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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A7 ファラ4


 その日の夜。リリアはフォート伯爵家の屋敷を訪ねることにした。当然ながら本来はこのような時間に訪れるなど非常識だと言えるのだが、さくらが今すぐ行くと言って譲らなかった。


「さくら。貴方の名前を使うわよ」

「いいよ」


 上級貴族ならさくらについては知っているだろう。なら今すぐにとはいかなくとも、できるだけ早い時間で会ってくれるはずだ。そう考えながら、簡単な手紙をしたためて、アリサに届けに行ってもらった。手紙の内容は、要約すれば、大精霊が会いたいそうなので時間を作ってください、というものだ。脅迫に近いかもしれない。


「ファラはどうする?」


 アリサがここを出る前に用意してくれた紅茶を少しずつ飲みながら、さくらが聞いた。ファラは質問の意味が分からなかったのか、小さく首を傾げた。


「一緒に行くか、帰るかよ」


 リリアが簡単に補足すると、ファラはすぐに答えた。


「一緒に行きます。私の知らないところで何かあるのは怖いので」

「大丈夫! 黙らせるだけだから!」

「いや、あのね? さくらのそれが不安なんだよ? 精霊って自覚ある?」

「ファラにまで言われるとは思わなかった……」


 肩を落とすさくらに、リリアとファラは顔を見合わせて小さく笑んだ。

 ファラはさくらとは違い、ここで新たなに生まれ育っているらしい。そのためさくらよりも精霊についての常識がある。さくらの今の立ち位置も、恐らく本人よりも理解しているだろう。


「あ、でも、私が一緒に行ってもいいんですか?」


 ファラがリリアに問うてくる。リリアは頷いて、


「当事者なのだから大丈夫よ。何かあっても、黙らせるから」

「あ、あれ? リリアーヌ様もさくらも、大差ないような……?」

「失礼ね」

「失礼な」


 リリアとさくらの言葉が被り、二人で顔を見合わせる。さくらが何故か嬉しそうに笑い、リリアは少しだけ気恥ずかしくてそれから目を逸らした。


「孤児院には連絡しなくて大丈夫なの?」

「あ……。しないといけません……」


 忘れていました、とファラが慌て始める。リリアは大丈夫よ、と言って、さくらを呼んだ。


「さくら。書くもの。手紙を書かせるから」

「自分で行こうよそれぐらい!」


 文句を言いつつも、さくらはすぐにリリアのテーブルから紙とペンを持ってきた。それを受け取ったファラがすぐに手紙を書いていく。


「文字は書けるのね」


 孤児は学校に通えないことが多い。少しだけ意外に思って聞くと、ファラは笑って頷いた。


「一応、下級とは言え元貴族ですから」

「ああ……。そうだったわね……」


 そうして書き終えた手紙を、メイドを呼んで持って行ってもらった。




 さらにしばらくして、アリサがリリアの部屋に戻ってきた。返事が書かれているのであろう手紙を持っている。アリサから受け取ってざっと目を通す。やはり上級貴族と言うべきか、迂遠な言い回しが多い。読むのに疲れそうだ。


