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第70話 装魔の勇者

全て薬師の視点となります。

 別室に控えていたみんなと合流し、コウイチを追って外に出た私は、軍の演習にも使われる広大な王宮の庭で、二体の巨人が対峙しているのを見上げることとなった。

 一体は青銅巨人タロスだったが、もう一体はどの記録にも無い巨人である。

 あの機人マシナドルにも似ているようだが、装甲の所々に走る紋様に、赤や紫の微かな光が、まるで脈動するように明滅する様子からして全くの別物だ。


「貴様も巨人になるというのか!?」


 青銅巨人タロスが信じられないというような声をあげた。

 いや、あれは青銅巨人タロス自身のものではなさそうだが。


「胸のところに、くっついている奴がいるわね。そいつの声よ」


 傍らにいたマルタが、そんなことを言ってきた。


「しかし、ここまでくると、俺達の出る幕じゃねえな。俺の剣じゃ、爪楊枝みたいなもんだ」


 隣にいたエッカルトが何とも言えない表情で、自分の大剣と巨人を見比べている。

 そして、ミロンがしみじみとした口調で言った。


「それにしても、でけえな。王都の中にいたのを『おチビさん(プティ)』呼ばわりするのも無理ねえぜ」

「激しく同意しますわ。あんなに黒くて、固そうで、大きなモノをお持ちだったなんて。ワタクシ、言葉もありませんわ」


 そのローラの、感激に耐えぬといった叫びに、黒い巨人がなんとなく身震いしたように見えたのは気せいか。


「陛下も早くお逃げになりませんと。ここは危険ですぞ」

「見たい、と言ったのはこっちじゃないか」


 呆れたことに、アナベラ王太后も平然としてこの場所にいた。

 コルネーユ伯爵や近衛騎士などが必死に避難を勧めているが、耳を傾けるつもりは、まるで無さそうだった。


「一度信を置いたら、徹底して信頼する。そうじゃなきゃ、得られないものもあるんだよ。それに、危ないことなんざ、何もないさ。そうだろ?」


 その最後の言葉は私に向けられていたので、私はうなずき、手をあげて黒い巨人を差し示した。


「その通りです、陛下。あれこそが、我らの守護者、〈装魔の勇者〉です」

「うむ、先に来援した〈七大の勇者〉に勝るとも劣らぬ偉容。見事である」


 プレニツァを統べる王太后の、その言葉と同時に、二体の巨人が動いた。


「巨人になるのはボクだけでいいんだぁああ」


 胸に張り付いた男の、聞き苦しい喚き声と共に、青銅巨人タロスが放った拳を、黒い巨人――グランボルグが、掌で受け止めた。

 いや、単に受け止めたのではなく、突き出した拳に対し、撫でるような動きで踏ん張りのきかない方向にずらし、絶妙な加減で弾いたのだ。

 青銅巨人タロスは、自身の動きを逸らされるような形でバランスを崩し、地響きをたてて倒れた。


「ほう、相手の力を利用した、見事な受け流しだな。俺なら手刀で引っかけて逸らすところだが、あんなやり方もあるのか」


 〈闘奴の武王〉が感心したように呟いた。

 そして、難しい表情になる。


「本来なら、ここで追撃して、寝技で締め上げるところだが……相手が青銅巨人タロスじゃな」


 姿こそ人間に近くとも、中身は全く異なるなど、魔物には珍しくもない。

 巨人族タイタンという括りは、単なる便宜上の区分であって、青銅巨人タロスは、どちらかと言えば石魔ガーゴイルに近い存在である。

 呼吸をしているわけでは無いので、首を締め上げたところで無意味なのだ。

 たしか、胸の奥に存在する核か、そこから魔力を供給している血管のようなものを破壊しなければ斃せない魔物だ。


「それもあるが、俺の見るところ、単純なパワーだけで言えば、あの黒いのより、青銅巨人タロスの方が上だな。まともに組み合ったら、勝ち目は無いぞ」


 その青銅巨人タロスが、ゆらりと立ち上がった。


「許さない、許さないぞお」


 青銅巨人タロスの胸に張り付いた男の顔が、激しい憎悪に歪む。

 その男を、ミロンが顎をしゃくって指し示した。


「あいつが軍にくっついてきた召喚術師だ。王族にも連なる出自だとかで、えらく傲慢なやつだったが、あそこまでぶっとんだ性格だとは思わなかったぜ」


 自身を召喚対象と融合させることで制御する術式などというものを考案し、かつ、実行したところを見ると、才能や発想も凡庸ではないのだろうが、それ以前に人格的な均衡には著しく欠けているようだ。

