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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A7 ファラ3


 アルディス家の屋敷のリリアの部屋で、リリアはさくらと少女の様子を見比べていた。

 さくらはいつもの笑顔なのだが、いつもより少し機嫌が良さそうに見える。だがそれでいて、わずかながら警戒心も持っているようだ。表情には出ていないのでそう感じるだけではあるが。


 対する少女は緊張しているのがよく分かった。周囲に視線を走らせて、小さくではあるがずっと震えている。そこまで緊張しなくても、とは思うが、やはり公爵家の屋敷である以上は緊張してしまうものなのだろうか。

 リリアはさくらの隣に座らされている。少し離れていようと思っていたのだが、さくらにここにいるように言われてしまった。断る理由もないので、仕方なくここにいる。それに、リリア自身、さくらと目の前の少女の関係を少し知りたいと思っていた。


「まずは私にも分かるように自己紹介ぐらいしてほしいのだけど」


 ずっと続く沈黙に耐えかねてリリアが言うと、少女は身を竦ませて、しかしすぐに頷いた。


「ファラ、といいます。今は孤児院で生活しています」

「で、私の元クラスメイトで、その時の名前が雨宮雫さん」


 さくらが付け加えた内容に、ファラと名乗った少女が目を剥いた。


「冬月さん、それは言ってもいいの?」

「大丈夫。リリアはこっち側の事情は知ってるから」


 これにファラがさらに驚き、リリアへと視線を向けてくる。リリアが頷くと、ファラは安堵の吐息をついた。


「ファラって呼んだ方がいい? それとも、雨宮さん?」


 さくらが聞いて、ファラが少し考えて答える。


「ファラでお願い。そっちの方がもう慣れてるから」

「ん。了解。私はさくらでいいからね。冬月は、捨てたわけではないけど、呼ばれることがなくなったからちょっと焦っちゃう」

「うん。分かった」


 さくらとファラが頷き合い、少しだけ嬉しそうに二人揃って微笑んだ。


「ファラが今まで何をしていたか、教えてもらってもいい?」

「うん。さくらも後で教えてね」

「もちろん」


 そうしてファラの口から語られた内容に、リリアもさくらも少なからず驚いた。特に下級貴族の出身であることに驚いた。まさか貴族出身であるにもかかわらず、孤児院にいるとは。だが下級貴族というものは平民と大差ないことを考えれば、両親が死んでしまったのならそうなっても不思議ではないのかもしれない。詳しいところは、リリアにはまだ分からないが。


「またあのクソガミか!」


 さくらは別のところで憤慨しているようだ。時折さくらの口から出るその名称に、リリアは呆れてしまいそうになる。


「貴方の世界の神様は、ろくでもない神様みたいね」

「否定しない」


 これにはさくらだけでなくファラも同意してしまった。本当に、どんな神様なのか。

 ファラが話し終えて、次はさくらが今までのことを話す。その内容に、今度はファラが目を丸くして驚いていた。


「他国の貴族とはさすがに思わなかったけど、精霊になってただなんて……」


 ファラがじっとさくらを見つめる。さくらは少しだけ戸惑いつつも、その視線から逃げなかった。むしろ、どこか偉そうに胸を張っている。面白くないのでさくらの頭を叩くと、さくらが不満そうにこちらを睨んできた。


「リリアは私の頭を叩きすぎだと思います!」

「そうかしら。じゃあ撫でてあげるわ」

「わーい」


 リリアが頭を撫でてやると、今度は一転してさくらはだらしなく相好を崩した。尻尾があれば振っていそうな様子のさくらを見て、ファラは少しだけ呆然とした後、


「お二人は仲が良いんですね……」

「手のかかる妹みたいなものよ」

「失礼な」


 リリアとさくらのそのやり取りに、ファラは小さく噴き出した。ひとしきり笑った後、ファラが失礼しましたと頭を下げる。リリアは気にしなくていい、と手を振った。


「言い忘れていたけれど、ここでの話、特にさくらについては他言無用よ」

「分かりました。私についても、お願いします」

「ええ。さくらも、いいわね?」

「あいあいさー」


 相変わらず気の抜けた返事だ。リリアは呆れてしまうのだが、ファラの方は少し懐かしそうに目を細めていた。


「ところでさ。孤児院に住んでるんだよね? 今度、遊びに行ってもいい?」


 さくらが期待に瞳を輝かせてファラへと問うた。やはり故郷の友人と話をするのは楽しいのだろう。リリアにとっては少しばかり複雑ではあるが、仕方のないことでもある。リリアにはさくらの故郷を知る術はない。それを思えば、ファラと出会えたことは幸運だったとも言える。

 ファラは、もちろんとすぐに答えたが、しかしすぐに表情を曇らせた。


「あの、来月からはちょっと無理になるけど……」

「へ? どうして? いつまで?」

「ずっと、かな……?」

「なんで!?」


 さくらがテーブルに身を乗り出した。ファラが驚いたように言葉を詰まらせたのを見て、リリアはさくらの首根っこを掴んでいすに引き戻した。


「落ち着きなさい。話しにくいでしょう」

「あ、うん……。ごめんね」


 さくらが申し訳なさそうに眉尻を下げる。ファラは苦笑しつつも首を振った。


「気にしないで。理由だけどね、来月から伯爵様のお屋敷でメイドとして働くことになってるの」

「はい? ファラが? 伯爵……上級貴族のところでメイド?」

「うん」


 さくらが剣呑に目を細めた。そのさくらの表情の変化にファラは戸惑っているようだが、リリアにはさくらの気持ちも良く分かる。

 上級貴族の中には、以前のリリアのように、地位や権力の物を言わせて自分の意志を押し通す者が少なからず、というよりも大勢いる。そしてそういった者たちはプライドが高い。

 上級貴族が孤児をメイドとして雇い入れる。普通ならば考えられない。中には支援の代わりとして孤児から雇う者もいるらしいが、個人を指名するなど聞いたことがない。


「それ、大丈夫なの? 悪い人じゃない?」


 さくらの心配そうな声音に、ファラが瞳を泳がせた。それだけでもう答えを言っているのと大差ない。さくらの顔から表情が消えていき、ファラは慌てて言った。


「単純に分からないだけだから! きっといい人だよ! 多分!」

「多分じゃだめだよ。その伯爵さんの名前は?」

「え? その……」


 ファラが助けを求めるようにリリアへと視線を投げてくる。リリアはそれに頷き、言った。


「早く答えなさい」

「えー……」


 味方がいないことを察したのだろう。ファラは力無く項垂れると、その伯爵の名前を口にした。


壁|w・)思い立ったが吉日。……違う?

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