おおよそ自業自得による帰結からの転々
────そして、数分後。
「あなたは、一体、どうなってるんですかっ……‼︎」
例によって……というか、人目を避けて何事か話したいとなれば、転校してきて日も浅い彼女は他に適した場所も知らないからだろう。
今朝に引き続いての屋上にて、僕は天下谷 小幸にガン詰めされていた。
文字通り、精神的にも物理的にも、である。
避け得ず集う視線を諸共に、肩で風を切る勢い。あーあーマズいマズい良くない良くないダメだダメだと瓦解どころか木っ端微塵になっていく『今後の予定』を嘆く僕に有無も言わせず引っ張って、此処へ連れ込むや否や迫真の壁ドン。
そして、
「確かに、私が、ぽっけぽけの、お馬鹿さんでしたっ……!!!」
「ぽっけぽけ……?」
これ、この勢いである。
なにを唐突にエキサイトしているのやら……────とは、思わない。
勢い、そして行動力は素直に『甘く見ていた』と反省する他ないが……こうして正気を取り戻した彼女が、どこかのタイミングで詰めてくることは、
「芳野君は、あなたは、ほんとに、一体……!」
「…………」
まあ、考えるまでもなく予測できていたから。
それはそう。必然というべきか……──たとえば『割れていない窓』など。昨日あんな事が起こる前の日常に舞い戻って、冷静に今までを振り返ってみれば、
「っな、なにからなにまで、おかしいです……! 窓は『直ってる』どころか『元通り』になってますし、野良犬騒ぎだって────!」
そう、あまりにも、
「絶対、騒ぎに、なってないの、おかしいですよね……!? 芳野君、学校の敷地内で追いかけっこまでして靴を取り返してくれたはずなのにっ……!」
ツッコミどころが、多過ぎるから。
────と、いうことで。
「………………」
「……、…………っ」
ここは、一つ目の分岐点だ。
僕は、彼女の意識が漸く疑問を向けられるようになった『当たり前の違和感』に関して、何も語るつもりがない。────というよりは、語れない。
語ることなど、できようはずもないから……ただ一つだ。
信を問うように、真を問うようにして僕を見つめる榛色の瞳が、僕の語れない『正解』に辿り着くためのルートは一つだけ。それは────
「────問い詰めても無駄だぜ、天下谷さん」
「ふぇっ」
と、背後から声。
……正確には、天下谷さんの背後。彼女がヒートアップしている最中に扉を開けて会場入りした後、暫く前から一幕を眺めてニヤニヤしていた隼太の声が。
「律は、嘘もつかないし隠し事もしない。────ただ、自分からは絶対に話そうとしない、聞いても答えちゃくれないことが〝ひとつ〟だけ在るんだよ」
肩を跳ねさせ、壁へ追い詰めていた僕から飛び退くように離れ、慌てて振り返った天下谷さんに告げる。……まるで、懐かしいモノでも見るような目で。
「君が今、知りたがってること。そんで、過去の俺が暴いてやったことだ」
彼女が今、その胸に抱えた僕に対する『疑問』の解法を授けた。
────全部、その通り。だから僕も、やはり『お人好しでは敵わないな』と改めて笑いながら、隼太の言葉を受け取る天下谷さんの背中を見守った。
さて、どういった反応になるのだろうかと。
まだ薄い、僕の中に在る『天下谷 小幸』像に予想を見るのであれば……どうだろう。最悪『男の子二人で、なにを訳の分からないことを』と怒り出すやも────
「…………隠し事は、しない。でも、話そうとはしてくれない」
なんてこと、まあ起こり得ないとは流石に理解していた。
そう、自らの〝不幸〟を以って他者に迷惑を掛けない、掛けたくない。そんなスタンスを七年前から貫き続けている彼女の理性が、人並み程度である訳がないと。
天下谷さんは、きっと────
「つまり……知りたければ、自分で解き明かせ。その邪魔はしない……という?」
たとえば命の危機に晒されて、ひとかけらの余裕さえも失っていなければ。彼女はおそらく、どんな感情の中にいても誰より冷静で居られる人だ。
「はーい、正解。────いいね天下谷さん、思ったよりも俺好みだ」
そんな『冷静沈着に感情豊か』な女子を見て、隼太は「ヒュゥ」と口笛一つ。
はたして今どんな表情をしているのやら、こちらへ背中を向け続ける天下谷さん越し僕へと、ニヤリ軽薄を演じる笑みを投げた。……然らば、
「良くないね隼太。今の発言は大分気持ち悪いよ」
「っは、ムッツリよかマシだろ? このムッツ律め」