 ただ、幸か不幸か、男の完全な制御下にあるせいで、あの青銅巨人タロスも本来のパワーを発揮する戦い方ができないようにも見える。


「ふん、殴り合いなんて、莫迦なやつらがやることさ」


 先に殴りかかったことを忘れたかのように、男は唇を歪めて言った。

 そして、青銅巨人タロスの巨大な手のひらが、グランボルグに向かってかざされる。


炎よ(フロガ)燃やせ(ケーオ)


 それは、下級の魔導士がよく使う、ありふれた魔法だった。

 だが、巨人族タイタンが放つとなれば、話は別だ。


「いけませんわ!」


 ローラの焦ったような声と共に、私達の周囲を青白い光が包んだ。

 おそらくは、魔導具による結界だろう。

 それをもってしても、青銅巨人タロスが放った炎の熱を防ぎきるのは不可能だった。

 ありふれた魔法といえど、巨人族タイタンによるそれは、そのスケールに見合った凄まじい威力を発揮したのだ。

 容赦なく私達の肌をなぶる空気の温度が、ますます上昇していく。


「くっ、結界が持ちません!」


 アンベルク屈指の魔導職人の、悲鳴にも似た声が聞こえた、その瞬間、私達の前に数体の機人マシナドルが現れた。

 その機人マシナドル達は胸の前で手を交差させ、新たな結界を形成する。

 さすがというべきか、見る見る気温が下がっていく。

 周りを見ると、あちらこちらにそうした機人マシナドル達がおり、私達同様に庭にいた人々を結界を張って守っていた。

 王宮を始めとする建物は、かなり強力な魔法結界が施されており、全く影響は無いように見えるが、外にいる私達は、あやうく熱死するところだったのだ。

 それらの結界が及ばない場所では、あまりの高温によって、草や樹木などが自然発火する始末である。

 青銅巨人タロスの放った火属性魔法の、たかだか余熱に過ぎない筈だが、それでもこの有様だ。

 巨人族タイタンが魔法を使うなどという話は、可能性としては議論されてきたが、記録の上では前代未聞である。

 おそらくは、あの召喚術師は火属性魔法の使い手でもあったのだろう。

 召喚魔法の使い手でありながら、他の魔法をも使えるなどとは、極めて希有な資質の持ち主と言える。

 ミロンが傲慢と評していたが、そうなるのも無理はない。

 そして、機人マシナドルによって私達を守ったコウイチだが、一方で彼自身は火属性魔法の直撃をまともに受けていた。

 グランボルグの巨体は、何とか耐えきったようだが、かなりのダメージを負った様子でうずくまっている。

 見た目こそ機人マシナドルに類似しているが、その対魔法能力は遙かに及ばないようだ。


「仕方あるまい。量産された機人マシナドルと違い、アレは欠陥品じゃ。多少は頑丈にできておるが、魔導学者どもの評価は『基本的に、からっぽの能なし』じゃったからの。初代あやつも苦労しておったわ」


