第63話 荒れ狂う巨人達と七番目の化身
少し煩雑になりますが、
宮廷召喚術師の視点→主人公の視点→再び、宮廷召喚術師の視点
となります。
隣国であるプレニツァの国力は、奴隷がいないと経済がまわらないカブルーンよりは上で、アンベルクと同程度というところだろうか。
ただ、前回の〈蝕〉、つまりは〈禍神の使徒〉襲来以前の古文書や遺跡がアンベルクより多く出土されており、それらの研究についてはアンベルクよりも上と見なされていた。
そんなわけで、アンベルクよりも優位にあると考えていたプレニツァ王国の首脳陣にとって、アンベルクが〈七大の勇者〉召喚に成功した事実は、かなりの衝撃を与えたようだった。
じつはプレニツァでも異世界からの勇者を召喚しようと考えていたようだが、豊富な出土品はあるものの、鍵となる聖遺物だけが見つからず、そうこうしているうちに、相応しき星辰の時は過ぎてしまったというわけだ。
だが、アンベルクが召喚した〈七大の勇者〉の凄まじい力を目の当たりにしては諦められるものでもなかったのだろう。密かに、勇者に匹敵する存在を召喚することを目論んだのだ。
発端となったのは、以前に〈光輝〉と〈疾風〉の勇者が現地まで赴いた〈禍神の使徒〉に関する新たな石碑である。
アンベルクの学術院よりも進んだ古文書研究の成果によって、この石碑に記された内容をさらに解析し、新たな召喚術式を知ったプレニツァは、勇者召喚に代えて、その術式を試みたのだ。
錯綜する情報を整理し、宮廷召喚術師としての私が知り得た一連の経緯は、以上の通りである。
最終的に、プレニツァは新たな術式による召喚に成功し、そして制御に失敗した。
かくして、顕現した数体の巨人族が暴走し、プレニツァは甚大な被害に見舞われ、近隣諸国に来援を求めたのだ。
アンベルクからの『めっせーじ』――〈光輝の勇者〉が指導した光属性魔導師からの知らせを受け、軍務卿は直ちに全軍を停止させた。
めざましい行軍の速さでヴェレンカ大街道を抜け、シュコダル平原、ラゼム大峡谷を過ぎて、いよいよバスルまで指呼の間という位置まで到達していたアンベルク軍は、ここで一つの決断を強いられた。
このままバスルを目指すか、軍を返してプレニツァへ向かうかである。
本来であれば、プレニツァに現れた脅威を優先して対処すべきだっただろう。何しろ、アンベルクの隣国で起こったことだ。
むろん、この事実については箝口令が引かれ、軍首脳陣と〈七大の勇者〉しか知らされていない。
遮音の結界を張った天幕の中で開かれた会議では、当然のことではあるが、ただちに全軍をあげて引き返し、アンベルク防衛に廻るべしという意見が多かった。
天幕の中で〈光輝の勇者〉が映し出した青銅巨人や独眼巨人は、鷹獅子の数倍はあろうかという大きさで、プレニツァ軍では全く歯が立たない。
これがアンベルクまで押し寄せたことを想像するだけで、気が遠くなるような思いがする。
ましてや、アンベルクには王族を守護する近衛騎士団と、王都防衛と治安維持を担う第一騎士団しか残っていないのだ。近隣諸国にまで〈七大の勇者〉を派遣し、著しい脅威と見なされる魔物を掃討した成果であるが、今回はそれが裏目にでたことになる。
だが、バスルまで至近の距離にいるということは、そろそろ物資も心許なくなっているということでもある。
現実問題として、バスルに築いた要塞で補給しなければ、軍を返してもアンベルクまで帰着するのは難しい。
「やはり、ここは〈七大の勇者〉の方々にて対処いただくしかあるまい」
軍務卿たるシークベルト将軍が結論として口にした言葉に、異世界から降臨した若者達は力強くうなずいた。
