第64話 死者の迷宮
単体で召喚すると、ローグは手乗り文鳥のようなサイズだ。
そして、盟約を結ぶ際に召喚した時、グランボルグは身長二メートルくらいだった。
厳密な比率はさておくとして、〈装魔の勇者〉としてグランボルグを召喚すると、このぐらいの巨体になることは予想してしかるべきだったかもしれない。
ファンタジーな異世界のはずが、これではウル○ラマンである。
とにかく、燃費がむちゃくちゃ悪いのには参った。
魔力が足りない為、ベルトの補助に熟成させた神酒を加えて、ようやく召喚可能となるのだが、その神酒も、みるみると減っていくのがわかる。
顕現に時間的な制約があるところも、ウル○ラマンそっくりだ。
しかも、ベルトが不完全で、神酒の熟成も足りないので、本来の力を発揮できない。
見よう見まねの体術――正確には、以前にガイナス導師のところで対戦した、あの元闘奴の動きに関する俺の記憶を素材として、ガノンが俺の体型や体力に合わせて作成し、再び記憶や反射神経にフィードバックするという、けっこう複雑な工程を経た、しかし、つまるところは、『なんちゃって体術』なのだが、それを用いて、なんとか凌ぐしかなかった。
見た目が甲冑だが、剣や盾を持たないのは、本来の用途がそうではないからだ。
まあ、色々と問題はあるものの、この化身におけるサイズだけは、巨人族を相手取るには相応しいものと言えた。
これが、例えばローグ・フォームとかだったら、巨人族といえども、ブレス一発で対魔法結界ごと消し炭に変えられたかもしれないが、周囲のプレニツァ軍も巻き込んだ可能性がある。けっこう照準が甘かったりするのだ。
他のいくつかのフォームも、対魔法結界を備えた巨体に通用する威力があって、周囲に被害を及ぼさないという攻撃方法の持ち合わせは無い。
状況は、それほどに厄介だったのだ。
とりあえず、プレニツァ軍が避難するまで、巨人族を押さえ込むことにしたが、負傷者を搬送している為か、その動きは遅々としており、そろそろ限界を感じたところで、麗香達がやってきた。
由美の攻撃で隙ができた一体を仕留めたものの、魔力が底をつきかけてへばってしまった。
その後、田原と郷田――〈大地の勇者〉と〈冥闇の勇者〉が、巨人達を次々と仕留めていった。
いっそ、残り一体も〈七大の勇者〉に任せようかとも思ったが、グランボルグが無念そうな感じだったので、休んでいる間に回復した魔力をかき集め、最後に残った青銅巨人に対峙したのだ。
『我が主よ。まことにかたじけなく』
グランボルグの、そんな思惟が伝わってくる。
明確な意思疎通が可能なことと、〈装魔の勇者〉として召喚した時、巨人族に匹敵するサイズとなる点は、他の〈使い魔〉と異なる特徴だが、言ってみれば、それまでの能力しか無い。
『主よ。我は器なれば……』
どこかの仮面を付けた大佐のようなことを言っているが、まあ、確かに、本来の用途は――はて、こいつの用途は何だったっけ?
