第72話 強襲の獅蠍
全て宮廷召喚術師の視点となります。
突如として転移してきた魔物の軍勢に対し、〈七大の騎士団〉の中で最も迅速な〈緑の騎士団〉が、盾の城塞の前面に展開した。
続いて〈青の騎士団〉が右翼、〈赤の騎士団〉が左翼に展開し、その後詰めとして〈黄の騎士団〉が陣を張った。
ここまでは日頃の訓練通りであったが、それらを統括すべき〈白の騎士団〉が一向に出て来る気配が無い。
「いかがした、ビラーベック侯。いよいよ、卿らの出番だぞ」
周囲を見渡せる盾の城塞の最上塔から〈白の騎士団〉の待機所に繋がっている伝声管に向かい、ジークベルト将軍が語りかけると、しばらくの沈黙の後、落ち着きを無くした若い男の声が応えを返してきた。
「い、今、要たるべき我らが動くのは、その、せ、拙速というもの。ま、まずは、魔物どもの出方を確認せねば……」
「そういうことなら、侯の手元には充分な数の、『遠見魔法』の使い手がいるであろう」
充分どころか、実際には過剰なほどにいるはずだ。
他の騎士団にも振り分ける予定だった、光のウィンドウを操る『遠見魔法』の使い手を、情報を一元化すると称して〈白の騎士団〉が、もっと言えば、宮廷貴族のどら息子どもが無理矢理に独占してしまったのだ。
どうやら、シュハーザから派遣された女性兵士の、入浴や着替えを覗こうとしたらしい。
ズレーニン、トポラ、セケドと共に、南方に点在する小国家群の一つであるシュハーザは、男系の王族と女系の戦士のみで構成された狩猟民族で、いわゆる貴族に該当する人々がいない。
言い方は悪いが、彼女らは脳筋の集団でもあって、〈七大の騎士団〉を編成するにあたり、全員が前線配備を希望して〈赤の騎士団〉に加わっている。
つまり、〈白の騎士団〉にシュハーザ出身の軍人が存在しないことが、どら息子達の不埒な企みを助長したのだろう。
〈白の騎士団〉には、西の大国シャンドラを始めとする諸国の貴族を出自とする、まっとうな騎士もいるはずだが、おかしなところで意気投合したと見える。
もっとも、そんな不埒な真似を〈光輝の勇者〉が許すはずもなく、彼女の結界によってシュハーザ軍の宿舎は『遠見の魔法』から遮断されたのだった。
それはともかく、『遠見魔法』を独占している〈白の騎士団〉が出陣しないことには、〈七大の騎士団〉は目を封じられたも同然である筈だ。
ジークベルト将軍の声に、鋼の刃を思わせる響きが混じった。
「重ねていうぞ、ビラーベック侯。出撃して〈白の騎士団〉を所定の位置につけよ!!」
「し、しかし、〈七大の勇者〉が、まだ出ておりませんぞ」
ビラーベック侯爵の言うとおり、盾の城塞の外に陣を張っている各騎士団の中に、その旗頭である〈七大の勇者〉の姿はない。
だが、ジークベルト将軍は、その言い分をにべもなくはねつけた。
「先に開いた軍議の席で申した通りだ。〈七大の勇者〉は〈禍神の使徒〉とのみ戦うと」
彼らを召喚したのは、本来は、そのためである。
それに、比類無きまでの魔力を持つ〈七大の勇者〉だが、その魔力は無制限ではない。
たとえば〈火炎の勇者〉あたりが全力を振るえば、転移してきた魔物達をたやすく瞬殺できるであろうが、その後には相応の休養が必要だろう。
〈七大の勇者〉は最大最強の切り札たる存在であり、言い方を変えるならば、とっておきの予備兵力である。
緒戦から予備兵力を投入するのでは話にならない、とのジークベルト将軍の主張に、軍議の席で誰も異論を口にしなかった筈だ。
「あ、あんな巨大な魔物が、前触れも無く現れるなど、話が違うではないか」
ジークベルト将軍の重ねての督戦に対し、伝声管からはヒステリックにわめくような声がかえってきた。