属性の相性問題で飛龍に騎乗できない〈冥闇〉と〈大地〉の両勇者に関しては、スズネが風の結界に包む形で連れて行くこととなった。
そして魔術師長ドロテアも、その風の結界にて同行する。本人の魔導師としての技量は、今や〈勇者〉に及ぶものでは無いが、これは魔導的な知識に基づく助言役といったところだろう。
かくいう私も、専用騎たる天馬にて、一助となるべく同行することとなった。
事態は一刻を争うという認識のもと、私たちは即座にプレニツァへと発ったのだった。
◇◆◇
俺がプレニツァくんだりまで出かける羽目になったのは、オリヴァーさんがフィンレイと話し合った結果である。
ノインを交えて行われた話し合いで、フィンレイが発見した迷宮をさらに調査する必要ありとのことになったのだ。
フィンレイの宿した実装試験体によれば、なんでも、オムー文明の遺産がいくつか残されているそうなのだ。
「色々あったみたいだったけど、この子を宿すので精一杯だったから、そのまま置いて来ちゃった」
とはフィンレイの弁である。
そんなわけで久方ぶりになる俺の冒険者としての探索は、またしても迷宮絡みというわけだ。
むろん、見習いレベルの俺だけではなく、〈暁の翼〉の面々も同行する。
加えてオリヴァーさん、ノイン、さらにはローラ嬢までもが一緒となった。オムー文明の遺産を評価するには、必要な面々だろう。
「迷宮内部はこの通りマッピング済みだ。防衛用に仕掛けられた邪精霊系の魔物がいるけど、君たちの実力なら大丈夫だよ」
エッカルトさんに地図を渡しながら、そんな言葉を口にした中性的な美貌のSクラス冒険者は、残念そうに付け加えた。
「本当は、ボク――いえ、私もいっしょに行きたいんだけどねえ」
身籠もっているので自重するのと、世話役のイルゼが〈暁の翼〉と行動を共にするのを嫌がったのだ。
フィンレイが無事に子供を出産するには、イルゼの存在が欠かせない、とのことだ。
「自分でいうのもなんだけど、非常識なSクラス冒険者が、常識外れな子供を産もうというわけだ。彼女のキメ細やかなサポート無しじゃ、あっという間に流れてしまうかもしれないね」
マルタあたりから聞いていた印象とは違い、イルゼ嬢は、かなり優秀な職員だったようだ。
〈暁の翼〉絡みで大きなポカを立て続けにやったのは、たまたまの巡り合わせだったのだろう。
たしかに、優秀とされた人間が一度大きな失敗をすると、萎縮するあまりに、同じ相手にミスを続けるなんて話は珍しいことでもない。
事実、彼女の事務能力は秀逸なものだった。
フィンレイから、この件に関しての諸々を任された彼女は、まず、オリヴァーさんを依頼者として、冒険者ギルドへの至急を要するクエストという形式をとった。
通常のケースだと、公平性を保つため、特定のパーティーを名指しで依頼することはできないが、この方法によって、最も近い場所にいるパーティー、つまり、〈暁の翼〉が請け負う状況が整ったわけだ。
正式な依頼となれば、ギルドの保有するリソースを回してもらうこともできる。
こうして、巨漢のイザークを除く〈暁の翼〉メンバー人数分の騎馬と、そのイザークが御者を務める、このクエストの依頼者たるオリヴァーさん達が乗る馬車などが、際めて短時間で揃ってしまった。
しかも、それらの馬は一角獣との交配によって品種改良された赤兎馬種である。
突発的なアクシデントには弱いようだが、計画通りに進められる分野においては、イルゼ嬢の手腕は突出しているといって良いだろう。
唯一の問題は、〈暁の翼〉の正式メンバーではない、俺の分までは騎馬を手当てできなかった点だ。
オリヴァーさんは、いっしょの馬車に乗るよう勧めたが、あんな閉鎖空間でローラ嬢と同席するのは、さすがに危険ではないかと言うと、複雑な表情でうなずかれてしまった。
