第5章:目覚め
第5章:目覚め
不気味な悪夢を見ない日が4日続いていた。正直言って、それは心地がよかった。今日も朝の睡眠をしっかりと取った状態で目を覚ました。太陽が昇り始めたばかりで、脳内のホルモンが活発に働き出す頃にはすでに意識がクリアになり、覚醒していた。起き上がって顔を洗うためにお尻を上げ、重い足取りで歩きながら目をこすり、目頭に溜まった目ヤニを拭い去った。
バスルームに入り、蛇口をひねる。ほんの少しだけそのまま待ち、鏡に目をやると、昨日の疲労と混乱が残した最低限の不快感を確認した。手のひらを流水の下に差し出し、水が溜まったところで自分の顔に勢いよく浴びせた。手で目をしっかりと潤す。深呼吸をしてから水道を止めた。バスルームを出てクローゼットへと向かう。大きな扉を開け、その中から普段着を取り出して身に付けた。ちょうどその時、ドアがノックされた。ナラに違いないと思った。
「入れ……」
落ち着いた声で返事をした。中に入ってきたのはニーナだった。私は思わず舌打ちをした。
「忙しい、何の用だ?」
今度はニーナもどこか心配そうな顔をしていた。そして、かすかに震える声で話し始めた。
「エンマが目を覚ましたの……」
私は驚愕のあまり目を見開いた。
「なんだと!? 何を言っているんだニーナ!?」
「夜、落ち着いてちょうだい。私たちのせいじゃないわ」
「誰が彼女を目覚めさせたんだ!?」
「わからないわ、でも『夜』の仕業だと言われているわよ」
「いったい誰がそんなことを知っている?」
「F/10クラスと権限を持つ者たち以外には誰も知らないわ」
「じゃあ、どうして私がそれを知っているんだ?」
「総長(校長)の補佐官がそう命令したからよ」
「校長の補佐官だと? あいつにナラに命令する権限なんてないはずだが……」
「あなたは外に出なさい、ニーナ」
「わかったよ。そういえば、今日は任務はないし裏庭も空いているから、もしよかったら修練をしてもいいわよ」
「ああ、ありがとう……」
私は冷淡に、だが先ほどよりは少しだけ丁寧に返事をした。
校長の補佐官であるクラウスがそんな命令を下すはずがなかった。彼には命令口調のトーンはあるものの、この2年間ニーナに命令などしたことはない――そんな権限がないからだ。彼と直接話をしに行く必要がある。しかし、嘘をついているのは明白だった。エンマが目を覚ましたということは、アイリが言っていた通りペンダントが光り輝いたということだ。またしても問い詰めなければならない。
私は靴を履いて外に出た。自分の部屋のドアに鍵をかける。同じようにクローゼットや窓にも鍵が閉まっていることを確認した。素早く、焦るような足取りで歩いていると、途中でミルにぶつかった。
「すまない、ぼんやりしていて気付かなかったよ」
「大丈夫だ……。自分を大事にしろよ、夜、最近の君はおかしいぞ」
軽くと頭を下げてから、すぐに副校長の部屋へと向かった。扉を見つけ、ノックをする。中から太く威圧的な声が響いた。
「入れ」
「お時間よろしいでしょうか?」
「ああ、どうした 夜?」
「本日、ニーナに何かについての命令を下しましたか?」
「いや、覚えはないが。なぜそんなことを聞く?」
彼の声には自信が感じられず、明らかに動揺していた。
「エンマが目を覚ましたことを知っています」
「ニーナから聞いたとでも? それとも私が彼女に言ったとでも言うのか? はっ、冗談だろう」
その声は嘲笑っていたが、明らかに緊張していた。手元に持つ書類と緩めたネクタイがやけに目を引く。クラウスはすぐにネクタイを直し、私の視線に気づいたのか、すぐに咳払いをした。この部屋で何かが起きていたのは確実だった。私はそっと近づいた。せいぜい二歩ほどだ。部屋の中に漂う匂いを嗅ぎ取る――率直に言って、クラウスの香水と女性の香水が混ざり合っていた。その匂いは副校長の女性関係を連想させたが、詮索している暇はない。クラウスの手は汗ばみ、わずかに震えていた。あぁ、若いお前ら、もし彼らの情事でも覗き見しようものなら即座にクビになるだろう。違うか? よし、これ以上ストレスで彼が気絶でもされては面倒だ。これ以上かまうのはよそう。