たしかに、荒野の彼方にある獅蠍は、先日の巨人族にも匹敵しようかという、小山のごとき巨体だ。
カラクルでの映像ではピンとこなかったが、こうして肉眼で見ると、その迫力が実感できる。
もっとも、魔物の軍勢にいた鷲獅子や上位猪鬼との比率から、かなり早い段階で、その事実は指摘されていたのだが、してみると、カラクルに集結している魔物には、あのくらいに巨大な個体がぞろぞろいるということになる。
「そ、そうだ。転移魔法を駆使した上に、あのとてつもない巨体。あれこそが〈禍神の使徒〉に違いない。将軍、〈七大の勇者〉の出番ですぞ」
ついには、そんなことまで言い出した。
たしかに、あの獅蠍は、滅多に無いほどの極めて強力な魔物ではあるが、〈禍神の使徒〉ではない。
たとえ、伝説級とされる百腕巨人だとしても、〈禍神の使徒〉に該当しないだろう。
希少な〈禍神の使徒〉の記録に、その具体的な描写は無いが、既に知られている魔物が該当するのであれば、その旨が記載されている筈だというのが、古文書を読み解いた学術院と魔導師達の結論である。
オリヴァー卿などは、〈禍神の使徒〉に関する記述を意図的に省いたのではないかとも言っていた。
いずれにせよ、〈禍神の使徒〉の正体を見極め、それを明らかにするのも〈七大の騎士団〉の『眼』である〈白の騎士団〉の役割とされているのだが、ビラーベック侯爵の主張は、あまりにも根拠に乏しい。
「卿がそう言うのであれば、なおのことだ。あれが〈禍神の使徒〉たることの証を立てねばならんな」
そう言ったジークベルト将軍の口調は、いっそ穏やかといってよかったが、次の瞬間、それは凄まじい怒声となった。
「四の五の言わんと、とっとと出んか、この莫迦ものども!!!」
それこそ、獅蠍の咆吼さながらである。
「ひ、ひぃいい」
悲鳴のような声が伝声管から返ってきた後、〈白の騎士団〉が慌てふためくように出撃するのが見えた。
補給や伝令を重んじる、手堅い用兵家として知られるジークベルト将軍だが、ポルタバ辺境伯が言うには、本質は猪突猛進型の武人で、若い頃には幾度も先頭に立って、魔物の群れや敵国の軍勢に突撃したそうだ。
そのポルタバ辺境伯にしてからが、〈白の騎士団〉ではなく、前衛の〈緑の騎士団〉への配備を望んだのであるから、どっちもどっちである。
私自身は、飛龍騎士や一角獣部隊を擁する〈緑の騎士団〉に配備されるものと思っていたが、専用騎である天馬が決戦用の予備兵力と定められたことから、ジークベルト将軍や参謀達と共に、この場にいる次第だ。
さて、〈七大の騎士団〉のうち、五つまでが所定の位置に陣を張ると、遊撃たる〈黒の騎士団〉が〈青の騎士団〉よりもさらに右側で楔形の陣形をとった。
救護兵としての役割がある〈紫の騎士団〉は半分を待機させ、残りの半分を各騎士団に随行させており、独自の陣形は持たない。
紆余曲折はあったが、これで〈七大の騎士団〉による迎撃態勢が整った。
すると、まるでそれを待っていたかのように獅蠍が吠え、魔物の群れが動き出した。
「鷲獅子の集団が突撃してきます」
「その数、おおよそ二百」
数少ない、光のウィンドウを形成できる『遠見魔法』の使い手こそ、全てを〈白の騎士団〉が押さえてしまったが、それ以外の、つまりは本来の『見るだけ』のレベルにある魔導師は、この本陣と各騎士団に、それこそ充分な数を割り当てている。
魔力不足を羞じた彼らは、その分を補うべく、自身の観察眼を鍛え、また、見た内容を的確に伝える訓練を重ねており、漫然と遠くの光景を映し出す連中よりも、あるいはこちらの方が全軍の『眼』としては優秀なのではないかと思われる。