「うーん、魔が差すということもあるか。そうなったら、ノインでも押さえるのは厳しいかな」
ローラ嬢の逞しい筋肉は、ノインの聖角に匹敵するレベルにありそうだ。
いや、アクセサリーに見せかけた魔法具には、増幅効果のものがあるそうだから、ひょっとすると、総合的には凌駕する可能性もある。
いろんな意味で油断ならない『漢の娘』なのだ。
ちなみに、御者席の方は、言うまでも無くイザーク一人で満席である。
赤兎馬は、通常の馬に比べて、速度や耐久度が段違いなので、ブラーシュ騎士団が保有する騎馬では、足を引っ張ってしまう。
誰かと相乗りというわけにもいかない。一角獣の血を引くだけあって、気難しいところがあるのだ。
結局、俺の交通手段をどうするか、という問題が残ってしまった。
「そういうことなら、改良した装備の試験を兼ねて、私が……」
と手を上げてくれたのはトゥーラさんだ。
ローラ嬢が、先日に見せてくれたトゥーラさんの装備を、さらに改良したそうなのだ。
半人半馬ならぬ半人半龍である〈鋼龍の騎士〉は、〈真の勇者〉の剣や盾となることを誓約しているので、その延長で騎馬代わりとなることも辞さないとのことだった。
未だに自覚のない俺が〈真の勇者〉であるかはさておき、仮にも女性に馬乗りになるわけで、少し躊躇するところはあったが、ここはありがたく世話になるいことに決めた。
ひとつには〈鋼龍の騎士〉となったトゥーラさんの姿が、あまりにも人間離れしているので、その実体を知ってはいてもピンとこなかったということもある。
見た目にインパクトがあり過ぎる着ぐるみだと、中の人について実感がなくなるようなものだ。
かくして、プレニツァへ向けた一行はブラーシュ男爵領を出発した。
もっとも、現時点ではパトリックさん達にも、その存在を秘匿する段階にある〈鋼龍の騎士〉だけは別ルート、つまり、街道ではなく山林の中を踏破することとなり、現地で落ち合う段取りとなった。
トゥーラさんが変じた〈鋼龍の騎士〉は、二つの山脈を驚くべきスピードで越え、通常は十日以上もかかるところを、わずか三日で目的地へとたどり着いた。
うっそうとした森林を抜け、開けた平原に出たところで俺が見たものは、プレニツァ王国の旗を掲げた軍勢と、それを文字通りに蹴散らす数体の巨人達だったのだ。
◇◆◇
「でっけー」
細かい事情は後から知ったのだが、その時に俺が抱いた第一印象はそれである。
例えば鷹獅子や、そして大妖蜈蚣なども巨大だったが、独眼巨人、青銅巨人たるや桁違いである。
たぶん、全高で二十メートル以上はあるだろう。ここまでくると怪獣並みだ。
プレニツァ王国軍の、剣や槍、弓矢などでは、まるきり歯が立たない。
唯一の有効な対抗手段と思われる魔導師の攻撃も、全く打撃になっていない。
「ばかな。対魔法の結界だと!?」
トゥーラさんの驚愕した声で、何となく事情が察せられた。
どういうわけだか、プレニツァに顕現した巨人族は、魔法そのものを無効にする結界で覆われているようなのだ。
しかし、冒険者ギルドに記された巨人族の説明には、そんな話は無かった筈だ。
ともあれ、相当に高位レベルの魔法か、もしくは、物理的な攻撃でなければ、通用しないということになる。
もっとも、高位レベルの魔法はともかくとしてだ。
あの巨体相手に相応しい物理攻撃など、攻城用兵器でも持ち出さなければ無理だろう。
いや、動かない城塞であればともかく、機動のある巨人相手では当てるだけでも至難のわざだ。
現に反撃を試みた兵士達も、抱えていた破城槌を放り出して逃げ惑うありさまだ。