 こんな時だというのに、ノインがしみじみとした口調で言う。


「その『能なしの欠陥品』より他の化身アバタルになった方が良くは無いか? コウイチは、なぜ、そうしないんだ」


 私は当然の疑問を口にした。


「ここが分水嶺じゃと自覚しておるのじゃろ。アレを使いこなせねば、初代あやつには及ぶべくもなく、完全とは言えんからの」


 どうやら、彼女は一蓮托生となる覚悟を決めたようだ。

 〈ビブリオ〉に避難することも可能な筈だが、そんな気配は微塵も無い。

 そうなれば、私としても同様に覚悟しなければなるまい。

 他のみんなも同様であるらしかった。


「どっちにしても、あの青銅巨人タロスが暴れ回ったら、今から逃げだしても無駄だからな」


 ミロンが軽く肩をすくめて言ったが、確かにその通りには違いない。

 強力な魔法結界がある王宮と言えども、安全な避難場所ではあり得ない筈だ。


「へ、陛下……」

「言ったはずだよ。一度信を置いたら、徹底して信頼するってね。逃げたきゃ止めやしないから、好きにしな」


 この期に及んで狼狽するコルネーユ伯爵に、アナベラ王太后はぴしゃりと言ってのけた。

 それを聞いて、コルネーユ伯爵もようやく腹を据えたようだ。


「いえ、最後までお供します」


 そんな私達が見守る中、グランボルグは立ち上がろうとして、足をよろめかせ、近くにあった煉瓦造りの倉庫らしき建物に手をついた。

 その巨体の重量に耐えられるほど頑健な造りでもなかったようで、壁があっさりと崩れ落ちる。

 と同時に、ひどい瘴気のようなものが立ちこめた。

 結界に護られていなかったら、嘔吐や眩暈などの影響がでそうな密度であり、見ていて気持ちの良いものでは無い。

 さすがに閉口したのか、王太后が美しい眉をひそめた。


「なんだい、これは」

「あの倉庫は、〈冥闇の勇者〉によって斃された巨人族タイタンむくろを納めていた場所です」


 コルネーユ伯爵が悩ましげな様子で答えた。

 瘴気のために素材として使うどころか、しかるべき処理をしなければ廃棄もできないシロモノを、野ざらしにもできず、結界を張った倉庫に一時的に保存していたようだ。

 諸々の混乱の中で放置していたことにより、その瘴気も一段とひどいものになっていた。

 その倉庫の中に向けて、グランボルグは手をかざした。


「うん? 〈ビブリオ〉を開いたようじゃが、何をやっておる?」


 ノインが口にした疑問は、すぐに明らかになった。

 見る間に瘴気が収まると同時に、倉庫から巨大なものが次々と立ち上がったのだ。

 それは、闇色の眼を持ち、どす黒い肌をした独眼巨人サイクロプス青銅巨人タロスだった。

 いや、その原型は留めているが、これは完全に別物だろう。


「なるほど。瘴気の塊となった巨人族タイタンむくろならば、邪精霊の依代としてうってつけか。そうじゃな、巨骸兵とでも呼ぶべきかの」


 納得したようにノインがうなずいた。

 立ち上がった巨骸兵達は、ゆっくりとした動作で青銅巨人タロスに向かっていった。


「くっ、この化け物どもがああ」


 当人も言えた義理では無いと思うのだが、ともあれ、その召喚術師と融合した青銅巨人タロスは、再び、火属性魔法を放った。

 だが、生きていた時に帯びていたという対魔法結界は、巨骸兵と化した今でも有効だったようだ。


「あれのせいで、我々の聖属性魔法では浄化もできません。事態が落ち着いたら、〈聖祈の勇者〉にお願いしようと思っていたところでして」


 コルネーユ伯爵が王太后に説明する声を聞きながら、私は巨人同士の戦いを見やった。

 瘴気に侵された骸は、しかし腐敗とは無縁のようで、その身体能力は命があった頃よりさほど劣化は見られないように思えた。

 そして、魔法という有利性が無くなってしまえば、たった一体の青銅巨人タロスでは、数の多い巨骸兵達に抗うすべも無い。

 能力や条件が互角なら、多数が少数に勝つ。それが魔物であろうが、しごく当然の話である。


「認めない、認めないぞ! こんなの認められるものか」


 巨骸兵達に取り押さえられた青銅巨人タロスの胸元で、カブルーンの召喚術師が見苦しく喚いた。

 それを見上げた王太后が、苦々しい口調で呟く。


「あの者が召喚した猪鬼オークに、少なからぬプレニツァの民が犠牲となった。こやつだけは、処刑してやりたいところじゃが、猪鬼オークとカブルーンを繋ぐ生き証人でもあるしな」