確かに光のウィンドウを用いての視覚情報は豊富で客観的だが、逆に言えば情報量が多すぎて、こちらの処理が追いつかない局面があるのだ。
いくつもの光景を同時に見て、その中から必要な情報を得るなど、〈光輝の勇者〉であればともかく、凡人には難しいものだ。
少なくとも、現行の体制で、ジークベルト将軍も不足を感じていないように見受けられる。
そのジークベルト将軍は、『遠見魔法』の使い手からの報告を聞いて、低く呟いた。
「やはり、先陣は鷲獅子か」
百年前は三万騎にて戦い、そう遠くない過去において飛龍騎士団を壊滅せしめ、〈七大の勇者〉をもってして、はじめて退治できた魔物であるが、ジークベルト将軍の表情に恐れと焦りはなかった。
「〈緑の騎士団〉に合図を」
ジークベルト将軍の命を受け、控えていた射手が上に向かって矢を放った。
鏃に魔石を使った矢は、上空で緑色の光を二回ほど発した。
すると、前衛で防衛網を築くように展開していた〈緑の騎士団〉が、二つに分かれて左右に移動していく。
傍目には、迫り来る鷲獅子達から逃れようとしているようでもあった。
それを追いかけるように数匹が進路を変えたものの、大半の鷲獅子は盾の城塞を目指して直進してくる。
いかに堅牢な盾の城塞といえども、二百近い鷲獅子を相手に、持ちこたえられるものではない。
そして、盾の城塞という本拠地を失えば、〈七大の騎士団〉は不毛の荒野であるバスルからの撤退をせざるを得ないのだ。
「さすがは獅蠍。賢者たる猛獣と言われる由縁だな。明確な目標を持って攻撃をしかけてくるか」
ジークベルト将軍は、少し感心したように呟いた。
「だが、しょせんは獣の浅知恵よ。〈黄の騎士団〉と〈緑の騎士団〉に合図を送れ」
さきほどの射手が立て続けに二射を放ち、上空で黄色い輝きと緑色の輝きが瞬いた。
〈黄の騎士団〉麾下の土属性魔導師が一斉に詠唱し、直進する鷲獅子達の進路上に棘だらけの巨岩が突き出した。
それと同時に、左右に分かれた〈緑の騎士団〉からも風の魔法が放たれた。
飛龍よりも大きな鷲獅子が驚くべき速さで空を駆けるのは、自身の風魔法によってである。
諸国の人材を集めても、鷲獅子を押しとどめるほどに、真っ向から対抗できる風魔法の術者は滅多にいない。
だが、逆に鷲獅子を後押しするとなれば話は別だ。
上位種の魔物が自身にかけている強力な魔法に、さらに上乗せするように行使された魔法の効果は絶大であった。
鷲獅子の群れは、さらに加速された自身を押しとどめるまもなく、言わば暴走するように巨岩に向かって次々と激突していき、結果として、鋭く突き出た長大な棘に、我と我が身を貫くこととなったのだ。
ほぼ時を同じくして、二つに分かれた〈緑の騎士団〉を追った数匹も、魔法筒の集中砲火を浴びて壊滅した。
斑土蜘蛛の糸で織られたプロムベを撃ち出すように改良された魔法筒は、そのプロムベに魔力を込めた〈疾風の勇者〉の攻撃と遜色のない威力を発揮したのだ。
かくして、上位種を相手にした緒戦は被害らしい被害もなく、見事に勝利をおさめた事実に〈七大の騎士団〉の全軍から歓声が沸き立った。
もっとも、その例外はいた。
ジークベルト将軍の近くに、突如として光のウィンドウが現れ、その中に文字が綴られた。
『将軍、あの光の矢はいかなることでしょうか』
ジークベルト将軍が、合図に使った魔石の矢を指しているようだ。
『伝令や指揮は、我ら〈白の騎士団〉の役目。それを差し置いて、頭ごなしに……』
〈光輝の勇者〉が操る流暢な『めっせーじ』とは異なり、見ているだけでイライラするほどにノロく、ところどころつっかえるように流れている文字は、つまりは、ビラーベック侯からの抗議であった。