「これは、〈真の勇者〉であるコウイチ殿でなければ……」
龍を模した兜の下で、トゥーラさんは、そう呟いたようだ。
そして、下半身と言うか、龍体のほうにくくりつけた荷物の中から、ある品を取りだし、俺に差し出した。
「まだ未完成とのことでしたが、万が一の為にとローラ殿が」
バックル部分に魔法の紋様が刻まれたベルト――トゥーラさんが現在装備しており、ノインの所持しているものとも似通った「それ」を受け取ると、俺はお腹のポケットにある魔法陣を裏返した上で腰に巻いてみた。
すると、魔力を発動したわけでもないのに、臍下丹田に何かの感覚が沸き起こる。
それと同時に、俺の頭の中に響く声があった。
『まだです。まだ足りませぬ。我が主よ、神酒を……』
「はい?」
思わず周囲を見回した。むろん、付近にいるのはトゥーラさんだけだが、彼女の声は、こんなに陰々としていない。
それにしても、以前にも聞いたことがあるような声だ。
『主よ、神酒を。神鬼が仙樹に刻んだ紋様で鍛えし、あの神酒です』
そういえば、ヴァルガンが熟成ブランデーを作る際、樽に不思議な紋様を刻んでいたっけな。その樽の材料も、オリヴァーさんが首をひねるほど、珍しい樹木だったようだが。
ともかく、その声に従うように、俺は亜空間ビブリオから、熟成ブランデーの瓶を取り出した。
そろそろV・S・O・Pクラスになろうかというところで、頃合いを見て〈使い魔〉どもに振る舞うべく、一部を瓶詰めしておいたのだ。
その熟成ブランデーを、自分でもわからぬ衝動のままに、俺は一気にラッパ飲みした。
「コウイチ殿。それは!?」
馥郁たる芳香に流石に気づいたようで、トゥーラさんが面当てを下ろした顔を後ろに向ける。
そのトゥーラさんの面前で、俺は熟成ブランデーを一瓶丸ごと空けてしまった。
完全な酩酊状態の中、俺は先ほどの声が誰のものであったかを思い出した。
今まで何度か呼びかけても全く反応もしなかった、あの『彷徨う鎧』だ。
――いや、『彷徨う鎧』じゃない。
ベルトを覆い始めた魔法物質に格納された記憶が、俺の勘違いを訂正する。
オムー文明の魔導学者集団が人工的な究極上位種ともいうべき存在を目指し、技術の粋を結集して作られた試作品の一つだ。
そう、「それ」はブラーシュ男爵夫人の先祖たる龍華と同様に試作され、後に『機人』として量産されたものの原型にあたる。
もっとも、「それ」自体は失敗作ではあったが、しかし、予想もしなかった用途が判明して……。
駄目だ。
神酒の熟成が足りず、ベルトも不完全で、これ以上は思い出せない。
ともあれ、目の前の巨人相手ならば「それ」であっても、何とかなるかもしれない。
他の〈使い魔〉と異なり、いくつかの条件を必要とした「それ」は、ようやく機会を得て歓喜しているようだ。
俺としては、それに応えたい気持ちもあった。
トゥーラさんの龍体から飛び降りた俺は、逃げ惑うプレニツァ軍を蹂躙する巨人達へ向かって、駆け出しながら盟約の名を叫んだ。
「出でよ、グランボルグ!!」
◇◆◇
飛翔し、プレニツァ上空に到着した私たちが見たものは、敗走するプレニツァ軍と暴れ回る巨人達だった。
いや、その巨人達の様子がおかしい。
「あの黒い巨人は、私が遠見した時、いなかった筈です」
レイカが指さしたのは、確かに見覚えのない巨人だった。
黒光りする巨大な重装甲冑というのが一番近いだろうか。
その装甲の所々には、見たことも無いような紋様が走っている。
ただ、腰のベルトにある紋様だけは意匠が異なっており、それは明らかに魔法陣だと思われた。
全身が毛むくじゃらで、顔はほとんどが巨大な眼球だけという独眼巨人はもとより、青銅製の巨大な蛮人像といった趣の青銅巨人と比べても、それは無機的で異質な存在だった。