「……次それ言ったら、僕が知る限りの隼太の余罪を久川先生にリークする」
「ちょおま反撃の切れ味ッ……! 即死カウンターの判断が早過ぎるだろ!?」
改めて、天下谷さんが落ち着きを取り戻すまで。
賑やかしでもして場を繋いでおこうと、戯れの投げ合いを開始────
「────っ……!」
「おっと」
……したものの、思いの外と言うべきか、期待通りと言うべきか。
早くも思考をまとめて復帰したらしい天下谷さんがバッと僕を振り返り、向こう側の隼太が至極わざとらしく『お口チャック』のジェスチャーを演じる。
然して、
「…………私と同じ、ちょっと〝おかしな〟事情を持っていて」
「……うん」
記念すべきか否か、第一回。
始まる彼女の『推理劇』に、僕は真正面から向き合うのみ。
「人を、助けてる。……私のことも、助けてくれた。思い返せば、ちょっと……どころじゃなく、ビックリするくらい格好よ────結構な、お手前でッ……!」
「……まあ、うん」
向こうで隼太が軽く吹き出しているが、一旦そっちは無視するとして。
「怪我の一つも、無くて」
「そうだね」
「なんだか、全部に……なんにでも、慣れてるみたい」
「そう、見えたかな」
真剣な榛色の視線を、真っ直ぐに受け止めるまま。
「────全然、同級生に見えません。……年齢、詐称してませんか?」
「………………」
「あ、今ちょっとヘコんだぞ。その調子だ天下谷さん」
冗談だと思いたい疑念および、シリアスに差し込まれたジト目を耐えながら。天下谷さんの中で、一つ目の『解答』が形作られていくのを────
「…………わかりました。────芳野、律人君」
「……うん。────なにかな、天下谷 小幸さん」
大人しく待って、
「あなたは、」
その、果てに。
「──────………………、……なっ」
「な?」
溜めに、溜めて。
そして溜めるごとに、時間を間へ挟むほどに。なにやら口にするのを躊躇うように、もごもごしながら徐々に顔を赤らめていく、謎の様子を見せた末に。
「な…………────謎の、組織の、特殊、工作員……と、とか………………」
「「────………………………………………………………………」」
それはもう、恥ずかしそうに。
それはもう、私は一体なにを言っているんだろうという羞恥に塗れた心の声が、ありありと聴こえてくる様相で。なんだか、物凄いことを言い出して。
「…………な、なんじゃ、ないんですか……?」
「「………………………………………………」」
「じ、人命救助、とか……隠蔽工作とか、も……お手のモノ、みたいな…………」
「「………………………………………………」」
「さ、早乙女君は……! アレなんですよね! ────バディ的なッ……‼︎」
「────ぶふぁはっッ……!!!!!」
隼太が笑殺られた。次は僕の番かもしれない。
……まあ、しかし、
初回は精々そんなところだろうと、現実的に考えれば納得できる範囲内ゆえに。
「天下谷さん」
「……っ…………、……やめてください、知ってますバツです。ごめんなさい調子に乗ったというか雰囲気に流されちゃったんです『なに言ってんの』って私が誰より思ってます高校生にもなって〝謎の組織〟とか〝特殊工作員〟とかッ……!」
「天下谷さん?」
「だって知りませんもんっ……‼︎ なんなんですか芳野君は……! なにがどうなって芳野君なんですか……! 知らないもん、あなたのことなんてぇ……!!!」
別に気にしてないよ、というか。そんなに恥ずかしがらなくても、というか。ともかく慰めを入れようとするも、酔っていたらしい彼女は聞く耳を持たず。
それでも冷静を手放さず、ノリにノッて行くとこまで激走する前に我に返った点は流石の一言だが……むしろ、我に返ってしまえたからこそ倍増したのだろう。
また、一杯一杯になって撃沈する天下谷さんを眺めて。
「……、…………────ひとだな」
ぽつり、無意識。
僕の口から僕も知らぬまま零れた一言は────
「……っく、んぶっふふは……ッ、マジ、天下谷さん最高……! はー、ちょっと待って本格的に見直したわ、今日から楽しくなりそうだなぁ……!」
「早乙女君も知りませんッ……‼︎ 人を玩具にしないでぇっ……!!!」
賑やかな親友と、賑やかな新友の騒ぎに紛れて。
誰の耳にも入らないまま、昼休みの暇へと溶けていった。
結論:主人公二人、どちらも根っこ部分がポンコツ気味。
といったところで、また来週。




