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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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旅行3

 翌朝。リリアはいつも通りに目を覚まし、ベッドから出てアリサを呼ぶために口を開こうとして、


「まあ、さすがにいないわね……」


 呼びかけた名前を中断した。

 リリアが呼ぼうとしたのはシンシアだ。いつもと違う場所でも、シンシアを呼んで、代わりにアリサを呼びに行ってもらっている。だがさすがに国が違うし、シンシアはいないだろう。

 そう思っていたのだが。


「何かご用でしょうか」


 いつからいたのか、すぐ側にシンシアが控えていた。


「え……。いつからいたの?」

「リリア様が起きてから間もなくです。そろそろ呼ばれるかなと思いまして、待機していました」

「へ、へえ……」


 まさか国をまたいで一緒に来ているとは思わなかった。相変わらずと言えばいいのか、本当に有能な密偵だ。シンシアが自分の側にいてくれて本当に良かったと思う。

 だが、どうやって来たのだろう。少なくとも、馬車には乗っていなかったはずだが。聞いてみると、シンシアはいたずらっぽく笑って、


「内緒です」


 ああ、これは答えてもらえないやつだ。問い詰めれば教えてくれるだろうが、聞いてもリリアにとっては無駄なことなので流しておくことにする。


「アリサを呼んできますね」

「ええ、お願い」


 リリアが頷くと、シンシアは深く一礼して。

 そして次の瞬間には姿を消していた。


「…………。着実に人間を辞めてないかしら、あの子」


 内心で呆れながら、ふと気付いた。先ほどからさくらの返答がないことに。不思議に思って周囲を見回せば、先ほどまで寝ていたベッドの枕元に置き手紙があった。

 手にとって内容を確認する。暇なので観光してきます、とだけ書かれていた。

 なるほど。


「抜け駆けなんて、いい度胸ねさくら……」


 戻ってきたらお仕置きしようと心に決めたところで、扉の向こうからアリサの声が聞こえてきたので入室を許可した。




 アリサに手伝ってもらいながら、ドレスに着替える。この国の王と会うことになるため、準備は念入りに、だ。第一印象が大事だとさくらもよく言っている。

 着替えた後は軽めの朝食を取って、部屋で待機だ。この後はレイの方から迎えに来ることになっている。のんびりとお茶でもしながら待つとしよう。

 あてがわれた部屋で紅茶を飲んでいると、側に立っていたアリサが何故か不安そうにしていた。


「どうしたのよ」

「あ、いえ……。あの、リリア様、さくら様はどちらに……?」

「さあ?」


 そう言えばまだ戻ってきていない。さくらのことだから、思い出した頃にふらっと戻ってくるとは思うのだが。

 そう言っても、いやそう言ったからか、アリサはさらに顔を曇らせてしまった。


「何かあったの?」

「いえ……。噂程度としか聞いていなかったので、お話ししていないことがあります」


 どうやら重要な話らしい。視線だけで先を促すと、アリサは頷いて続けてくれる。


「この国の魔導師は、どうやら二つの派閥があるらしいです」

「派閥? そんなものあるのね」


 そう言えばさくらが、他国ではそういったものがある、と言っていたような気もする。魔導師に限らず、執政側でもあるところはあるらしい。それを考えると、自分の国はとても平和だ。

