おおよそ自業自得による帰結からの起承
「……で? 何かあれば、駆け付ける。────ってのは、まあヨシとしてだ」
「うん」
天下谷さんに隼太を紹介した後。いくらか時間を掛ければ問題なく仲良くなれそうな二人の様子を確認できたことで、ひとまずの安心と共に解散してからの流れ。
「体裁については、一体どうするつもりで? お律さんよ」
「うん」
追加情報……というより、これからの『具体的な方針』でも聞きたそうにしていた友人の意を汲み取り、人気のない廊下への遠回りを挟んでの一幕。
「男子と女子。それでなくとも、校内で有名な『変人』と少なからず注目されてる美人『転校生』の組み合わせだ。表立って引っ付いてたら確実に目立つぞ」
「そうだろうね」
今のところ、特に頼る予定があるわけじゃない────と、僕はそう言ったし隼太もソレに「はいよ」と軽薄に頷いていた。……けれども、
「……『そうだろうね』って、なぁ」
天下谷さんに、見せていた。
そんな顔が友人の性根であるなら、僕と隼太は友人になどなっていなかったことだろう。然して、いつもの調子で素っ気なく返す僕に溜息を一つ。
「悪びれもせず秘密主義とも思ってない秘密主義は、お前の非ッッッ常に悪い癖だぞ。聞かれたことだけ答えるんじゃなくて、俺の要求も多少は酌めよい」
人前などでは決して見せない真面目な顔で、説教などしてくるものだから。
「……なに笑ってんだよ」
「いや、別に」
本当に、ありがたいことだと。僕は笑みを一つ、頷いて返した。
「────基本的に、必要が無ければ距離を保つよ」
「……成程。んじゃ、必要が在れば?」
「その時は……まあ、目立たないように駆け付ける。かな」
しっかりと、隼太の望む要求にして『共有』も添えて。────然らば、
「そうかい」
いとも容易く、なんとも簡単に方針を告げた僕に、隼太は溜息を仕舞い込んで即座の納得。どれだけ信頼が厚いのかと、また笑ってしまいそうになった。
「ま、ちゃんと考えてるってんなら言うこた無い。そうしろよ」
「うん。そうするよ」
つまるところ隼太も隼太で、早くも天下谷さんを心配しているというだけの話。それはそうだろう、他に留意すべき点など現状ありはしないのだから。
対処すべきは彼女の〝不幸〟だが、その『対処』の結果によって彼女がマイナスを被ってしまっては全くもって意味がない。
つまるところ、僕が天下谷さんの『不幸』になっては元も子もない。
彼女が望んでいるのは、平穏。昨日のような命の危険から守り通すのは、当然のこと最優先事項ではある……が、僕が望んでいるのは〝善行〟であるからして。
「プラマイゼロじゃ、意味がないからね」
「っは、お人好しめ」
本心を零せば、また飛んできた咎めるような声音に。
「はは……。隼太ほどじゃ、ないよ」
これまた本心を投げて返せば、友人は微妙な表情で再びの溜息を零していた。
◇◆◇◆◇
斯くして、僕の『陰ながら天下谷 小幸の日常を守る』という方針は────
「芳野ーぅ……? なーんか転校生ちゃん来てるけどー……?」
「……、……………………」
時間飛んで、昼休み。四限終わりのチャイムが鳴ってから数分後のこと、メッセンジャーを引き受けたらしい志水 木乃香の伝言によって泡沫と消えた。
……別に、彼女の声が必要以上かつ僕の都合を知らず叩き潰すに相応しいデシベル値を擁していたとか、そんなことは無かった。無かった、が────
「──────……」
教室後部、出入り口。目立つ真っ白頭……に見えているのは僕だけだが、ソレを差し引いても人目を引く美人転校生様が顔を覗かせていれば、注目は否応に。
つまり、僕のクラスメイトたちは、何の用事か『隣のクラスの転校生』こと天下谷さんが、ひょっこり顔を見せた時点で彼女へ視線を向けていたわけで。
つまり、僕のクラスメイトたちは、そんな彼女の元へ陽属性筆頭コミュニケーション強者の志水さんが「どしたのー?」と寄っていく様も見ていたわけで。
つまり、僕のクラスメイトたちは────
「知り合いなん……? 用事、あるみたいだけどー……?」
特に大きくもない、むしろマナー良く気を遣ってか控え目ですらあった志水さんの『伝言』を、おそらくバッチリ耳と頭に入れてしまったと思われるわけで。
然らば僕は、
「…………、……なんだろう、ね」
近場の席にて「あーららぁ」といった顔をしている隼太の……哀れみ半分、揶揄い半分の視線を、今こそ助けてよと腹立たしく意識の外に蹴り出しながら。
そして、避け得ず僕の元にも集う級友達の探るような視線を受け止めながら。
「心当たりは、ないんだけどな……」
周りには嘘と分からぬ戯言をぼやきつつ、席を立った。
別クラス凸を厭わずして、堂々と男子を呼び出す天下谷さん。
滲み出る強者の貫禄。もうつよい。
つづく。