とりわけ目立ったのは、その黒い巨人が、他の巨人からプレニツァ軍を守るような動きをしていることだ。
あるいは、プレニツァが再び召喚を行い、今度は制御に成功したのかもしれない。
鬼族の一部もそうだが、巨人族は比較的知能が高く、高い頻度で意思疎通が可能な個体がある。
プレニツァが巨人族を召喚したのも、それを期待してのことだと思われるが、巨人族を召喚するには、相応の資質と、なにより膨大な魔力を必要とする。
独眼巨人、青銅巨人には、相応の大きさをした隷属の印が刻まれてはいるが、流石にあれを発動するのは難しいだろう。
その一方で、黒い巨人に隷属の印が見当たらない点は、不自然ではある。
「多勢に無勢か。だいぶ押されているわね」
ミホが指摘する通り、黒い巨人は他の巨人に押されていた。
体術のようなもので凌いでいるが、おそらく、単純な力量では独眼巨人や青銅巨人に及ばないようだ。
腰のベルトに刻まれた魔法陣が、時々に頼りなく光を放つ様子は、まるで油の切れかけたランプを思わせ、何となく万全ではない印象を受ける。
あるいは、それゆえに、プレニツァの制御下にあるのかもしれない。
なんにせよ、黒の巨人が他の巨人を引きつけているおかげで、敗走するプレニツァ軍の被害が減っているのは明らかだった。
「とりあえず、あの黒の巨人は味方だと見なしておきましょう」
レイカはそう判断を下した。
「んじゃ、それ以外は片付けちゃってもいいのね。ひゃっほー」
ユミが嬉々として、即座に巨大な火球を放った。
だが、次の瞬間、私は息をのむこととなる。
過日に襲来した鷹獅子を、瞬時に焼き尽くした〈火炎の勇者〉の一撃は、たしかに独眼巨人の一体に命中したのだが、その独眼巨人は無傷だったのだ。
「対魔法の結界? まさか、巨人族に、そのような能力があろう筈もない」
ドロテア魔術師長が、信じられないという表情で叫ぶ。
私も同感だが、おそらくは、プレニツァが発見した召喚術式による効果のひとつとも考えられる。
だが、その攻撃は全くの無駄だったわけでもない。
転がっていた破城槌を手にした黒い巨人が、動きの止まった隙に乗じて、独眼巨人の頭部に、それを突き出したのだ。
閉じていた巨大な眼球を、再び見開いたタイミングだったのは、その独眼巨人にとって運が悪かったというべきか。
最大の急所を貫かれ、独眼巨人は断末魔の叫びをあげた。
「ぶう」
結果的に牽制の役割を果たしたユミだが、その派手な造りの顔に、あからさまな不満を浮かべていた。
「あたしは、かませ犬じゃねえやい」
「まあ、まあ。対魔法結界があるんじゃ、しょうがないよ」
すかさず、ヒロシが宥めにかかる。
「あたしが本気を出せば……」
「わかってる。ユミの本来の実力なら、あんな結界を破ることはなんでもないさ。でも、周囲にはプレニツァの連中が残っているんだぜ。彼らごと焼き尽くすわけにもいかないだろ」
幾度となく似たような光景を見ているが、激しやすい〈火炎の勇者〉を〈氷雪の勇者〉が抑制する図式は、ある意味、自然なものだろう。
「ふん、魔法が通じぬと? そうでもないぞ。鈴音、わしを下ろしてくれ」
「鈴音ちゃん、俺も下ろしてくれよ」
厳つい顔に不敵な笑みを浮かべたコウタが、自身を風の結界で包んでいる〈疾風の勇者〉にそう告げた。
最近では黒い仮面を付けるようになったタケフミの方は、どのような表情であったかは伺い知ることはできなかったけれども。
言われた通り、スズネが二人の勇者を地上に降ろすと、コウタは手にした戦槌の柄の方で地面を突いた。
即座に巨人達の、各々の足下に相応の穴が開き、その腰から下を飲み込んだ。