「賢明な判断です、陛下」


 さすがはプレニツァ中興の祖とも呼ばれるだけのことはある。

 私は、この女傑の合理的な考え方に敬意を表した。


「あとは、あの者が張り付いておる青銅巨人タロスを還せば、まずは終わりだねえ」

「はい」

「ただ、あいにくと、プレニツァの召喚術師は、知っての通りの事情で全滅しているから、これについては、コウイチの手を貸してもらうよ」


 そのアナベラ王太后の言葉に、私は咄嗟に返事ができなかった。

 コウイチは〈使い魔〉を駆使する〈装魔の勇者〉ではあるが、召喚術師としては完全な落ちこぼれである。

 そもそも、召喚術師としての基本的な教育も受けていない筈だ。

 どうしたものかと答えあぐねていると、それまで聞き苦しい喚き声を上げていたカブルーンの召喚術師が、不意に押し黙った。

 何か不自然なものを感じ、そちらを見ると、青銅巨人タロスの胸元に張り付いた男は、恍惚とした表情を浮かべていた。


「は……はい、偉大なる御方よ。喜んで盟約に従います」


 遙か彼方を見やるようにしたカブルーンの召喚術師が、そう口にした瞬間。

 空間が軋むような感覚と共に、青銅巨人タロスが咆吼した。


「これは……まさか、成り上がりだと!?」


 上位種に分類される巨人族タイタンが、さらに成り上がろうというのか。

 はたして、魔法陣に包まれた青銅巨人タロスの姿がみるみるうちに変わっていく。

 元々の巨体がひときわ大きくなり、そのうえ、二本の腕だったものが、多数の触手に変じた。


百腕巨人ヘカトンケイル……」


 それは、神話や伝説にしか存在しない筈の、異形の巨人だった。


「ぎゃはははは」


 狂ったような笑い声と共に、押さえつけていた巨骸兵が一気にはねのけられ、うち二体が触手の連打を受けた。

 他に表現のしようがないので触手と呼んでいるが、それは一本一本が、通常の巨人族よりも強力な『豪腕』である筈だ。

 以前、コウイチから、彼の世界で書物に記されたという武術の達人の話を聞いたことがある。

 凄まじい速さで繰り出す拳は、その残像すら見える手数の多さから『百裂拳』なる呼称がつけられたそうだ。

 百腕巨人ヘカトンケイルの繰り出すそれは、文字通りの『百裂拳』――いや、ことによると、それ以上だったかもしれない。

 瞬時にして巨骸兵が粉砕される光景は、とても現実のものとも思えなかった。

 そして、一本の触手が、私達を護るように立ちはだかっていた機人マシナドルの数体を、まとめて叩き潰した。


「あ……う……」


 誰が漏らした声か、あまりのことに、言葉もでないようだ。

 私も愕然として、声も出ない。それ以前に、まともな思考すらできない。

 文字通りに強大な破壊の権化を前にして、誰もが――巨骸兵すらも慄然としたように身動きを止めた中、平然と歩み出した存在があった。

 コウイチが変じた七番目の化身アバタル、グランボルグである。


「くくく、見かけ倒しのくせに。偉大なる御方に、素晴らしい力を授かった、このボクに刃向かおうというのか」


 既に百腕巨人ヘカトンケイルの中に埋没し、ある意味で完全に一体となったカブルーンの召喚師が嘲るような声をあげた。

 それに対し、グランボルグは腰のベルトに手を伸ばし、魔法陣の部分を、何か操作したようだった。

 次の瞬間、ベルトに刻まれた六芒星の魔法陣が輝き、その輝きの中で黒い甲冑姿であったものが、別の何かに変じた。

 グランボルグは、何の飾り気も無い、極めて簡易な意匠といえる甲冑だったが、こちらは鮮やかな緑を基調とした、龍を思わせる意匠となっていた。

 むろん、実際に見るのは初めてだったが、その姿については、古文書――厳密には古代遺跡の壁画に描かれたものの写本で見た記憶がある。

 それはアナベラ王太后も同じだったようだ。


「あれは、たしか……龍騎帝ドラグナーの……」


 王太后が口にした通り、たしか古文書に描かれた龍騎帝ドラグナーの絵図がこれだった筈だ。

 龍神、もしくは天龍と呼ばれる存在と盟約を結び、その力を得たとされる伝説の存在である。

 そして、私はようやく『欠陥品』と言われたグランボルグが、なにゆえに化身アバタルの中に存在するのかを悟った。


「そう……か。あの七番目は……」

「うむ。言ってみれば、コウイチがいつも身につけておる灰色の装備、あれの強化版じゃな」


 ただ一人だけ、今まで動じることのなかったノインがうなずいた。厳密には、百腕巨人ヘカトンケイルの、その百もあろうかという触手に、若干腰が引けていたようにも見えたが、そこはあえて目を瞑ろう。

 あるいは、あれが百腕ではなく、百足だったら……などと、私の意識の一部には、こんな時にも埒もないことを考えるところがあるようだ。

 ともあれ、そんな雑念を振り払い、私はコウイチが所持している魔法陣を脳裏に思い浮かべた。

 たしか六芒星の陣で、中央にあるのがグランボルグを示す紋様だった筈だ。

 つまりは、他の六つの存在を支え、その器たることが七番目の化身アバタルの、本来の用途ということになる。


「あれが……あれこそが……」


 私は、そこまで言うのが精一杯だった。

 グランボルグという器に、究極上位種と呼ばれる存在を満たした、その形態の一つが私達の前にあった。

 つまりは、伝説の龍騎帝ドラグナーとは、遙かな過去に顕現した〈魔を鎧いし者トイフェル・リュストゥング〉であったのかもしれない。

 以前に〈禍神の使徒〉に対抗できる勇者の定義として、古文書に『七つの大いなる力』との記載があった旨をコウイチに説明したが、まさか、その大きさ自体を直裁的に表したものだとは思わなかった。