『ただちに、納得いく説明を頂きたい』
「はて。説明したくとも、それを行える術者がおらんのではなあ」
光のウィンドウを操る使い手を、全て〈白の騎士団〉に奪われたジークベルト将軍は、おどけたように軽く肩をすくめてみせた。
例の射手や、周囲の参謀達も苦笑するばかりである。
鷲獅子を殲滅した先の戦術は、実を言えば〈白の騎士団〉も参加した軍議で決められたものだ。
各騎士団が動くタイミングの指示について、細かな打ち合わせがなされたにも関わらず、〈白の騎士団〉がいっこうに動こうとしなかった為、あらかじめ合図の代替手段を用意していたジークベルト将軍が自ら采配を振るったということになる。
宮廷貴族に牛耳られた〈白の騎士団〉が、実戦では役に立たないと見切ったジークベルト将軍と参謀達は、いく通りもの状況を想定し、それへの対策を練りあげ、実現に向けて、〈緑〉〈黄〉〈青〉〈赤〉の各騎士団と綿密な打ち合わせを行ったのだ。
それが、見事な戦果として現れたわけだが、このような地味で労の多い作業に対し、宮廷貴族はまるで興味を示さなかった。
「戦場とは予測不能なもの。高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することこそ肝要です」
などと、筆頭であるビラーベック侯爵はうそぶく始末である。
おそらく、自分達の役割を観戦武官のようなものと考え、当事者意識が皆無なのだろう。
その一方で、あれこれと余計な口を挟むのだから、手に負えない。
〈黄の騎士団〉よりも、さらに後方となる現行の〈白の騎士団〉の配置は、司令部である盾の城塞から追い出し、かつ、他の騎士団の邪魔にならないことを意図したもので、当初はジークベルト将軍自身と共に中央に陣を構える予定であったらしい。
「もっとも、ビラーベック侯の言い分にも一理ある。たしかに、戦場では想定外の事態が起こるものだ」
緒戦における勝利の高揚が一段落したところで、ジークベルト将軍は気を引き締めるように言った。
実を言えば、そうした事態に対する方策は皆無に等しい。
もっとも、対処方法を用意できないからこそ、想定外ではあるのだが。
その意味では、〈白の騎士団〉がジークベルト将軍の手を離れたのは、痛恨の極みではあったのだ。
「いざとなれば、私が手を貸しましょう」
突如としてかけられた声に振り向くと、そこには、待機していた筈の〈光輝の勇者〉を始めとする勇者の面々がいた。
ジークベルト将軍が、少し咎めるように言った。
「あなた方は、〈禍神の使徒〉が現れるまで鋭気を養って頂く筈だったが」
「だって、やることなくて退屈なんだもーん」
頭の後ろで手を組んだ〈火炎の勇者〉たるユミが、まるで子供のような口調で応える。
その口調と反比例するかのような、きわどい装備に包まれた発育の良い胸を強調するような格好に、年若い武官達が、そそくさと視線を逸らしている。
ともあれ、大人しく待機するなどは、この血気盛んな若者達には、相当に苦痛であるらしかった。
実戦における末端の兵士は、ひたすら待機を強いられるのだが、そんなことを彼らに説いても無駄であろう。
何より、口先だけの宮廷貴族とは異なる相手であって、ジークベルト将軍としても扱いに困っているようだ。
「それにしても、見事でありましたな。正直、我ら抜きで魔物に対峙すると聞いて危ぶんでおりましたが、かくも秀逸な戦術を駆使されるとは」
おびただしい数の鷲獅子を串刺しにした、棘だらけの巨岩を見やりながら、〈大地の勇者〉であるコウタが感心した口ぶりでいう。