「ざっくりとなんて書いてあるの?」

「いつでもお越し下さい、歓迎いたします、という内容ね」

「おー。じゃあ行こう!」


 善は急げとばかりにさくらがリリアとファラの手を引いてくる。リリアとファラは苦笑しつつも、それに従った。




 フォート伯爵家の屋敷は王都の外れにあった。どうしてこんな場所にと思ってしまうが、どうやらフォート伯爵が自らこの屋敷を選んだそうだ。

 リリアたちが屋敷に到着した時には、すでにフォート伯爵が門前で待ち構えていた。メイドを三人ほど控えさせているが、わざわざ伯爵本人が待っているとは思わなかった。


「ようこそお越し下さいました、リリアーヌ様、さくら様」


 伯爵が丁寧に頭を下げる。リリアも挨拶をしようとしたところで、


「お話がしたい。中に入れて」


 さくらが冷たい声音で言った。その声音にリリアだけでなく伯爵も驚いたようで、わずかに頬が引きつっている。よく見ると顔色も悪くなっていた。


「畏まりました。どうぞこちらへ」


 伯爵が先に中に入り、リリアとさくら、ファラ、そしてアリサが続いた。

 そうして案内された部屋は、応接室と思われる少し広めに部屋だった。大きなテーブルに柔らかそうなソファが置かれている。部屋の隅には書棚や装飾品が並んでいた。

 伯爵の対面にリリアが座り、その隣にさくらとファラが座る。その少し後ろにアリサが立つ。全員が席につくと、メイドが紅茶と菓子を持って部屋に入ってきた。


「リリアーヌ様のお口に合うかは分かりませんが……」


 伯爵がそう言いながら、紅茶とクッキーを一口ずつ口に入れる。リリアは紅茶を口にして、小さく頷いた。


「美味しいです」

「それは良かった」


 伯爵が安堵したように微笑んだ。隣ではさくらも紅茶を飲み、そして、


「んー。アリサの紅茶の方が美味しいよ?」


 伯爵の表情が凍り付いた。リリアが横目でさくらを睨むが、しかし素知らぬ顔でクッキーを食べている。小さくため息をついて、リリアは伯爵に言った。


「本日は……」

「面倒だから単刀直入に聞いていい?」


 リリアの声に被るようにさくらが言った。怪訝そうに眉をひそめるリリアと伯爵に、さくらは笑顔で、


「私はお堅いのは嫌いです。なので、さくっと聞いていい?」

「はあ……。構いませんが……」


 伯爵は少し戸惑いながらも小さく頷いた。その視線は、時折ファラの方へと向けられている。何となくでも用件を察しているのだろう。さくらはそれに頷いて、言った。


「じゃあリリア、あとよろしく!」

「結局私に振ってくるのね」


 リリアは苦笑しつつ、改めて伯爵に向き直った。


「ではさくらもこう言っていることですし、単刀直入にお伺いします。こちらのファラをメイドとして迎え入れるとお聞きしましたが、理由を聞いても?」

「ふむ。何か問題がありましたかな?」

「伯爵家が孤児をメイドに雇うなどどういうつもりか、聞いているのですが」

「ははは。貴方がそれを言いますか?」


 確かに、南側に買い物に行くリリアが聞くようなことではないだろう。だが、それとこれとでは問題が違う。平民は貴族、特に上級貴族に逆らうようなことはほぼないと言ってもいい。その平民、しかも孤児という弱い立場の女性を雇う。考えてあまりいい気分はしないが、考えられる可能性は少ない。


「ははあ」


 伯爵が意地の悪い笑顔を浮かべ、顎を撫でた。


「私が、ファラを襲わないか、そういった目的がないか、考えておられるのですな?」


 自分から言うとは思わずにリリアがわずかに目を瞠る。伯爵は楽しげに顔を歪め、頷いた。


「さすがはリリアーヌ様だ。ご明察です」


 認めるとは思わずにリリアが絶句し、ファラは蒼白になった。伯爵はそんな二人の様子に、どこか自嘲気味に笑った。


「ですが、貴方にとってそこの孤児など関係のない者でしょう。何故一緒にいるのかは分かりませんが、部外者には黙っておいていただきたいものですな」


 部外者ではない、と言いたいところではあるが、ファラが賢者だと明かすのは得策ではないだろう。余計に面倒なことになる。どうするべきかとリリアが考えていると、さくらが言った。


「この子、ファラはいい子だよね」


 そんなさくらの言葉に伯爵が眉をひそめる。さくらは笑顔で言った。


「だから、欲しいな。ねえ、もらっていいよね?」


 それとも、だめなのかな?


 くすくすと、さくらが嗤う。寒気を感じるその笑みに、伯爵が息を呑んだ。


「いえ……。構いません。ですが、大精霊である貴方が人を雇うというのは、やはり難しいかと……」

「じゃあケルビンさんに雇ってもらおう。いいよね? リリア」


 それはリリアが決められることではないのだが。リリアは一瞬だけ言葉に詰まったが、しかしすぐに頷いた。さくらからの依頼となるなら、父も否とは言わないだろう。それに、赤の他人ならともかく、さくらの知り合いが無体な扱いを受けるのを黙って見過ごすことはできない。父を説得するぐらいならしてもいい。


 リリアが頷いたのを確認して、さくらは伯爵に言った。


「じゃあ、この子はもらうね」

「はは……。畏まりました。お譲り致しましょう」

「ありがとう! さすが、話が分かるね」


 嬉しそうなさくらの笑顔に、伯爵は苦笑するしかないようだ。

 これ以上、この男と話をする必要はないだろう。リリアはファラを立たせると、アリサと共に部屋を出ることにした。短く挨拶をして、部屋を出ようとしたところで、


「ファラをよろしくお願い致します」


 不思議に思いながらも、分かりましたと頷いて退室した。


壁|w・)終わりませんでした……。

あと1話だけ続きます。


スピード解決です。

伯爵さんの真意はまた明日、です。




さて、本日2巻の発売日です!

是非是非、書店様でお手にとっていただければと思います。

よろしくお願いします……!

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