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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後休暇

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「リリアーヌ。お前に頼みがある」


 早朝、部屋を訪ねてきた王子の言葉に、リリアは怪訝そうに眉をひそめた。王子の手には先日返却された試験の答案用紙がある。王子はそれを部屋のテーブルに置くと、リリアに言った。


「勉強を教えてほしい」


 その言葉に、リリアだけでなくさくらまでもが息を呑んだ。


 ――もしかして、試験の結果を気にしてるのかな……。

 ――今更すぎでしょう。


 先日、二学年での最後の試験があり、その答案が返却された。順位はいつも通り、リリアが一位で王子は二位だ。その時は王子は何も言ってこなかったが、まさかこんなことを言い出すとは思わなかった。


「殿下。城には私よりも優秀な教師役がいると思いますよ」


 リリアの言葉に、しかし王子は首を振った。


「それではだめだ。普段と変わらない。私はお前に勝ちたいのだ」


 どうやら王子も自分なりに考え、リリアに勝つために別の方法を取ることにしたらしい。まさかそれが、勝ちたい相手に教わることになるとは思わなかったが。だが、悪くない考え方なのかもしれない。

 リリアは納得して頷き、笑顔で言った。


「お断り致します」


 王子が目を見開き、絶句する。リリアは凍り付いた王子へと、続けた。


「せっかくの休暇です。今回はゆっくり休みたいと思っているのですよ。それなのに、息の詰まる王城になど伺いたくありません」


 場所が学園でなければ問題にされそうな発言だが、王子はそれほど気にしなかったらしい。それどころかリリアの答えに納得したようで、そうか、と項垂れてしまった。その姿からは、なぜか哀愁まで感じてしまう。リリアは小さくため息をつくと、仕方がないと首を振った。


「一週間につき、一日だけです」

「は?」

「それ以上はお断り致します」


 しばらくたってようやくリリアの言葉を飲み込めたのか、王子が目を見開き、そしてすぐに笑顔になった。


「助かる! 感謝するぞ、リリアーヌ!」

「感謝は成績が上がってからにしてください」

「ああ! もちろんだ!」


 本当に分かっているのか、と思うが、本人がやる気になっているのだから口を挟むものではないだろう。

 その後は具体的にいつに行くかを決めて、王子は退室していった。


 ――教えるんだね。ちょっと意外。


 さくらの言葉に、リリアは肩をすくめながら頷いた。


 ――しっかりと貸しを作っておきましょう。

 ――あはは。オニリアだ。でもいいと思う。たくさん貸しを作って、美味しいものをもらおうよ。

 ――食べ物に使ってどうするのよ……。


 リリアはため息をつきながらも、さくららしい、と微笑を漏らした。




 帰宅の準備を終えてから、リリアはアルディス家の馬車へと向かう。寮を出たところで、リリア、と呼び止められた。振り返ると、息を切らしたティナがいた。


「ティナ。仮にも貴族の一人なのだから、少しは落ち着きなさい。……ごめんなさい、今更だったわ」

「あれ? 馬鹿にされた気がする……」

「気のせいよ」


 唸るティナに、リリアは笑顔を見せる。ティナは少しだけ考えた後、まあいいか、と流してしまった。


「リリアもこれからお屋敷に戻るの?」


 ティナの問いに、リリアは頷きながら答える。


「ええ。今回の休暇はゆっくり休もうと思っているわ。ティナの宿に行くことも少しだけ考えたのだけどね」


 季節はすっかり変わり、もう冬になっている。まだ雪は降っていないが、風はとても冷たい。だからこそ、ティナの宿の風呂は少しばかり魅力的ではある。あの宿の風呂は温泉と呼ばれているもので、屋敷の風呂とは違って開放感があった。遅くに入れば人もいないため、落ち着いて入ることもできる。それらを考えると、一度は行きたいと思ってしまう。


 ――でも遠いからね。


 さくらの声に、リリアはため息をついて頷いた。ティナの宿への往復では、まず間違いなく雪の中を走ることになる。あの町までの道は雪で閉ざされることはないそうだが、それでも風呂のために行こうとは思えない。

 それらが分かっているのだろう、ティナは苦笑しつつ頷いた。


「うん。私もおすすめしないよ。正直、私もこの季節に帰るのは避けたいし……」

「実家が遠いと大変ね」

「私はまだいいよ。アイラは帰り着けるかも分からないらしいから」


 ティナの友人、アイラは早朝に出発したそうだ。少しでも時間が惜しいらしい。一ヶ月近い行程がある以上、半日などさほど変わらないと思うのだが、実際に行ってみると違うものなのだろうか。


「ティナと次に会うのは来年の新学期ね」

「うん。また一緒に南側に行こうね」


 以前二人で出かけた時がとても楽しかったらしく、最近はよく誘いに来る。リリアも断る理由はないためにいつも応じていた。


「気をつけて帰りなさい」

「リリアもね。それじゃあ、またね!」


 そしてティナが門へと駆けていく。リリアはそれを、姿が見えなくなるまで見送った。


壁|w・)リリアとティナのお買い物の様子はいつか番外編で書きたいです。

活動報告でジャンルについてのアンケートを取っています。よければご協力ください。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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