 いや、もしかすると、自分が知らないだけであるのかもしれない。公爵になれば巻き込まれるのだろうか。それはそれでとても面倒そうだ。


「それで?」

「はい。派閥の一つが、共存派。多くの国と同じく、精霊と協力して生きていこうという考えです」

「普通ね。もう一つは?」

「隷属派。精霊を支配しようという考えです」

「え、何それ。馬鹿じゃないの?」


 冗談抜きで意味が分からない。それができると思っているのだろうか。思っているから、そんな派閥があるのかもしれないが。


「何かしら理由がありそうね……。シンシア。無理しない程度に調べてもらえる?」


 畏まりました、と小さな声が聞こえてきた。きっとシンシアなら何かしら成果を持ち帰ってくれることだろう。


「まったく……。レイも言ってくれればいいのに」

「ふふ……。そうですね」


 ふむ。どうしてこの子は笑ったのだろうか。

 リリアは不思議に思いながらも、少し冷めてしまった紅茶に口をつけた。




 レイが来たのは、それから一時間もしてからだった。さすがに文句の一つも言いたくなったが、時間を決めていなかったこちらも悪いと考えて黙っておく。言いたいが。

 そしてレイが用意した馬車に乗ろうとしたところで、するりと体の中に何かが入る感覚があった。周囲を軽く見回して、素知らぬ顔で中に入る。座って目を閉じ、語りかける。


 ――おかえり、さくら。

 ――おおう。よく気付いたね。ただいま、リリア。

 ――何をしていたの?

 ――ちょっとお城を見学してきた。


 ということは、魔導師関係だろうか。何かしらの研究は城外で行われるが、魔導師たちの本部は城内にある。これはリリアの国の場合だが、クラビレスもおそらくそうだろう。


 ――魔導師の派閥について?

 ――え。知ってるの?

 ――アリサがそんな噂があると教えてくれたわ。

 ――へえ……。そんな噂まで流れてるんだね。


 さくらは噂の方は知らなかったようだ。

 そうしてさくらと会話している間に、馬車が走り始める。レイも一緒に乗っているのだが、何かを察したのか黙ってこちらの様子を窺っていた。


 ――派閥の種類は?

 ――共存派と隷属派があると聞いているわ。隷属派、というのが少し信じられないけれど。

 ――ああ、うん……。それね、元々は自立派だったんだって。つまり、魔法陣に頼らないようにしようっていう考え。

 ――へえ。それだけ聞くといいことのように聞こえるのだけど。

 ――うん。女神様も放置するつもりみたいだしね。


 ということは、精霊の最上位とも言える女神もこのことはすでに把握していることらしい。つまりそれは、さくらは女神からの指示を受けているということに……。


 ――あ、いや、それはない。

 ――え?

 ――別に何かあるわけでもないので完全放置で構いません、何かしたいならどうぞご自由に、て言われた!

 ――ええ……。


 あまりにも放任しすぎではなかろうか。思わず頬を引きつらせる。


 ――それは、いいの? だって今は隷属派で、精霊を支配しようと……。


 いや、待て。そもそも、そこが問題だ。精霊を支配しようとしているらしいが、一度でも支配できたのだろうか? 精霊を、つまりこのさくらのような頭のおかしい存在を。


 ――あれ? 今さらっとばかにされたような気がする。

 ――気のせいよ。隷属派はどうやって精霊を支配しようとしているの?

 ――…………。


 さくらが、黙った。ただそれは言いにくいというよりも、笑いを堪えているような雰囲気だ。


 ――さくら?

 ――んふ……。いや、あのね。精霊を支配する魔法陣を作ったんだって。

 ――…………。はい?


 魔法陣というのは、精霊から力を借りるために必要なものだ。精霊の見えない人でも精霊から力を借りられるように、言うなれば精霊への指示書となっているのが魔法陣だ。

 つまり、精霊の支配を精霊にしてもらおう、というわけで。


 ――え。馬鹿じゃないの?

 ――あっははは! ばっかだよね! 意味わかんないよ! だめ、思い出したらまた笑いが……! たえられ、ない! あははっはは、ひひ、くるし……!


 うるさい。今度はさくらの笑い声に顔をしかめて、リリアはため息をついた。なるほど、女神が一切慌てていないわけだ。精霊からしても、脅威とはなっていないのだろう。なんとも呆れる話だ。

 問題を抱えていると思えば、実際は精霊たちにとって問題にすらなっていなかった。それだけの話らしい。


 ――けれど、支配できると思い込んだ理由があるのよね?

 ――ああ、うん……。いや、うん。それがさ……。好きにしていいっていうの、全ての精霊に伝えられてるんだよね。

 ――あ、いいわ。なんとなく分かったから。

 ――そう?