いかん、そろそろ、本当に限界だ。
最後に残った青銅巨人相手に、どこまで戦えるか微妙なところだが、巨人族の戦い方は単なる力押しだ。
俺の『なんちゃって体術』でも、カウンター狙いなら――。
そして、対峙した青銅巨人が襲いかかってきた時、相討ち覚悟で破城槌を突き出した記憶を最後に、俺は意識を失った。
◇◆◇
オリヴァーさん達が到着したのは、それから十日後のことだった。
召喚した巨人族の暴走により、半壊した王都だったが、トゥーラさんは何とか無事な宿屋を確保し、気を失った俺を運びこんでくれた。
ひどく衰弱していた俺は、その宿屋のベッドで、オリヴァーさん達を迎えることとなった。
「ふう。トゥーラからの伝書鳩を見て、気が気じゃ無かったが、思ったより元気そうじゃないか。心配したぞ、まったく」
血相を変えて飛び込んできたものの、俺の顔を見るなり安堵したような表情になった美貌の薬師は、大きなため息をつくと、そう言った。
「ご心配をおかけして、すいません」
「いいさ。色々と大変だったんだろう」
「んー、何がどうなったか、よく覚えていないんですけどね」
「うーん、いつも通りというか。まあ、トゥーラしかいなかったから、そうなんだろうね」
そんなオリヴァーさんも、いつも通りである。
慣れない異国の地で、落ち着かなかった俺だったが、ようやく安心することができたのは、我ながら現金だと思う。
その一方で、隣のトゥーラさんの部屋からは、ドタバタと騒がしい音がした。
「ひっ、ひぃいい。そ、そこはああっ」
「おとなしくなさい。新型装備の効果を確かめるには、ここを探るのが確実ですのよ」
「あうううっ、もう、無理。さ、三本なんて無理だから……ぐぐぅ、壊れちゃうぅ」
「龍の末裔たるあなたなら大丈夫。ほら、力を抜いて」
トゥーラさんの悲鳴と、ローラ嬢の叱咤が聞こえる。
何が行われているのか……いや、深く考えないようにしよう。
ともあれ、〈鋼龍の騎士〉といえども、あの〈漢の娘〉には、まるで歯が立たないようだ。
そして、トゥーラさんのひときわ大きな、そして切ないような悲鳴が響いた後、隣は急に静かになった。
俺の脳裏に、なぜか、花びらがハラリと散るような光景が浮かび、思わず心の中で合掌してしまった。
ややあって、上品な柄のハンカチで、そのゴツい手を拭いながら、ローラ嬢がやってきた。
「んもう、往生際の悪い娘だこと。ともかく、あちらのベルトは、概ね完成ですわね」
などと呟くローラ嬢に、オリヴァーさんが困ったような口調で言う。
「あまり、乱暴な真似はやめてくれよ」
「あら、優しくしましたわよ。十分にほぐしましたし」
何事もなかったかのように、そう応えると、ローラ嬢は俺の方に視線を向けた。
ろくに身動きもできない筈の俺だが、背筋を走る悪寒に、体が震えるのを止められなかった。
「断っておくが、コウイチには指一本触れさせないぞ」
今の俺には、オリヴァーさんの断固たる口調が、このうえもなく頼もしい。
「残念ながら、触らなくてもわかりますわよ。ふむ、魔法陣の魔力制御紋が、あれでは合わないようですわね。ということは、あそこをこうして、ここを……」
宙を睨むようにして、ブツブツと呟いている。
おそらくは、思い浮かべた魔法陣を、脳裏の中で書き換えているのだろう。
しばらくすると、何事かを決めたようにうなずき、そのまま部屋を出て行った。
そんなローラ嬢を見て、オリヴァーさんがしみじみと呟く。
「ああいうところは、本当に根っからの職人なのだな」
職人というより、エキセントリックな芸術家に近い感じである。
アンベルク宮廷が召し抱えようとした、とも聞くが、あれでは宮仕えは無理だろう。
もっとも、当人も、そんなものは望まないだろうけど。
そして、ローラ嬢と入れ替わるように、マルタとノインが入ってきた。
「あら、思ったより元気そうじゃない。うん、あと一日静養すれば大丈夫ね。ただし、魔力の行使は厳禁よ」
Aクラス冒険者が認めた『眼』の持ち主たるマルタが、そう太鼓判を押した。