「さすがにこれ以上深く穴を空けると、どこぞで洒落にならんしわ寄せが起こるからな」
重そうな戦槌を軽々と回した後、肩に担ぐように持つと、コウタは得意そうに言った。
最初の頃に比べ、魔法の制御を重点的に修行した成果は如実に現れているようだ。
巨人達はもがいているが、〈大地の勇者〉はギリギリの大きさで穴を空けたらしく、自重で嵌まっている形となっている為、抜け出せないようだ。
「UGaAAAAAA!」
突如、一体の青銅巨人が咆吼すると、その両腕を地面に叩き付けた。
その反動で、穴から飛び出すほどの、凄まじい力だった。
巨人達の中でも、一回りは大きな体躯をしており、飛び抜けて知能と体力に優れた個体だったようだ。
それを見た他の巨人も、真似をしようとするが、その前に〈冥闇の勇者〉が動いた。
「させるかよ」
手にした短剣から、タケフミが放った闇のロープが、それらの巨人達を縛る。
対魔法結界ごと拘束しているようだ。
これだから、闇系統魔法は敵に回すと厄介なのだ。
そして、闇渡りで、その闇のロープまで転移したタケフミは、転移するなり、専用の武具である〈闇の短剣〉を、縛られていた独眼巨人に突き刺した。
〈冥闇の勇者〉が持つ専用武具である〈闇の短剣〉は、生命力を削る魔法効果がある。
〈光輝の勇者〉か〈聖祈の勇者〉くらいでなければ、レジスト、もしくは、キャンセルできないもので、以前にふざけてコウイチに刺した行為は、実は洒落では済むようなものではなかったのだ。
あの時、レイカがタケフミを厳しく咎めなかったのは、〈光輝の勇者〉と対である〈冥闇の勇者〉をかばってのことと解釈したが、その後のタケフミの熱心なアプローチに対するレイカの反応の鈍さは、私を含めて、魔導属性に関する知識を持つ人々にとって、一つの疑問となっている。
ミホが言うには「単純に、喧嘩両成敗ってことみたいよ」なのだそうだが。
ともあれ、タケフミは同じ要領で、次々と巨人達に〈闇の短剣〉を突き刺して回っている。
さすがの巨人族も、〈冥闇の勇者〉の専用武具には抗えず、徐々に衰弱していく。
やがては、そのまま命が尽きるだろう。
例外なのは、穴を抜け出した青銅巨人だけである。
「むっ、なんとぉ」
コウタが幾度か穴を空けているが、その都度に飛び退き、躱している。
「そこまでです。この地が崩壊してしまいます」
さすがに〈光輝の勇者〉がコウタに制止をかける。
彼女の判断は的確だし、これ以上は反動で、いきなり大地が隆起する問題もある。
それがどこかは神の采配次第だが、王都などで発生したら、とてつもない被害が起こりかねない。
ともあれ、この青銅巨人は勘も鋭いようで、タケフミの放つ闇のロープを悉く回避している。
レイカに促され、牽制の為にユミが放つ火球、ヒロシの氷塊をも、合わせて見切っているようだ。
ともかく、巨体に似合わぬ俊敏な動きで、一向に隙を見せない。
速さで言えば〈疾風の勇者〉だが、青銅巨人の外見――青銅色をした巨大な蛮人の、その逞しい筋肉を見て、手が出せないようだ。
ミホ曰く「筋肉は正義」というのが信条なのだそうだが、少しは時と場合を考えてほしいものだ。
「鈴音」
さすがにレイカが叱咤すると、しぶしぶとスズネが動き出す。
そして、〈疾風の勇者〉が風の攻性魔法を放とうとした時、青銅巨人の前に、黒い巨人が立ちはだかったのだ。
単体で手乗り文鳥、モルモットのサイズが〈装魔の勇者〉すると、
あの大きさですから、
元が大きい七番目は、サイズ的にこうなりました。
次回
『第64話 死者の迷宮』
2/11の7時
『第65話 迷宮の管理者』
2/12の7時に更新します




