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『竹中重元という男』

通勤・通学の合間にどうぞ!



 私の子、重虎が 喜太郞さま(竜興)の小姓にあがった。

これは、道三様からの指示である。


何でもどうしても配下に欲しいと、喜太郞さまが聞かないそうだとか。

問題がない訳ではないのだが、名誉なことである。




弘治2年(1556年)


 道三様と義龍殿の仲は決定的に悪化した。

二人の息子を義龍に配下に殺されたのだ。もはや、戦になるのは目に見えていた。



『長良川の戦い』では、私は道三様に従った。

これまでのご恩を考えれば、仕方の無いことである。


 このような戦は、私よりも半兵衛の方が得意そうだ。

下準備の期間があれば、私にも活躍の機会があったであろうが、

正直味方に策略を仕掛ける気持ちにはなれなかった。



結果は、予想通りの敗北であった。

すでに隠居され、頼みの綱のご子息も誅殺されてしまっていては、未来さきがなかった。

下克上の末路と言うべきであろうか、虚しいものである。


衆寡敵せず、あっという間に戦は終わった。


 我が居城大海堂城も、義龍の軍勢によって攻められてしまうだろう。

道三様が勝てるとも思わなかったが、こうもあっさり義龍めに負けてしまうとは思っていなかった。


今まで積み上げてきたものが失われる喪失感、あまりにむなしい。


「はあ~、私の見込みもあてにならんものだなあ」

溜息混じりに、ひとりごちた。


 もし、半兵衛が城にいてくれたなら、或いは私が帰るまで持ち堪えたであろうか?

いや、さすがにそれは買いかぶりすぎだ、優秀な子だからこのようなつまらない戦で死なせたくはないものだ。



私も、できれば落ち延びて再起を図りたいものだ。死ぬ気などさらさら無い。


(どこか付け入る隙は無いものか……)




そう思っていたが……。




戦の後、義龍殿の耳を疑う意向が示された。



 『今回は、斎藤家の身内の争いであり、それに巻き込まれた国人・地侍については寛大な処置をくだす』と。



 美濃を二分するかと思われた戦いは、わりとあっけなく終わり穏やかに収束していった。

斉藤義龍殿も、道三殿に味方した者に対してわだかまりをもっていないようであった。



 私は正直意外だった、敗者の所領を情け容赦なく召し上げて勝者に配るものとばかりおもっていた。

自分についてくれた者達へのご機嫌取りをしないことが、何より意外であった。

それが下克上ではないのか?




 後で半兵衛から聞いた話によると、道三様は、『美濃国譲り状』 なる物を、竜興様に残されたそうだ。


「喜太郞(竜興)様がせめて成人であったなら」と、半兵衛は嘆いていた。

その譲り状と引き替えに、道三様についた私達の助命を父君に乞うて下さったらしい。



 何ということだ、竜興様は美濃一国を以て、道三様についた者達に報いて下さったのだ。


『 ご恩と奉公 』


 ご恩に従った我らに対し、その奉公を認め一国を捨ててまで助命嘆願してくださったのだ。

これが、主家の子息とは云え、凡百の子供にできることであろうか?


私は柄にもなく感動してしまった。

すでに、国主の器をお持ちの方なのだ、道三様もそれを認めていらっしゃる。



 私は、竜興様に 『竹中家の命運』 を賭けることにした。

半兵衛にも、誠心誠意お仕えするようにあらためて書状をしたためた。



私の願いが届いたのか、半兵衛の功績か。



 ある日、私は稲葉山城の麓の喜太郞(竜興様)の屋敷に招かれた。


「竹中重元でございます、若君様におかれましては皆を助命していただき誠にありがとうございます」


「うむ」


聡明そうだとは云え、まだ子供である、正直どう接してよいのか戸惑ってしまった。


「……我が子半兵衛はご迷惑をおかけしていませんでしょうか?」


「心配は無用だ、半兵衛にはとても良くしてもらっている」


「……(なんてやりずらい)」


「ときに重元。 おまえ、爺様ついてしまって親父に干されているな?」


「くぅっ」 こころが痛いっ。


「暇なら、手伝え!」


「はぁ?」


「ふう~っ、もちろんタダとは云わぬ」


喜太郞さまは、なにか近習に囁くと書き付けを私にくだされた。



『五万石分』



「は? 何ですか?」


「俺が、竹中家をもらい受けよう、まだ元服すらしていないから空手形で申し訳ないが、五万石をやろう!」


「空手形では、どう仕様もないですな!」

とても驚いた私は、思わず言ってしまった。


「処刑される身が、何もせずに所領をもらえると思うてか?」


「ううっ」

助けていただいた恩を忘れ、まだ幼少の若君の想いを蔑ろにしてしまった、半兵衛が寵愛されているとは云え不覚を取った。


「俺が扱き使ってやる」


「は?」


「『竹中が5万石をもらって当然』と、皆が納得するまで、俺がお前らを扱き使ってやる」


「はあ、まあ頑張ります」


「五万石の主に成りたくないか? お前には、それだけの、いやそれ以上の価値がある、手を貸せ!」


「ははっ、ありがたき幸せ」



そうして、私は竜興様の配下に加わった。


嬉しくは思いつつ、正直五万石は法螺だろうと思っていた。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



 あれからどれくらいの月日が経ったのだろう?

短かったのか、長かったのか。とにかく充実していたように思う。


竜興様は、ようやく12歳におなりになられ元服をされた……。



 見事な手腕で、尾張の要地を切り取り、美濃は完全に復活を成し遂げたのである。

まるで道三様の夢がひとつ叶ったかのようである。


私も犬山、清州、山崎を走り回り竜興様の野望に貢献させていただいた。



よくよく考えれば、あれからまだ4年しか経ってはいない、竜興様も元服をなせれたとはいえまだ12歳でしかない。


しかし、竜興さまの知謀は私をも越えている。


「重元、五万石分以上毟り取れ!」


それが今回、私にくだされた命であった。


「ははっ、必ずや吉報をお届けいたします」


「うむ」


私は勇躍して、近江に赴いたのであった。


我が人生の中で、これほど嬉しかったことは他にない。

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