そう、この宿屋のベッドで目が覚めて以降、魔力が枯渇した感じで〈使い魔〉の召喚すらできない状況だ。
ヴァルガンあたりに介護を頼めば、もう少し早く回復できたような気もするが、そんな事情で、じっと寝ているしかなかった。いや、トゥーラさんも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたのだが、やはり、武人らしく、少し豪快だったのだ。
助かったのは、宿屋の女将――年老いたばあさんで、口と愛想は極めて悪かったが、意外にも親切だったことだ。
この手の宿屋は食事を出すことはないのだが、ろくに身動きできない俺の為に、わざわざ消化に良い食材を調達し、調理までしてくれた。
「ふん、金さえ払えば客だからね」
そんな憎まれ口をきいていたが、この混乱のただ中にある王都で、そんな食材を調達するのは大変だった筈だ。
胃腸も衰弱していたので、この心遣いはありがたかった。この恩はいつか返そうと思う。
もうひとつ助かったのは、この野良着――先代勇者の遺品は、装着者が衰弱すると看護モードになるようで、体内の不純物も何とかしているようだ。
おかげで寝たきりではあったが、排泄物の世話などをトゥーラさんにお願いすることも無く済んだのだ。
「では、コウイチは亜空間に触れることも無理かのう」
「駄目よ」
未練たらしく、そんなことを口にするノインに、マルタがきっぱりと言った。
どうもメロンかイチゴのおねだりをしたかったようだ。
俺としても、ビブリオに隠してあるクロルの実があれば、と思ったが、それすらもできなかったわけだ。
ともあれ、俺とトゥーラさんのいる宿屋に空きがあったらしく、オリヴァーさん、ノイン、そして〈暁の翼〉の面々も同じ宿屋に部屋を取るそうだ。
その〈暁の翼〉のエッカルトさん達は、プレニツァ王都の冒険者ギルド――こちらもなんとか無事だったそうだが、そこに顔を出し、諸々の手続きをやってるらしい。
そんな話をしているところへ、今度はカーヤがやってきた。
復興中のプレニツァ王都の中を聞き回り、情報収集してきたという彼女は、現在の状況について教えてくれた。
「まず、プレニツァ軍は半数の兵力を失ったことで、バスルへの出兵は延期することになったそうです」
魔物である巨人族による被害ではあったが、そもそもは、その巨人族を自分達で召喚したのだから、自業自得であり、不可抗力の主張はできないだろう。
召喚儀式に立ち会った王族達――国王と王妃、第一王子に第二王子と、宰相を始めとする首脳陣も巨人族暴走の犠牲となり、プレニツァの実体は無政府状態に近いそうだ。
つまり、物理的被害もそうだが、人的被害は致命的なまでに甚大ということになる。
残った王族は五歳に満たない末の王女くらいのもので、たまたまアンベルクからの帰途にあり、難を逃れた外務大臣も頭を抱えているそうだ。
そんな状況では、出兵どころじゃない筈だ。
「しかし、それでも、そこそこに治安が保たれているということは、プレニツァの民度はアンベルクよりも高いということだな」
オリヴァーさんが感心したように言う。
ただ、暴動や騒乱は無いものの、指揮系統は混乱を極め、復興は遅々として進んでいないそうだ。
それにしても、召喚の儀式に、そんな偉い方々は立ち会わなくても良さそうなものだが。
「えーと、古文書解析の学者でもあるプレニツァ国王自らが、新たに発見した召喚術式だったそうなんです」
俺の疑問に、カーヤはそう答えた。
自分で見いだした術式の成果を、自身で見届けたかったということか。
国王陛下が臨席するんじゃ、主立った王族に、宰相や大臣も立ち会わないという選択肢はとれなかっただろう。
そして、それが、現在のプレニツァが陥っている状況を招いたのだ。
「現場を知らない経営者は、本当に困ったものだけど、必要以上に現場に関わる経営者も、それなりに考えものだわね」
とは、以前に母さんが漏らしたぼやきだった。
俺達の世界でも、災害時に現地視察を強行して、結局、現場の足を引っ張った総理大臣もいたからなあ。
