日常の始まり
……斯くして〝始まり〟を迎えるにあたって、一も二もなく。
まず真っ先に僕が『やるべき』だろうと判断した事は、決まり切っていた。
「────ということで隼太。こちら天下谷 小幸さん、ご存知の通りの転校生」
「……、…………」
「ということで天下谷さん。こちら早乙女 隼太、一応は頼りになる僕の友達」
「………………、……」
それこそは他でもない、協力者の確保である。
然して朝一番、昨日と同じく『自己紹介の場』に選んだ屋上の小スペースにて。
学校へ近付くにあたり不都合の無い距離を確保して登校遂行、その後に人目を避けつつ合流した天下谷さんと……端的なメッセージで有無を言わせず呼び出した隼太を無事に引き合わせ、簡潔極まる挨拶の仲介を終えれば十数秒。
流石に僕でも『それはそう』と二人の反応────即ち大なり小なりの困惑から当然であろう不可避の沈黙、情報整理の間は必要と理解できるため……。
大人しく脇で、暫くは各々を見守っていた果て。
「………………………………──────、っはぁあ……」
まず一人。大なり小なりの、小の方。
つまるところ、天下谷さんよりは僕の行動に驚いていない早乙女隼太が、バッチリと決まっているセットなど知るかと言わんばかりに頭を掻きながら────
「驚いた……けど、そういうこともあるか、ねぇ」
まだ、全てを話したわけではない。
他でもない〝不幸〟のことなど天下谷さんが抱える個人的事情についての詳細は伏せたまま、事のあらまし……昨日アレコレとあった末に、僕が僕にできる限り彼女を助けると決めたことを伝えただけ。
それ即ち、多少なり僕の『おかしなところ』を知らなければ、理解も納得も到底できようはずがない。唐突な呼び出しも含めて、常識的に有り得ない意味不明を、
「ま、俺に何ができるって話ではあるけども、了解。手が要る時は言ってくれ」
「うん、助かるよ」
隼太は、当たり前のように頷いた。
────然して、
「…………………………ぇ、ぁ……えっ」
こちらも当たり前。驚くのは勿論のこと、天下谷さんだ。
当事者の身でありながら、昨日は数多の『信じられない』に襲われたであろう彼女。感情の鮮度が高いからこそ、あっさりと飲み込んだ隼太に……それこそ、信じられないという目を向けるのは無理もないだろう。
けれども、幸か不幸か。
「────えー、天下谷さん? 確認だけど、コイツの頭は何色かな?」
「……へぁっ?」
この友人は、彼女にとっての『昨日』を五年も前に終えているゆえに。
「……、…………ぁ、えと…………し、白……?」
チラリ、僕に確認の視線を向けた後。恐る恐るといった具合で答えを返した天下谷さんを……それにしても早過ぎる順応、いつもの調子。
「あっははは。そっかー、そこまで言ってんのかー、へぇー」
非日常が降ってきたと楽しむ様を装って、より一層のこと彼女をポカンと呆けさせる。そして、既知の未知に色が付いたとばかり……。
「さーてさて、本当のとこはどうなのかねぇ? 自称『真っ白頭君』?」
「……まだ信じてなかったの。そんなこと嘘で言う理由ないでしょ」
「いや、恥ずかしい寄りの中二病である可能性を捨て切れてない」
「中二病に恥ずかしい寄りも何もないよ」
どこか楽しげ、早々に友人と戯れだすものだから。
「────ぁ、あのっ……! 芳野、君……!?」
またも当然、一人で思わぬ置いてけぼりを喰らった天下谷さんが声をあげ
「お、まだ苗字呼び。昨日の今日だし、そりゃそうか」
「芳野、君ッ……‼︎」
……無用な茶々を入れる隼太は置いといて、声を上げる。
それはそれで『どうやら大人しいばかりではないらしい』と理解を深めた友人の二ヤつきを誘ってしまっているが、本人はそれどころではないのだろう。
然りだ。皆まで言わせる労を省くのは、この場を用意した僕の務めである。
「隼太は、僕のことを知ってるんだ。まあ、色々とあって────」
「────あぁ、知ってるとも。五年前、コイツに命を救われたもんでね」
務め……である、はずだったのだが、結局は隼太に持っていかれてしまった。
斯くして、いつも通り、性懲りもなく。ふてぶてしいとも言える様子で謎に誇らし気、自分が抱える『恩』を堂々とひけらかす友人が僕にドヤ顔の笑みを向ける。
意味不明の、理解不能だ。実に早乙女隼太らしい。
「…………そういうわけで。コイツは僕の事情を知ってるんだよ。昔ちょっと手を貸した時に「っはぁー言い方が控え目すぎんだろアホか。手を貸すとかいう次元じゃな」色々とあって、アレコレ詳しく説明する必要があったからね」
実に、らしいが、少し黙っていろと半眼を向けつつ。
「特に何か頼る予定があるわけじゃないけど、事情を知っていて協力的な『お人好し』は多いに越したことない。精神的にも……まあ、マシ程度の効果はあるよ」
「お前より女子との接し方も心得てるしな────ハイハイ黙るよ、はい続けて」
黙っていろと、睨みを利かせつつ。
「まあ、こんな感じ、なおかつ僕に続いて男子なのは申し訳ないけど……根は、悪い奴じゃないから。────理解者を増やす意味でも、どうかな。天下谷さん」
真に言いたかったこと。
つまり、二人を引き合わせた理由はハッキリと自分の口で。然して僕の『提案』と『伺い』を聞き、終始ポカンとしつつも思考を巡らせた様子で……。
「…………昨日から、思っていましたけど」
「うん」
「芳野君は、基本的に話が早過ぎます。これは褒めてません」
「……それは、ごめんなさい。改善を努力するよ」
僕の無遠慮に真っ当な注意を刺しつつ、溜息一つ。
────ともすれば、良い意味で気の抜けたような細長い息を、一つ。
「……え、と、では…………その、早乙女、君?」
「はい、早乙女 隼太です」
「はい。天下谷、小幸です。……それから────」
改めての自己紹介を、
「────そこの『真っ白頭君』と同じ『真っ白頭さん』です、どうぞよろしくお願いします。……何かあって、ご迷惑をお掛けしたら、ごめんなさい」
「はーい、よろしくね! ……──────へっ? 真っ白……ん゛ぇっ!?」
やはり、大人しいだけの女子ではないことを知らしめるかの如く。僕にも何度か牙を剥いた『逆襲』に隼太を巻き込みながら、始めていった。
やられたらキッチリやり返そうとするタイプの大人し女子かわいい。
夜に続く。




