計画通り、思惑通り、予定通り
僕らの通う高校は、特色が無いのが特色と言えてしまう極々普通の田舎校だ。
近隣校それぞれと照らし合わせれば偏差値こそ上半分に位置するものの、ゆうて進学校と呼べるほどの環境ではなく部活動にしたって基本的にはパッとしない。
唯一そこそこ有名というか県大会常連のブラスバンド部が在るくらいで、他は何年か前にサッカー部が地区大会を突破して賑わっていたくらいなもの。
穏やかで平和な気風を無理なく長らく維持できる程度の生徒数、良くも悪くも……まあ、僕としては特に悪いことなどない。生徒も教員も、良い意味で緩い。
つまるところ────
「放課後たむろする空き教室には、困らないよね」
「我が校の数少ない長所だよな」
授業が終われば、わざわざ学校に残って今日の復習や明日の予習に明け暮れるような者など……居ないとは言わないが、極僅か。そして部活動に関しても、そもそも部の絶対数が大したことないので励む者は学校全体で三分の一程度だろう。
遊ぶ者は外へ繰り出す、あるいは自宅へ直帰が現代のスタンダード。
そうした校風から、基本的に放課後は校内が静か……────練習時間一杯まで遠くから金管楽器や打楽器の音色が聴こえてくる以外、静かな学校だ。
重ねて、つまるところ────
「……それ、学校的に長所と言えるんでしょうか?」
「どうだろう。でも、今の僕らにとって都合がいいのは確かだね」
僕と天下谷さんと隼太……まあ今日の隼太はオマケとしても、男子二人の適当な会話に律儀なツッコミを入れてくれる女子一名の〝不幸〟を警戒する上では、
まあ、幸か不幸か理想的な環境ではあるから。
然して、適当に見繕った空き教室。僕らに続いて「おじゃま、しまーす……」と顔を出した天下谷さんを僕が手ずから迎え入れ、慎重に扉を閉めれば密室完成。
こうなれば基本、意味もなく大暴れでもしない限り誰が何をしていようが乱入者が訪れることは無い。重ね重ねて緩い行風、部活が無い者が校内に残っていたとて眉を吊り上げる教師はいないし、生徒であれば前述の通り選び放題だ、他へ行く。
……と、いうことで。
「──────っぁふ……ッ…………!!!」
僕と隼太という『これまで通り』の外にある余分は居るものの。流石あっという間に適応したのか、あるいは疲労が他一切を上回ったか。
席の一つにストンと納まった天下谷さんは……鳴き声を上げながら机の上、下敷きにした鞄の上へと盛大に突っ伏した。────そして、
「…………………………よしのくん」
「うん?」
なんだか疲れ切った声で、僕を呼び。
「……私たち、──────遠い親戚かつ生き別れた双子の元恋人で思いがけない運命的な再会により電撃的に再燃した、いま最も熱いカップルだそうですよ……」
なんだか、えらいことを並べ立てて、手始めに隼太の腹筋を崩壊させた。……然らば、脇で爆笑している戦力外は例によって取り急ぎ放置するものとして。
「まあ、噂の立ち始めなんて大体そんなものだよ。気にしないでいいんじゃない」
「………………ですよね。知ってました、涼しい顔で流しちゃうんだろうなって」
火に油、高校に恋バナ。男女が親しくしていれば即座のイコールで誰彼構わず囃し立てる、そんな混沌とした常識の渦巻く世界で堂々あんな真似をしたのだ。
それは、格好の玩具にされて然りというものだろう。……とはいえ僕としては、わかり切ったことを遠慮なく言わせてもらう他にない。
「そもそも天下谷さんの勇み足……では、ないかな。計画通りでしょ?」
「……、…………」
言葉通り、望んだ通りで、何も問題ないはずでは? ────と、
どういうことかといえば、
「ぶっはは、は……! はぁ~……笑ったぁ…………────ま、守りやすい形なんざ二択しかないもんな。それとなく陰ながらか、憚らず思いっきり近くか」
馬鹿笑いから復帰した隼太が言う通り。
そして、昼休みに天下谷さん自身が口にした『要望』通りに。
「彼氏彼女……疑惑は、まあ事実には勝てねぇとして近い内に晴れるだろ。そしたら後に残るのは〝なんか仲いい〟つぅ自然と傍に居られる口実だけだ」
手っ取り早く、天下谷小幸と芳野律人の間に誰も知らない線を繋げた。
今日の如く、最初の内は騒がれ揶揄われ囃し立てられ……おそらく男側に関しては恨みやら何やらも買うことになり、暫し安寧は遠ざかるだろうが────
