日常形成中
結局そのまま三人、屋上で昼食を済ませた。
いつもは弁当の僕も今日は用意できず、隼太は常日頃から購買のパン。
……そして悲しきかな。いつだか〝不幸〟に遭った時より弁当は自重したと言う天下谷さんも、隼太と同じく基本は購買のパンかコンビニで見繕った品が常。
ということで、三人仲良く隼太が調達してきた『購買のパン』────商品名そのまま、財布の容量と胃袋の容量が反比例する学生の味方。
縦に割った大きめのコッペパンにハムカツとコロッケ、そして限界超過の焼きそばが詰め込まれている目玉商品お値段250円を頬張ることになった。
調達役の隼太がソレらを抱えて帰って来た時、この馬鹿と僕は思った。
僕は天下谷さんの様子を見守りつつ、隼太は僕の様子を観賞していたせいもあるだろうが、知る限りでは嘘か真か女子が『男子専用』と呼ぶカロリーの化物を、
「────ごちそうさまでした。………………な、なんですか……」
「いや……元気だね、天下谷さん」
「どういう意味でしょう……‼︎」
天下谷さんは、いの一番に完食。そういえば色々あった昨日の夜も、大きなおにぎりをパクパクもぐもぐ黙々と食べていたなと思い出しつつ……。
「女子高生を舐めんなよ律。基本、男子より逞しいぞ」
「早乙女君も、どういう意味でしょうっ……‼︎」
僕は、浅い理解で馬鹿を見る目を向けてしまった隼太に頭を下げた。
────と、そんな昼休み相応の一幕を挟みながら。
「これからのこと、打ち合わせておこうか」
休み時間の終了まで、残り僅か。この和やかな団欒に至るため僕らが……というか、天下谷さんが費やした代償に関しての対応を話すべく、僕は声を上げた。
言わずもがな、
「まず間違いなく、僕と天下谷さんに『なにかある』ってバレた」
「まあ、バレたわなぁ」
「天下谷さんの堂々とした突撃のせいで」
「天下谷ちゃんの堂々とした突撃のせいでなぁ」
他でもない、美人転校生の唐突なる隣クラス凸事件について。
基本立ち入り禁止となっている屋上へ向かうにあたり、人目は撒いてきた。つまり何処へ向かったのかまでは知られていないが……僕を、引っ張って。
つまるところ、
「お手て繋いでは、流石に大胆が過ぎたんじゃないかねぇ?」
「………………」
勢いか、否か。繋いでというよりか『掴んで』が正しいが、昼休み出歩く生徒でごった返す廊下を……まあ、実際問題『繋がって』歩いてしまったことは事実。
然して、その暴挙を成した実行犯はといえば────
「別に、いいんじゃないでしょうか」
そろそろ、意外でもナシ。
少なくとも勢い十割ではなかった旨を落ち着いた声音と表情で示しつつ、被告:天下谷小幸は揶揄うような口調の隼太……ではなく、僕に半眼を向ける。
「……あれくらいしないと、色々、また、はぐらかされると思ったんです」
つまるところ、やられっぱなしは性に合わないと。……これまでも節々で見せていた武闘派な一面を晒しつつ、それほど後悔している様子も見せずに。
「芳野君のことですから、どうせ『陰ながら』……とか、そういうつもりだったんでしょう? 流石に、わかりますよ。芳野君って意外と分かりやすいですから」
「おっ流石、見る目あるね天下谷ちゃん」
彼女が言葉を連ね、隼太も乗っかり、結果的に二対一の構図。
「傍に居ろって、言ったじゃないですか。ならっ……」
しかし、天下谷さんは早速のこと対隼太のスルースキルをも獲得したのか。どこ吹く風とまではいかないが、言葉を躊躇うつもりはないとばかり。
「あなたも、ちゃんと、私の傍にいてください……!」
────できるだけ早く、君が安心して過ごせるように、僕も努力するから。