コウタは他の若者と年齢は変わらぬ筈だが、見た目が老けて……いや、大人びているのと、同じ武人同士ということで、ジークベルト将軍やポルタバ辺境伯とも、妙にウマが合うようだ。
加えて戦術などにも詳しく、勇者達からも「ヲタク」なる――ミホから聞いたところでは、あちらの世界での『賢者』を意味する称号で呼ばれる時がある。
もっとも、コウタの知っている戦術は、彼らの世界での兵器体系を前提としているせいか、いささか理解できない点も多いのだが、いくつかはジークベルト将軍もうなづくものがあるようだ。
ちなみに、あの巨岩は〈大地の勇者〉であれば瞬時に作成できたであろうが、そんな真似は通常の魔導師にはとうてい無理な話である。
従って、事前に作成して地中に隠してあったものを土属性魔法で呼び出す方式で実戦投与したものだ。
「お褒め頂いて恐縮だが、あれは儂の発案ではない。以前に配下であった男を通して、その、儂の身内が知らせてきた作戦案のひとつでな」
「ほう。さすがは血は争えませんな。それにしても、魔物が使う風魔法をこのように暴走させることが可能とは、初めて知りました」
その点については、私も同感である。
飛行する魔物に対して、真っ向からの風魔法によって押さえ込む戦術は過去に幾度も使われており、充分な魔力を確保することができれば有効とされてきた。
ただし、鷲獅子級の魔物を押さえ込むほどの魔力は、数百人の上級魔導師が束になっても不可能だったのだ。
だが、魔物を支援するかのごとく、その風魔法を増大する方向で魔力を行使すると、それが僅かな魔力であっても、制御の均衡を失い、たちどころに暴走してしまうとは、この作戦案によって私も初めて知った。
風属性魔導師が飛翔する場合、魔力の支援は文字通りの支援となるが、先天的な本能で風魔法を駆使する魔物にとっては、たとえるならば、走っている最中に足元に油を撒かれるような状況となるのだろう。
おそらくは先代である師匠ですら知り得なかったであろう、驚愕の事実であった。
まるで『魔物の感覚を、我が身のように知っている』人間で無ければ、これに気づくことはなかったであろう。
「これだけの才があるのなら、筆頭参謀として招いても身内の贔屓と誹られることもないでしょう。将軍の御子息達に関する秀逸な評価は誰もが認めるところ。是非とも、そのようになされてはいかがか」
そのコウタの言葉に、かぶりをふりつつ、将軍はため息交じりに応えた。
「本来なら、そうしたいところだがな。あれが男として生まれていればと、何度思ったことか……あ、いや、今の言葉は忘れて頂きたい」
私としては聞き捨てならないような、それでいて、半ば首肯したいような、微妙な科白だったが、将軍の要望通り忘れることにしよう。
この親娘の確執は、第三者が関わることでもないのだから。
その時、『遠見魔法』の使い手達が、新たな警告を発してきた。
「鷲獅子の第二派きます。残存する三百を全て投入してきました。密集隊形を取り、先ほどの半分の速度で近づいてきます」
二度と同じ手はくわないということか。
速度を抑え、密集することでお互いの結界を重ねたのだろう。
これで風魔法に干渉され、暴走することはないし、改良型の魔法筒も威力を減じる筈だ。
しかし、ジークベルト将軍の落ち着いた態度は揺るがず、〈七大の勇者〉に助力を請う気配すら見せなかった。
「〈青の騎士団〉に準備の合図を。その後のタイミングは、お主らに任せる」
「はい」
将軍の命に応じた合図の射手が、今度は青い輝きの矢を放ち、そして次の矢を構えた。
一方で、合図を受けた〈青の騎士団〉の魔導師達は一斉に魔力を放ち、上空に巨大な水塊が出現する。