「…………将来的に無理が出ないのは、こっち、でしょう?」
「……まあ、かもね」
嵐が過ぎてしまえば、先に続くのは僕が予定していた『日常』より幾らか過ごしやすい『日常』だろう。天下谷さんに関しては無論、本来であれば要らぬ心労を自ら背負い込んだ形になるが……それについても、彼女視点トレードオフか。
「助け合いって、芳野君が言ったんですからね。……文句は受け付けませんよ?」
今日から暫くの間は続くであろう恥か、今日から始まる終わりなき僕への遠慮。両者を天秤にかけて、彼女なりに自分が楽な方を選んだ結果なのだろうから。
本当に、思いの外────
「やっぱ、いいねぇ天下谷ちゃん。ついでに俺も彼氏に立候補していい?」
「是非やめてください」
────とかなんとか、あの天邪鬼が手放しで褒めるくらいには強かな子である。疲れた顔に浮かべる、ふざけた冗談に対しての揺るがぬ微笑も大したものだ。
「ありゃフラれちまった。っはは、律が良いってよー」
「っんそ……ッ!? そんなこと、言ってにゃ……ッ────‼︎」
……もっとも、カラカラと笑う隼太には全く効いていないようだが。何はともあれタイプは全く違うが善人同士、やはり仲良くなれそうで何よりである。
と、戯れは一旦この辺りに。
「明日から。まず、こうなって初めての土日についてだけど」
「ん。おう」
「ふぇあっ……ぁ、は、はいっ」
放課後こうして集まった本題を……まあ〝不幸〟に備えるという意味合いで『適当に時間を潰す』そのものとて本題ではあるのだが、そういうことではなく。
相互扶助+お手伝いさんのスリーマンセル結成と相成り、では具体的に今後どうしようかという話し合い。差し当たっては、明日明後日についての予定を……。
「本当なら、普通に家で引き籠もって過ごす……つもりだったんだけど」
誰かさんの凶行、もとい強行を踏まえて、当初から一新された予定を。
「────明日、一緒に街へ出掛けよう。天下谷さん」
「…………へ? ぇ、ぁ………………え?」
「隼太も来る?」
「あん? そりゃ、お前、行くだろ。どう足掻いても退屈しなさそうだ」
サラリと告げて、
仕返しのように断じて────僕は、鞄を手に取り席を立った。
そして、
「うん。じゃあ、帰ろうか」
集まって、時間を潰し始めて、まだ三十分にも満たない。
天下谷さんの〝不幸〟が最も訪れやすい『逢魔が時』の頃合いにて、幅広い意味で対処の利きやすい場所に陣取る……一種の防衛籠城の構え。
即ち、
「うぃーす」
「…………………………………………え? えっ」
まだこれから数時間は続くはずの集いを早々に切り上げようとする僕に、疑いもせず従う隼太。そして僕と隼太を見比べながら目を瞠り呆ける天下谷さん。
「ぇ、あの、待っ……! え!? いえ、あのっ……〝不幸〟が────」
驚くのも不思議ではないし、焦り引き留めようとするのも道理。
「天下谷さん」
「は、はいっ! えっ……!?」
しかしながら、仕方がないのだ。
「今日の〝不幸〟は、さっき通り過ぎたよ」
やり過ごすべきものは、既に潰えて消えてしまったから。
────……斯くして、一日目。
「ほら、帰ろう天下谷さん」
「……………………は、はい……?」
彼女を守るという善行は、当初の予定通り密やかに、恙無く。
敢えて後書きに記してしまうと、本日の〝不幸〟は『天下谷小幸が空き教室へ入出後、扉が外れて倒れて鞄越しに背中を強打される』でした。普通に危険。
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然して、適当に見繕った空き教室。僕らに続いて「おじゃま、しまーす……」と顔を出した天下谷さんを僕が手ずから迎え入れ、慎重に扉を閉めれば密室完成。
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この時点で芳野君が〝不幸〟を封殺しています。なんだコイツ。
と、このように。基本的に『ん?』とか『おや?』とか違和感を感じる行動を芳野君が今後ちょいちょい取るものと思われますが、それ全部やってます。
どんな〝不幸〟を対処していたんだろうとかとか、
物好きな方は想像して各自お楽しみあれ。
それでは、また来週。




