変人と不審者
一日一度。最初に遭遇した〝不幸〟へ迷わず首を突っ込むと決めている僕は、それなりの確率で朝の始まり……即ち登校中に『日課』を終える。
裏を返すと、それなりの確率を逃した場合は登校中に『日課』を終えられない。
ならば、その後その日は如何にして過ごすのか。その答えは……。
「志水さん。多分だけど────」
「マジっ!? 見つかった!?」
至極単純、自明の理。学生として学校の中で、履いて捨てるほど辺り一面に転がっている『小さな不幸』を相手取るだけ。やることは何も変わらない。
今日で言えば────
「……多分? コレじゃないかなってやつは、拾っ」
「いやソレぇえぇえええッ‼︎ マジありがとう助かったよ芳野ぉっ……!」
このように。朝っぱらから「鍵なくしたんですけどぉ!!!」と騒いでいた同級生の探し物を求め、手がかりを元に校内を探索したりといった具合である。
失せもの探しは不幸の十八番、慣れている。実に簡単だ。
それに加えて……。
「流ッ石だねぇ『便利屋さん』────ってぁ、これ悪口になる?」
「特には。別に『便利屋』でも『都合のいい暇人』でも構わないよ」
ちょっと顔の良い同級生女子に「困ってる?」と声を掛けたところで、今更のこと周囲が僕に妙な勘繰りを向けてくる心配もない。実に平和だ。
当然である────入学当初から好んで人助けをやりたがる変人。それが実に一年半を経て僕が自分に掛けた誤りのない肩書きであり、今や全校の知る事実。
あれこれ実績も積み上げて評判も連れ立ってきているゆえに、重ねて今更一々と疑われたり怪しまれたりもしない。当然、一部には気味悪がられているものの、
「そ? んじゃ、アリガトってことで……どうしよ? お礼とか?」
「それも気にしないでいいから。見つかって良かった、じゃあね」
声を掛ければ、彼女と同じく素直に頼ってくれる者は少なからず。
事実として奇特な変人の僕としては、実に簡単で実に都合がよく……実に、とてもとても有難い。少なくとも高校卒業までの残り半分に関しては、不安なく毎日を送れることだろう────と、貰わずとも貰っている『得』を理由に踵を返せば、
「ぇ、いやいやいや」
パシっと手首を掴まれて、肩越しに振り返れば至近に顔。
整った小顔にパッチリした猫目。探し物で動き回っていたからであろう、上まとめでポニーテールに結ばれている髪は校則ギリギリの明るめな茶色。
辛うじて『ギャル未満』の快活女子として程々に人気な同級生の可愛い顔が、距離にして三十センチの位置で「お待ちなさい」といった具合に僕を見ていた。
然らば、こちらとしまして対応は一つ。
「いやいや」
手首を捕まえている彼女の手をスイっと容易く解きつつ、一歩。自由になった手を改めてヒラヒラ振りながら、先程よりも素早く前進して追撃を許さぬように。
「誰からも貰ってないから、誰かに貰っちゃうと困るんだよ。じゃあね」
志水さん────志水 木乃香を置き去りにして、そそくさと場を去るのみ。その際、特筆すべきものでもない些細な精神的コツとしては……。
「えぇー……?」
呆れや戸惑いの声音諸々、耳に入っていないフリをすることくらいだ。
◇◆◇◆◇
「────それでモテないのが実にウケるんだよなぁ」
「うん。有難い限りだね」
然して、登校後の朝一番『日課』を終えたことで平穏が約束された以後の一日。穏やかに過ごすまま迎えた昼休み、教室の端にて共に席を囲むのは常の友人。
「変人扱い、都合がいいよ」
「それも本気なのが更に笑える。こりゃあ人が寄り付きませんわ」
こちらは弁当、あちらは購買パン。それぞれに昼食をつつきながら齧りながら、思い思いの場所へ皆が散るゆえ人も疎らなクラス内にて駄弁る普段通り。
「二年生も半ばだぞ。そろそろ彼女でも作ったらどうよ?」
「遠慮しとく。こんなの、誰の彼氏にも向いてないでしょ」
「はは、経験したこともねぇくせに」
「経験しすぎよりはマシだと思うけど」
「言ったなコイツ。卵焼き寄越せ、代わりにパンをくれてやろう」
「いらないよ齧りかけなんて」
いつもの付き合い、いつもの如く。そこそこ無為に、それなりに幸福に、過ぎていく時間────しかし、どうやら不意に変化が紛れ込むことも在るようで。
「……お?」
他人の自信作を強奪しておいて「まあまあだな」などと偉そうな批評を垂れていた隼太が、窓の外へ視線を向けると共に一所を見つめ首を傾げる。
自然、釣られて同じく目を向ければ……。
「………………………………、……?」
僕も隼太と同じく、首を傾げた。
視界には、まだ高い日の光を反射しているはずが不思議と眩しくない真っ白。目立つ容姿ながら見守り勢が多数を占めるという転校生、天下谷 小幸の姿。
さて、特筆すべきは────
「…………あれ、何してるんだと思う?」
「さぁてなぁ。しかしまあ……困ってそう、なのは間違いなくね?」
外履きも履かず、靴下姿で校舎の外を歩いているという点。
つまるところ、隼太の言う通り。遠目にも微かに伺えた心細そうな表情と併せて、何かしらのトラブルに見舞われ困っている様子なのは一目瞭然。
それでも隼太が目敏く見つけた今の今まで一人でいる理由は……本人が人目を憚るようにして、コソコソと移動しているゆえのことだろう。
────斯くして、
「お律さんよぅ。本日の善行は売り切れかい?」
「……はぁ」
好意でも厚意でもなく、面白がっているだけ。口が裂けても善人とは言えない様で嗾ける友人の煽りに溜息を一つ、僕は弁当の風呂敷を畳み始めた。




