好き嫌いがあるかと……。
お嫌いな方は飛ばしていただいてもストーリー上構いません。
― 宇曾川南岸 ―
”み~んみんみんみんみぃ~い”
夏の盛りの熱い中、肥田城という規模の小さな城をおびただしい軍勢が取り囲んでいた。
じりじりと焼け付く日差しが、甲冑を焦がす。
蟻の這い出る隙間もないとは、この事であろう。
六角軍の軍勢は、遠巻きに肥田城を囲んでいる。
肥田城を攻める六角勢は、城攻めの準備で周囲に柵と堀を築いているところだ。
「これは見せしめなのだ」と義賢が言う。
彼は、配下の忍びを数多く放ち正確な情報を得ていた。
「忍びにて敵を知れば、百戦危うからず、我らの勝利はまちがいなしだ~!!」
当主、『六角義賢』自らが陣頭に立ち家臣将兵に檄を飛ばす。
そろそろ動く、その確信が義賢にはあった。
農繁期といえど、六角が本気になれば1万は動かせる。
対する浅井は、動員などかけられまい。
久政ならともかく、多くの国人が離反するだろう。
出して精々2千だ、確実に肥田城は落ちる。
逃げれば名声はどん底である、不戦勝すら拾えないのだ。
「浅井軍、動員令が出た様子です」
待ちかねた報告が届いた。
「うむ、引き続き監視を怠るな」
「浅井軍、先軍が小谷を出た模様です」
「よしよし」
じりじりと時は過ぎてゆく。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
「長政め、後詰めに出なければいい笑いものだからな、助けぬ訳にはいくまい」
六角義賢は、戦は弱いが読みは一流である。
「「左様で」」
相づちを打つ家臣達
「いかほど用意したかが気になるがな」
後は、数の勝負だ。
「こちらは2万5千、向こうは最大でも1万でしょう」
後藤賢豊が冷静に分析する。
その姿は自信に満ちあふれている。
それもそうであろう、六角家の陣容はとても厚いのだ。
三好が相手ならともかく浅井などひと捻りでしかない。
誘き出すまでが、大変なのだ。
城攻めは正直ムダな手間である。
欲しくもない城を攻め落とすことの何と虚しいことか……。
「小谷など要らぬわっ!」
肥田城の東側に、第一軍、蒲生定秀・永原重興・進藤賢盛・池田景雄の1万。
西側に、第二軍、楢崎壱岐守・田中冶部大夫・木戸小太郎・和田玄蕃・吉田重政の1万。
南側の中央の本陣に、六角義治・後藤賢豊・平井定武が陣取る5千。
北は宇曾川、西は琵琶の海にて、浅井の進軍を阻むのだ。
「戦場の指定はこちらがしている、飛んで火に入る夏の虫とはまさにこの事だな」
軍配を片手に、団扇のように仰ぎながら義賢が嫌らしく微笑む。
「まさに、奴め『虎穴に入らずんば』の心境でしょうな」
湧き出る汗を拭きつつ、答える賢豊。
「浅井軍は、公称1万1千と謳っております」
「先陣に、赤尾清綱・ 阿閉貞征・百々内蔵助・三田村国定・野村直隆・丁野若狭守ら総勢4千」
「後陣は、海北綱親・上坂正信・今村掃部助・安養寺氏秀・弓削家澄・本郷の4千です」
「本陣には、浅井賢政・赤尾清綱・雨森弥兵衛他、旗本衆3千と思われます」
忍びから次々情報が入ってくる、浅井勢の行動は丸裸だ。
「いよいよだのう! 出来れば開戦前に肥田城を落としておきたかった…」
「あまり欲をお出しになりますな」平井定武が云う。
「そうさのう、お主も長政をぶちのめさねば気が済まんであろう」
「御意、必ず八つ裂きにしてやります! 娘にあのような恥辱を与えるとは許せません」
「落ち着かれよ、定武殿」
「スマン賢豊どの、すこし興奮してしまった。」
「いや、気持は判るぞ」
「「「慮外者の長政を殺せ~」」」
六角の戦意もあがっていた。
― 午前10時頃 ―
鋒矢の陣形をとりながら続々と、赤尾清綱が率いる浅井の先軍が、宇曽川を渡河してくる。
百々内蔵助隊が先行している。
ちょうど第1陣と2陣のあいだを狙って突入してくるもようだ。
渡河を待ち受けていた蒲生定秀の手勢と衝突し、散発的な様子見の戦いが続く。
半刻ばかり小競り合いを続け不利な状況ながらも、意外な粘りを見せる 赤尾・野村・百々の諸将。