ちょっと待て! もし副校長夫人と関係を持ったとして、まだ朝のうちは……ニーナはその命令を受けていないが、嘘はついていなかった。心臓の鼓動は正常だった。その声は本物の恐怖で震えていた。まさかニーナではない。では誰だ? 一体誰があり得ると言うのか? そうだ! 夜(魔物たち)はいくらでも姿を変えることができる。しかしニーナが夜であるとは限らない。とはいえ、どこまで信用していいものか。夜なら、なぜこんな嘘をつくのか? 何か裏があるのは明白だった。ニーナが人間であるかどうかすら確信が持てない中、私の頭の中は大混乱に陥っていた。おそらく少し休息をとるのが一番の特効薬だろう。よし、この問題についてはこれ以上深追いするまい。私も部屋にゆっくりと戻り、ベッドに腰を下ろしてペンとノートを取り出した。この問題は私を過度に緊張させていたため、気分を落ち着かせるために数学の問題を解くことにした。できる限り黒鉛の濃淡やワームホールの生成に関する数学的公式を導き出そうとした。ふと手を止め、疲労を覚え、朝から何も口にしていないことに気づいた。ノートの上にペンを置く。眠りたかったが、ペンを取り直した。まだ時刻は15時40分だった。朝から何も食べていないことに気づき、重い腰を上げて下階へと降りた。キッチンへ向かい、戸棚の中で見つけたものを手当たり次第につまみ食いする。戸棚を閉めようとした瞬間、物音が聞こえた。戸棚の近くにあったキッチン収納の裏手に身を隠した。
ニーナが楽しげに笑いながら部屋に入ってきた。続いてクラウスの声が聞こえた。私はそっと頭を持ち上げたが、直視する前に二人の方へと向きを変えた。すぐに身を隠す。これ以上長居して見つかるわけにはいかなかった。二人の声はやがて激しい喘ぎ声と口づけの音へと変わっていったため、私は舌打ちをしてその場を足早に立ち去った。部屋へと続く廊下に差し掛かると、私は駆け足をやめてしっかりと歩き、自分の部屋へと入った。アイリがベッドの上で横たわっていた。白いネグリジェを纏い、手には一冊の本を読んでいた。私はゆっくりと彼女の隣に腰を下ろした。
「調子はどうだ、アイリ?」
彼女は本を閉じ、私の方を向いて微笑んだ。本を脇に置き、私を見つめる。彼女の頬がほんのりと赤らんだ。彼女を魅了したという実感が私を密かに満足させた。
「ふん……まあまあね。ところで、あなたはどこに行っていたの?」
私は小さく息を吐いた。
「キッチンにいたんだ。食事をしていたよ」
アイリは少し真剣な表情になったが、まだ笑みを浮かべていた。
「下から音が聞こえたけど……何があったの?」
その質問は厄介だった。彼女にそんな露骨な物言いをするわけにはいかなかったが、他に説明のしようがなかった。
「ええっと……その件についてはあまり深く考えないでくれ。大して重要なことじゃないからさ」
「わかってるわ、夜。問題はそのことじゃない、誰の声だったのかを聞いているのよ」
「信じてくれ、僕にもわからないんだアイリ。ちょうど見に行こうとしたら、あっちの方向に二人が向かって……まぁ、何でもいいさ……」
アイリは小さく息をつくと、再び本を手にとって読み始めた。
私も彼女の隣へと身体を寄せた。頭を彼女の肩に預け、一緒に本を読もうとしたが、すぐに眠気が襲ってきた。その時、アイリの小さな囁き声が私の耳をくすぐった。
「数学以外の本はすべて、あなたを眠気に誘うのね……」
彼女もおそらくすぐに眠りに落ちただろう――いや、確信は持てないが。
【事前情報】
朝の時間帯にアイリが姿を消している理由を、夜は知らない。ここで読者に明かしておこう。アイリは実はその時間、眠っているか、あるいは「神の家」で自身の任務を片付けており、そのほとんどの時間はそこで過ごしている。彼女が不在がちである理由は、主にそのためのお勉強を受けているからだ。彼女自身は女神候補であり、その早すぎる死が彼女を未経験のまま残してしまった。そのため、2年間「神の家」で修行を積んだのだ。そして今、夜のためにだけ、かつての自分の身体へと戻ってきている。それ以外の時は、第一章に登場したような「女神」としての姿で過ごしている。