「へえ、あのくらいはできるんだ」
〈氷雪の勇者〉であるヒロシが、むしろ感心した様子で言った。
もっとも、彼ならばあれ以上の水塊を単独で形成し、そこから氷槍を形成するところだが、〈青の騎士団〉麾下の魔導師には、そこまでの力はない。
「んー、あれをあのままぶつけても鷲獅子相手じゃ、たいしたダメージにはならないんじゃないかな」
ヒロシが軽く首を傾げる。
その宙に浮いた水塊が薄く引き延ばされていくとともに、彼はますまず首を傾げたのである。
「あれだけ薄くなれば、氷にするのは容易いかもしれないが、威力なんてほとんどないぞ」
すっかりと板状になった水が、今度はゆっくりと傾けられていく。
「ああ、そういうことですか」
〈光輝の勇者〉が何かに気づいた様子でうなずいた。
さすがに彼女にはわかったようだ。
そして、一人の『遠見魔法』の使い手が、合図の射手に近寄り、ある一点を指さした。
指し示された場所に狙いを定め、射手が矢を放つ。
そこは、飛来する鷲獅子達の進路だった。
不意に、その周囲が広範囲にわたって暗くなり、ある一点だけが異常なほどに輝いた。
レイカの納得したような声が静かに響く。
「なるほど、あの水の板は凸レンズだったのですね」
中央を微妙に膨らませて形成された広大な板状の水が、陽光を屈折させて焦点を造ったのだ。
密集隊形で飛来する鷲獅子の群れは、その焦点に飛び込むこととなった。
鷲獅子は火と風の魔法に秀でた魔物である。
魔力の火であれば、密集した結界がはねのけたであろうが、束ねられた陽光は光属性か闇属性でしか防げない。
むしろ、密集隊形をとったことが仇となり、十数匹の鷲獅子は焼き尽くされ、その他の鷲獅子もひどい火傷を負って、次々と地上に落下した。
ほとんどは地上に激突して絶命し、わずかな生き残りも、合図を受けて殺到した〈緑の騎士団〉によって止めをさされていった。
「水属性魔法で灼熱を……か。これは凄いな」
「お見事です」
ヒロシの感嘆とレイカの賞賛に対し、ジークベルト将軍は今度もかぶりをふった。
「あれも、元はと言えば、先ほど申した者の発案でな。もっとも、その当人も別の人間から助言を受けたそうだが」
「興味深いですね。こう言っては失礼ですが、凸レンズのような発想を、この世界の方々が思いつくとは予想外でした」
おそらくは〈光輝の勇者〉であれば、あのような手間をかけなくても同様の、いや、もっと大規模で精密な事象を起こせるだろう。
それだけに、この戦術の発案者に、ひどく興味を抱いたようだ。
ともあれ、続いての勝利に、再び全軍が歓声に湧いた。
だがそれは、獅蠍が放つ、憤怒の咆吼が響き渡るまでであった。
「獅蠍を先頭に、残りの魔物が駆けてきます」
その『遠見魔法』の使い手が報告すると、ジークベルト将軍も緊張した面持ちになった。
「浅知恵を絞っても、分散しての逐次投入にしかならんと、ようやく気づいたか。あるいは、魔物らしく、策を捨てて単なる力押しに戻ったのかもしれんが……」
強襲する獅蠍を睨むようにして、ジークベルト将軍が険しい表情になった。
「これが一番厄介だぞ」
一応、主人公や勇者以外にも見せ場を、ということで将軍以下が頑張っております。
えー、ようやく、本業も一区切りつきました。(油断はできませんが)
感想欄でご指摘頂きましたが、龍騎帝については、当初、機人 → 機龍ということで名称を検討しましたが、ググった結果、断念したのはここだけの話です。
いや、なろうの読者様は油断ができません。
次回
『第73話 八番目の騎士団(仮題)』
4/15の更新を予定しています。