「好奇心旺盛なお国柄だから、それもあったんじゃないの」
そう言いながら、マルタは軽く肩をすくめた。
プレニツァでは、異質なものに対する反応が、嫌悪感よりも、好奇心を優先する傾向にあるそうだ。
オリヴァーさんが、形の良いあごを人差し指で撫でながら、しみじみと言った。
「うん。私にとっては、アンベルクより、こっちの方が性に合っているかもしれないな」
「まさか、今度はプレニツァに引っ越すなんて言わないでしょうね」
「それこそ、まさか、だよ。たとえ私が望んでも、出自の問題で揉めるのは避けられないね。全く、生まれてくる時に親は選べないというが、こんな時は呪わしいと思うよ」
ジークベルト将軍はアンベルクの軍務卿であり、国家の重鎮だ。
その血を引く人間――特に女性が、他の国家に住まいを移すということは、この世界における社会構造では簡単な話じゃないということは何となく察せられた。
それにしても、オリヴァーさんが、そんな話を自分からするなんて、よっぽど残念なんだろうな。
カーヤはきょとんとしているが、マルタの方はガイナス導師から教えられたか、あるいは、その『眼』でもって、あらかじめ知っていたのだろう。
「あんたも、色々と大変ね」
の一言で済ませていた。
「それにしても、物資の供出で代替するとして、費用はどうするつもりなんだ? いかなプレニツァと言えども、軍の再編や、王都の復興を考えると、国庫にさほど余裕はない筈だが……」
「いくつかは、巨人族の死体から採取した素材を充てるそうです」
「なるほど。滅多に入手できない素材だからな。かなりの額にはなるだろう」
そこで、オリヴァーさんは首をかしげた。
「しかし、ここに来るまでに、さんざん耳にしたが、最終的に巨人族を倒したのは〈七大の勇者〉だと言う話だ。そうなると、優先権はアンベルクにあるはずだが」
「その〈七大の勇者〉が倒した巨人族ですが――〈冥闇の勇者〉が止めを刺した為、瘴気がひどく、使い物にならないそうです」
「おやおや、もったいないことだ」
「ですが、そうじゃないのがありまして」
「ふむ?」
「ええと、今回、プレニツァが召喚したのは、主に独眼巨人と青銅巨人なんですけど……」
ここで、何故か、カーヤが俺の方をチラリと見た。
「一体だけ。どの記録にも載ってない、見たことの無い個体がいたそうなんです」
「どんな個体なの?」
マルタも、どういうわけか、俺の方をチラリと見ると、カーヤにそう尋ねた。
「黒くて、まるで甲冑のような姿をしていたそうなんです」
「ふむ。確かに、そんな巨人族の記録は無いな」
オリヴァーさんまでもが、俺の方をチラリと見てうなずいた。
そして、ノインがあっさりと断定した。
「巨人族なんぞであるものか。初代が、一番、制御に手こずっていた、『あれ』に違いあるまい」
記憶が無いのでよくわからないが、先ほどから話題に出ている『個体』なるものについて、ノインはよく知っているようだ。
それにかわまず、カーヤは話を続けた。
「それで、その黒い巨人は、他の巨人族から、プレニツァ軍をかばおうとする動きを見せたとかで……」
「つまりプレニツァは、『それ』については制御に成功したと、そう主張しているわけだな」
「はい。その点は、来援した〈七大の勇者〉に同行した、アンベルクの魔術師長や宮廷召喚術師も賛意を示しているそうです」
〈七大の勇者〉――麗香達だけじゃなく、エレオノーラさんまで来ていたのか。
そういえば、ずいぶんと会ってないな。
「結局、『それ』が仕留めた独眼巨人と青銅巨人に関してはプレニツァの優先権が認められました。それで、その個体なんですが、最後に残った青銅巨人を倒したあと、どこかに消えたそうです」
ここで、カーヤは顎に人差し指をあてて、記憶をたどるような表情を浮かべた。
「ええと、色々と意見が分かれていましたが、一番多かったのは、おそらく『それ』は、元の異界へ還ったとする意見ですね。ただ、魔導的な『縁』ができているので、再度召喚すれば、応えてくれるだろうと」
「ほう、そういうことになっているのか」