他ならぬ僕が宣った言葉を僕自身に思い出させ、また履行させんとする、正々堂々の正当な要求。……勿論、リップサービスで言ったつもりはなかった。
であれば、黙って「はい」と頷くしかない僕の脇。
「やるぅ」
腹立つくらい達者な口笛一吹き。早乙女隼太が一人、面白がっていた。
◇◆◇◆◇
そうこうしてる内に昼休み終了間際となり、一時解散。
例に二手に別れて各々の教室に戻ったのだが……流石に高校生。多少の分別は付き始めている年齢で直接的な不躾を叩き付けてくる者は、そういない。
いないが、好奇と興味の視線を堪えられるほど僕らの年頃は大人でもない。
斯くして道すがらの廊下、そして教室内でも僕と隼太は少なからずの視線やヒソヒソ話に晒されることと相成り……六時間目の授業と、ホームルームを終えた後。
つまり、放課後となったタイミングにて。
「────なあ芳野、隣の転校生と付き合ってるってマジ……?」
「………………」
案の定、というかなんというか。
流石に早急が過ぎるだろうと呆れるばかりの『噂話』をクラスメイトが持ち込むにあたり、僕は胸中で溜息を一つポーカーフェイスを張り付けた。
向こうで性懲りもなくニヤついている隼太については、あとで『手助け』の何たるかを一対一で擦り合わせる必要があることだろう。……さておき、
「僕、そんなに手が早いように見える?」
クラスメイト……特に友人という訳でもなく親しく話した覚えがある訳でもないが、誰にでも唐突に話しかけたとて不思議に思われない人物。
即ち、人気者か否かまでは要審議として誰からも嫌われていない盛り上げ役。長身塩顔サッカー部の川崎 拓へ用意していた解答を返せば……。
「あっはは、だよなぁ? 芳野が、んなわけないよなぁ?」
彼は、おそらく周囲に聞こえるように意識したボリュームで納得を示し────
「………………で、で、本当のとこは?」
次いで顔を寄せ、ひそりと小声。
問いを重ねるものだから、今度は僕が溜息を隠さない番だった。
「無いよ。……どこから出回ってる噂?」
「え、まあ、さるところから……?」
「ならついでに、芳野律人発信の『そんな事実はない』って噂も回しておいてよ」
然して会話を重ねつつ、川崎を含めてクラスメイトの出方を窺う。
クラスにおいて僕……と、隼太は基本セット扱い。二人で居ることが多い上に両者とも変人と認識されているがゆえ、他に特筆して友人と呼べる者はいない。
僕が〝何でも屋〟もとい『誰にでも都合良く使える人間』であるため目立って悪感情を抱かれてもいないが、おかしな奴と積極的に関わろうとまではしない。
そんな具合で、まあ端的に僕らは浮いている。なので自然────
「……? なんか、面白い言い方すんのな。芳野って」
重ねて、互いに覚えているほどの会話は今までにナシ。
つまり、あのノリでも準初対面くらいのつもりでコンタクトしてきたのであろう川崎は、果たして僕に一体どんなイメージを持っていたのやら。
「ま、オッケー。とりあえず部活連中には回しとくわ」
普通に面と向かってハッキリ言葉を返したこと自体に驚いたような顔、つまり珍獣を見るような目で僕を見ると、その僕が目を細めたことも見えたことだろう。
自覚したのか、表情を誤魔化しつつ。川崎は「じゃな」と気さくに僕の肩を叩くと、こちらの様子を離れた位置で窺っていた部活仲間を巻き込み去って行った。
「………………」
────では、そういうことで。
「んじゃ行くか? 友達のとこ」
「……そうだね。行こうか、友達のところ」
川崎に叩かれた方とは逆側。まるで親友のように馴れ馴れしく肘を載せてくる基本裏切り者の傍観者へ半眼を向けつつ、僕は注目の中で席を立った。
夜へ続く。