 精霊たちにも個性があることを、リリアは知っている。いたずら好きの精霊が、おもしろ半分で支配されているかのように振る舞ったのだろう。しかも多分、一体だけでなく。


 ――三十ぐらいの精霊が、大事になっちゃいましたって女神様に報告に来たんだって。

 ――そう……。


 何故大精霊のような存在がいるのか分かった気がする。精霊たちも、というよりも大精霊や女神というのも色々と大変そうだ。

 少しだけ、笑いながら頭を抱えているような女性の姿を脳内でイメージしてしまい、リリアは少しだけ女神に同情してしまった。




 大きな城の前で馬車を降りたリリアは、レイの案内に従い、城の一室に通された。長方形のテーブルのある部屋で、テーブルには豪華な食事がすでに並べられている。そしてそのテーブルの前に、気のよさそうな初老の男がいた。王冠を被ったその男は、どことなくレイに似た面影がある。この男が、クラビレスの国王陛下だろう。


「お初にお目にかかります、クラビレス王。リリアーヌ・アルディスと申します。このような機会を設けていただき、大変光栄にございます」

「うむ。よく参った。レイフォードがお世話になっているようだね。感謝しておるよ」


 柔和な笑顔。好々爺といった雰囲気だ。もしかしたらレイは、クラビレス王に似たのかもしれない。かつて会ったレイの兄君とは全く違う雰囲気に、リリアの方が戸惑ってしまう。


「ところで、大精霊様はいらっしゃるのかな?」

 ――どうするの?

 ――観光してるって言っておいて。

 ――そう。

「今は観光をしているようで、近くにはおりません」

「む……。そうか」


 残念そうにしている、というよりも、これは不安そうだろうか。もしかしたら、さくらに派閥について知られてほしくないのかもしれない。さすがに昨日今日で知られてしまっているとは考えていないのだろう。

 もしくは、そう思いたいだけなのかもしれないが。


 ――王様って大変そうね。

 ――一番上のはずなのに、中間管理職みたいに思えちゃう。胃に穴があいちゃうかも。

 ――本当に……。さくら、迷惑かけないようにね。

 ――ん? 迷惑なんてかけたことないけど!


 本気で言っているのだろうか。リリアの機嫌が悪くなったことを察したのか、さくらが慌てて言う。


 ――いや、うん。善処します!

 ――まったく……。


 内心でため息をつき、王へと意識を戻す。クラビレス王はさて、と気持ちを切り替えたところのようだ。


「いきなり堅苦しい話をするのも疲れるだろう? 料理人に今作れる最高級の食事を用意させたのだ。一緒に食べないかな?」


 この王様、色々と軽すぎないだろうか。ちらりとレイへと視線を向ければ、レイは少しだけ困ったように笑いながら頷いた。この王様はいつもこうらしい。

 さくらが笑いを堪えていることに気付きながら、リリアは王へと笑顔で頭を下げた。


「是非。ご一緒させていただきます」


壁|w・)こっそりついてきてますシンシアさん。

この世界の密偵は人間をやめなければならないのかもしれない……。

ちなみに、ジャンプして天井にうつったりと最初から片鱗は見せてたりします。はず。


……おかしい、一ヶ月で投稿するつもりが三ヶ月たってる。

ほ、ほか書いてるのが楽しすぎて楽しすぎて……。すみません……。

せめて次は二ヶ月以内に投稿したい……。




そして恒例の宣伝だよー。

新作始めました。もふもふ好きの、もふもふ好きによる、もふもふ好きのためのお話なのです。

もふもふをもふもふする妹がかわいくて配信する暴挙をおかした姉のお話ともいいます。

『テイマー姉妹のもふもふ配信 ~もふもふをもふもふする最愛の妹がとってもかわいいので配信で自慢してみます~』

例のごとく下のリンクから行けるようにしていますので、

暇つぶし程度によければどうぞ、なのです。

ではでは!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者の作品で1番思い出に残ってて1番大好きで時間が過ぎても未だに忘れられない名作 もう読んだのが数年になるのに書籍タイトルさえ忘れてたのに、リリアとさくらの性格や令嬢に取り憑いた設定は忘…
[一言] テイマー姉妹も面白いけど、こっちもたまに更新してほしいなーって、れんちゃんが。れんちゃんが!言ってました!
[一言] 一気読みしました!面白かったです!
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