それを聞いたオリヴァーさんが、何事かを企んでいるような、人の悪い笑みを浮かべた。
「つまり、『それ』が再び現れても、プレニツァは敵対しないわけだ。それどころか、旗頭としたいかもしれないな。うん、男爵夫人には悪いが、そちらの方が、アンベルクを含む近隣諸国に対しては有効か」
例によって、ブツブツと呟きながら、策を練っているようだ。
「そうだな、繋ぎは――パトリック兄様か。たしか、プレニツァ王家や首脳陣とは面識があるはず……」
ややあって、考えがまとまった様子のオリヴァーさんは、ひとつうなずくと美しい顔を上げた。
「とりあえず、フィンレイの言う迷宮の探索だ。それが済んだら、急いで戻ろう。状況が固まるうちに、色々と手を打ちたいからね」
稀代の天才たる美貌の薬師は、プレニツァを利用した、何らかの方策を立てたようだ。
その翌日、マルタの見立て通り、俺の体調は九割がた回復していた。
薬師であるオリヴァーさんの、手厚くも優しい看護が、覿面に効果を現したともいえる。
ともあれ、何の支障も無くなった俺達は、宿屋の女将に見送られ、フィンレイが伝えた迷宮の探索へ赴くべく、その宿屋を後にした。
ちなみに、宿屋の女将は、実際には面白くもなさそうにジロリと睨んだような感じだったが、弁当としてサンドイッチを渡してくれた。
ノインがこっそりと「ツンデレBBAか」などと言って、オリヴァーさんに、めっ、されていたのは内緒の話だ。
◇◆◇
プレニツァの特徴の一つが、古代遺跡がかなりの頻度で見つかることだ。
王都から半日ほどの距離にある森林地帯にも、そうした遺跡群の一つがある。
学術的な調査は、あらかた済んでおり、めぼしいものは無い筈だった。
だが、Sクラス冒険者は、ここで新たな迷宮を発見したのだ。
「しかし、フィンレイのやつも、よくこんな入り口を見つけたもんだな」
エッカルトさんが、半分感心し、半分は呆れたように首を振っていた。
元は遺跡であったかもしれない瓦礫に埋もれるようにして、その迷宮の入り口はあった。
目立った何かがあるわけでも無く、フィンレイの地図があっても、見つけるのは容易ではなかった。
マルタの『眼』がなかったら、いつまでたっても見つけることはできなかっただろう。
「フィンレイって、勘だけは鋭いのよね。あんな才能と資質だけで冒険者をやってるような手合いを、あたし達のような凡人が理解できるわけないわ」
とはマルタのSクラス冒険者に対する評価だが、それを聞いた他のメンバーは、一様に微妙な表情を浮かべていた。
ともあれ、マルタ、エッカルトさんを先頭に、殿をイザークが守る形で、俺達は迷宮に足を踏み入れた。
数時間ほど進み、少し広い場所に出たので、ここで休憩を取ることとなった。
人工的なビブリオと違って、こちらは本当の洞窟に見える。
もっとも、ローラ嬢提供の、宙に浮いたいくつもの魔法具の灯りが、周囲や足下を隅々まで照らすので、いわゆる探索という風情とはほど遠いものがある。
「なんつーか、外にいるのと大して変わんねえな。こんな迷宮探索は初めてだぜ」
無精髭の浮いた顎を撫でながら、エッカルトさんが何とも言えない表情で呟いた。
「あら。か弱い乙女が、夜道や迷宮を歩くのは危険ですもの。これくらいの準備は当然ですわよ」
ローラ嬢が、どこから突っ込んだら良いのかわからないセリフで応えた、その時、俺の装備に潜んでいた剣牙狼もどきの鋭い嗅覚が、とてつもない腐臭を捉えた。
嗅覚に関しては色々と問題があるので、日頃はフィルタリングしているのだが、その状態ですら、気絶するかとも思える強烈さで、慌てて嗅覚の共有をカットした。
「来るわよ」
ほぼ同時に、マルタが警告を発した。
俺達が体制を整えた後、奥の方から、わらわらと湧いて出たもの。
それは、腐肉をボロボロと落とし、腐汁をしたたらせた、忌まわしい呪屍の群れであった。
フィンレイの発見したそこは、後に『死者の迷宮』なる銘が与えられるが、その由来となる魔物が姿を現した瞬間だった。
次回
『第65話 迷宮の管理者』
2/12 7時に更新します