「おお、やはり、あの方は、我ら龍種の末裔すえを率いるに相応しい方だったのだな」


 トゥーラが感極まったような、喜悦ともいえる声を上げた。

 そういえば、龍を使役したとされる、かの古代王国において、崇拝の対象であったのが、龍騎帝ドラグナーだったはずだ。

 地を奔る鋼の龍が、天を翔る真龍に畏敬と憧憬を向けるのは、ある意味、当然かも知れない。


龍騎帝ドラグナーだと!? ふざけるな」


 百腕巨人ヘカトンケイルが忌々しそうに唸り、その触手が多条鞭のように龍騎帝ドラグナーに襲いかかった。

 巨骸兵をも瞬時に粉砕した、伝説級の魔物が繰り出す拳をまともにうければ、いかな龍騎帝ドラグナーといえども、ただでは済まなかった筈だ。

 だが、百本の『豪腕』が放ったそれは、ただの一つも龍騎帝ドラグナーに届きさえしない。


「風の結界? 恐ろしく高密度な空気の壁が、百腕巨人ヘカトンケイルの拳を防いでいるわ」


 ガイナス導師に認められた『眼』の持ち主であるマルタは、私には見えないものまで見ているようだった。


「ぬおおお」


 呪詛にも似た雄叫びをあげ、百の手が龍騎帝ドラグナーに向けられ、そして、各々の手に火属性の魔法陣が展開した。

 青銅巨人タロスが放った炎の一つですら、あれだけの威力があったのだ。

 伝説級である百腕巨人ヘカトンケイルが放つ、火属性魔法が百もあれば、龍騎帝ドラグナーはどうかわからないが、私達、いや、このプレニツァ王都そのものが、煮えたぎる坩堝と化してしまうだろう。

 一縷の望みを託して龍騎帝ドラグナーを見やった私は、さらに信じられない光景に愕然となった。

 反撃のためだろうか、なんと、こちらも火属性の魔法陣を展開したではないか。


「まさか、ここで撃ち合いをやるつもりか!?」


 あの飛龍もどきの形態ですら、そのブレスは桁違いと言える熱量だった。

 これが龍騎帝ドラグナーであれば、どれほどのものになるか。

 おそらくは、百腕巨人ヘカトンケイルが放つ火属性魔法より劣る、などということは考えられない。

 どちらが先に撃つにせよ、逃れようのない“死”を私が覚悟した時、龍騎帝ドラグナーの両肩に現れたものがあった。


魔法筒マギスロア?」


 見たことも無い意匠ではあったが、それは、あきらかに特大の魔法筒マギスロアだった。

 そして、百腕巨人ヘカトンケイルの魔法が完成する前に、その魔法筒マギスロアが輝きを放ち、展開していた魔法陣を撃ちだした。

 ドラゴンのブレスにも似た、魔法筒マギスロアから放たれた輝きは、魔法陣に包まれた伝説級の魔物――百腕巨人ヘカトンケイルを一瞬にして灼き尽くしながらも、しかし、その周囲には、まったく影響を与えなかった。

 驚くべき高密度な熱量と、それ以上に驚嘆すべき精密な制御能力である。

 そういえば、コウイチは、あの〈死者の迷宮(グラープ)〉の閉ざされた倉庫で何を見つけたと言っていたか。


「究極上位種専用の……武装か。つまり、究極上位種の“力”を増幅すると同時に、完全に制御する為の……」


 私はあらためて龍騎帝ドラグナーを見上げた。

 それは、かの〈禍神の使徒〉に対抗するべく異世界より降臨した、〈装魔の勇者〉の完全なる姿であったのだ。

 以前に感想欄で頂きました、化身の第二形態&複数を混ぜた形態はこんな感じです。

 某仮面ライダーでの電王などの、拡大版というところでしょうか。

 読者様におかれましては、七番目の用途などは、お見通しだった方もいらっしゃるかと思います。


 ともあれ、七十話かけて、やっと主人公が本格的な「勇者」に、さて、なりましたでしょうか。

 なにせ、主人公自身が未完成ですので、これからも迷走すると思いますが、今後ともよろしくお願い致します。

 そして、感想欄にて応援を頂いた方々を始め、この作品を読んで頂いている皆様に、ここまでお付き合い頂いたことに感謝を申し上げます。


 次回

『第71話 動き出す魔軍』

 3/25 更新

  → 申し訳ありません。

   本業の事情で、4/1の7時 更新とさせて頂きます。m(_ _;m

 

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