1/3:奔放中
────斯くして、見守るとは言ったものの。
「…………どこ行ったんですか、あの人」
「覚えときなよ天下谷ちゃん。アイツが『ちょっと行ってくる』って席を外した場合、失踪期間には最短数十秒から最長数日ってな振れ幅が存在するということを」
「家出しがちな飼い猫か何かなんです……?」
眺める相手が帰って来なけりゃ、目を向けるも何もないってなことで。
隼太が小幸と二人でカフェに立ち寄ったのは、時間潰し兼ちょっとした休憩のため。では何の時間を潰していたのかといえば、そのもの友が戻るまでの間だ。
然して────いつもの如く、どこかで誰かの悲劇を聞きつけたのだろう。事もなげに「少し待ってて」と言い残した律人が、ふらっと姿を消して三十分。
流石に『少しは待った』と判断した隼太は、まだまだ〝芳野律人〟に慣れていない小幸がソワつき始めた折を見て「探しに行こうか」と彼女を連れ出した。
傍に居ろだのなんだのと散々歯の浮く台詞で口説いている……少なくとも、傍から見れば大真面目に口説いているようにしか見えない有様を好き放題に重ねておいて、かと思えば突然の放置である。どうかと思うぜ友よってな具合だ。
────ともあれ、
「ま、こうしてアイツが離れるってのは、ある意味で最高の安全保証と思っていいんじゃね。大丈夫って確信してなきゃ、律は天下谷さんを一人にゃしないよ」
「そ、そうです、か……」
その辺については、もう疑いを挟むような仲ではない。
律人が居る時とは雲泥の差、隣を歩く男子に……ではなく周囲、というか世界に対して警戒心を露わにしている小幸に向けて、隼太は素直な笑みを贈る。
素直な、芳野律人に対する絶対の信頼を滲ませる、笑みを。
「…………早乙女君、は」
「うん」
然して、問いが一つ────
「……いえ、すみません。なんでも」
「そ?」
生まれかけて、呑み込まれ消える。
小幸が何を問おうとしたのか察するのは容易く、また問われたとして隼太は語るに何の抵抗も持たないが……まあ、それは彼女のペースに任せよう。
いつでも語れることだ。
────早乙女隼太にとって芳野律人が、一体全体どういう存在なのかなど。
…………と、いったところで。
「お」
「え?」
行方不明者一名の臨時捜索隊を結成してから、五分少々。モール二階の吹き抜けスペース付近を歩いていたところで、隼太は捜索目標を発見した。
斯くして、そちらは気付いていない様子の小幸に指で示すのは……────
「学校の外では稀によくある光景なんだけど、ご感想は?」
「…………………………」
上階の吹き抜けから目の届く、一階部分の片隅。行方をくらましていた律人が、なにやら困った顔で動きを封じられている光景だった。
何に、というか、誰に動きを封じられているのかといえば……。
「…………え。ナンパされてます? あれ」
「んまあー、ナンパではないんじゃねぇかなぁ。多分、きっと、おそらく」
────異性が二人、おそらく年上。遠目にもハッキリ好意的とわかる表情で年下男子に絡む、綺麗系お姉様方の包囲網に、である。
これが、まあ、本当に……よくある光景で。
「……ちら」
隣を見る。
嗚呼、果たして自覚があるのかないのか、急速にジト目を形成していく御尊顔。
「はは」
「……なんですか」
わかりやすいなと思いつつ、隼太は漏れ出た笑みを曖昧に誤魔化して────
その代わりに。
「アイツ、自分も土日は『我慢をやめる』んだよね」
「…………はい?」
どうせ今でなくても将来的に必要となるであろう、友の弁護を開始した。
「天下谷ちゃんと同じだよ。アイツも……まあ律なりに、今は『できるだけ普通に生きる』を頑張ってんだ。それで、平日は大人しく学生やってる」
「…………」
「でも、難しいんだわな。いろいろと溜まっちまうみたいで……休みになると今日みたいに街へ出て、手当たり次第お節介をバラ撒いてるんだわ」
「………………」
「ヤバいだろ? 俺は素直にヤバいと思ってるし、お前ヤベーぞ普通にヤベー奴だぞって本人にも言ったことある。────律の奴、なんて返したと思う?」
「……………………………………────『だよね』」
「っはは、わかってきてるね天下谷ちゃん」
また一つ。今度は取り繕う必要もなく、自然と零れた笑みを挟んで。
「そんで、まさしく君も、わかってる通り。アイツ普通じゃないじゃん? これは貶してるとか揶揄ってるとかじゃなくて、単純にスゲーって話で」
「……それは、はい。そうですね」
「うん。まあ、だから────アレが、稀によくある光景になる」
特に不思議なことでも難しい話でもない、芳野律人の常を語った。
「律の〝善行〟ってさ、基本的にガチで救われるものばっかなんだよ」
語り述べる言葉は、相も変わらず好意的な────更に詳しく言えば、薄っすら涙を浮かべるレベルの感動と感謝を『幾らでも足りぬ』とばかり律人に伝えている様子の、なにか致命的な不幸に見舞われていたのであろう人たちを見ながら。
「学校では……まあ、回数を重ね過ぎて『変人』扱いに至ってるけど」
「…………」
「そんでも、目立ってる割に大してヘイト集めてないのが証拠っていうか?」
隼太は、過去を思いながら素直に告げた。
「真面目な話、ヒーローなんだよね。アイツ」
そうして……まとめるに、何を言いたいのかなんてのは至極単純。
「つまり、甘え甲斐と支え甲斐が天井知らずってこと。親友一号が改めて保証しよう────バカみたいに頼もしくて、アホみたいに忙しいぞ。律の〝傍〟はさ」
と、先輩としての惚気に扮した対『芳野律人』初心者の後輩に対する、フォローと気遣いの重ね掛け。……最初が肝心、そんな対人の極意を心得ているがゆえ。
「……早乙女君って」
「うん」
「芳野君のこと、大好きですよね」
「はは」
早乙女隼太は、友の居ぬ間に。
「律には内緒で、よろしくね」
友の『足りていない部分』を絶妙に補強しつつ、覗き見を打ち切り。
押しに押されるまま何処ぞへ攫われそうになっているヒーローを救うべく、呆れと照れが入り混じる顔で見やる小幸を連れて、エスカレーターに向かった。
ちょっと誰かの『死ぬほど大事なモノ』を拾って届けていただけらしいです。
休日街中徘徊お節介焼き(死ぬほど助かる)謎の男子高校生。
下手すりゃ都市伝説になりそう。
といったところで、また来週。