しかし六角方の田中冶部大夫・楢崎壱岐守らが赤尾勢の横合いから攻め掛かり、状況が一気に動いた。
2陣の猛攻に、たまらず赤尾勢は一時軍勢をさげた。
浅井軍の先鋒隊を追い散らし敗北させたとして、六角軍は凱歌を上げた。
いわゆる心理戦である。
「浅井め、恐るるに足らんわ」
「しょせん小倅よ」
初戦は、六角側の勝利かと思われ、義賢の居る本陣の空気が緩んだ……。
その空気を切り裂くように、百々内蔵助は大声を発し檄を飛ばした。
「これは近江南北分け目の合戦ぞ~、それがしは主君 長政殿より先陣を承った~。
もし 浅井家が六角に敗北するようなことがあれば、後日、人に顔向けできようか」
『みな我と思わん者は、俺に続けや~』
進路を北に取って返して、荒神山麓の小高い丘を目掛け駆けてゆく内蔵助。
「目指すはあの丘だあっ」
「丘を取れ~」
小高い丘に陣取ろうとする、百々内蔵助。
「高所を取られては一大事!」
そうはさせじと蒲生家の家臣、結解十郎兵衛が必死に追いすがる。
「結解十郎兵衛なり、いざ尋常に勝負!」
「面白い、この勝負のってやるわ」
結解が、果敢にも個人勝負を挑むが、百々内蔵助の方が一枚上手であった。
「はあ~っ!」
「なんのっ!!」
”がしぃっ”
鑓を繰り出すその穂先をすんでのところで躱し、内蔵助は柄を抱え込み引き寄せて押さえ込んでしまった
”ずびゅ”
「うぐっ」
”ずさずさっ”
内蔵助が十郎兵衛を取り押さえ、暴れるその胸に鎧どおしを刺し通しとどめを刺し、首を取る。
「敵将討ち取ったり~」
「殿~」
郎党二人が飛び込んできて、内蔵助から主十郎兵衛の首を奪い取り戻す。
その間も、高地を取ろうとする浅井軍に対し六角勢が、懸命に追いすがりる。
北へ走る百々勢に、赤尾清綱・ 阿閉貞征・三田村国定・野村直隆・丁野若狭守らが続き
対岸より 楢崎壱岐守・田中冶部大夫・木戸小太郎・永原重興・進藤賢盛・池田景雄が続く形となった。
主戦場が北の方へ移動し、浅井の第1軍を追う形で六角勢の陣形が南北にのびて行いくのだった。
「いまぞっ、懸かれ~いっ!」
「「「「「うおおぉ~っ」」」」」
そこをすかさず、浅井長政が中央突破をはかり横から突撃しました。
薄くなった陣容を紙のように引き裂き、これを噛み破ります。
「目指すは本陣なり~い」
「させるかぁ~」
”ギン” ”がぎっ” ”どす”
長政の本隊と後陣の半数が猛然と六角本陣へと肉薄していく。
それまで、なかば勝利気分でいた本陣が恐慌状態に陥りました。
「近江南北分け目の合戦だ、六角を潰せぇい、みな励め~」
「「「うおお~」」」
「ぎゃあ~」 「うおお~っ」 「ひい~」
「どけいっ」
「退かぬわっ」
「くうう、持ち堪えよぉ」
肥田の周辺 野良田の地は、敵味方双方の血であかく染まった。
首を取られる者多数、まさに 『 修羅の場 』 であった。
「若殿!さすがに我が方にも被害が」
刀を振るい自ら先陣を切りそうな勢い。
まさに奔馬の如き若き主君をいさめる猛将.遠藤喜右エ門の尉直経。
「くっ、やはりここらが潮時かな、直経」
「はっ、我らの勝ちにございますれば」
「そうか、勝ったか、俺は勝てたのかぁ~くはははっ」
「退きの合図を…若…」
” うわっはっはっは~ ”
戦場にはあまりにも場違いな笑い声がこだました。
長政は『近江の分け目の合戦』とばかりに、六角義賢の本陣に突っ込んで行き、辛くも勝利を収めたようだった。
勝てたとは云え、被害はかなり大きかった。
六角本陣は辛くも持ち堪えることができたようだが、他の部隊は脆くも壊走したもよう。
幸い軍勢の数の差が、モノを云い、六角側が壊滅的とはいかなかったものの。
受けた被害は甚大であった。
こうして、『肥田城の攻防戦』 (のちに『野良田の戦い』と呼ばれる戦い)は、浅井長政が勝ちました。
浅井長政が討ち取った首は900あまり、一方で、浅井方の討死は400あまり、負傷者も300だったという話です。
以上は、私が受けていた忍びからの報告です。
お好きな方には、すこし淡泊でスミマセン。
どちらにしても、謝らんといかんのか~ (´д`)
本題は次です!




