規定的かつ確定的に
僕の言葉に、またも一瞬で顔を真っ赤に怒らせて隣で叫ぶ天下谷さん。呆気に取られた様子でポカンとして、正面にて高速で僕と天下谷さんを見比べる千雨さん
両者ともに、予想のできた反応ではある。
それゆえ、僕は至近距離からの大音声に耳を破壊されながらも冷静に────
「……この家に、とは言いましたが、すみません。『一緒に住ませてくれ』ということではないです。あまり言葉選びが上手くないのは大目に見ていただけると」
自分の悪癖を認めつつ、二人を落ち着けるべく説明を繋ぐ。
「天下谷さんも……ええと、娘さんも、御祖母様も、事の緊急性は正しく受け止めてくれているものと思います。実際に今日、命の危険が在ったわけですから」
さすれば、
「そ、それは……そう、ですけど…………いえ、はい。そうです」
「それは、本当に、そうね。正直に言って、手段は選んでられないわ」
僕の下手な言葉選びの衝撃半分、そして勢い半分で思わず叫んでしまったのはわかる。そんな天下谷さんも、そんな孫娘に釣られて動揺していた千雨さんも……重ねて、事が事。状況が状況だけに、すぐさま落ち着いてくれた。
加えて、
「……頼れる相手が現れたのなら、こちらこそ逃がせないのも、事実ね」
御祖母様の方は流石というか、やはりというか。お歳を感じさせない頭の回転速度で話を合わせてくれるために、本当にありがたい。
そう、逃がせないのは互いに同じ。
頼れる者が存在し得ないという世知辛さも、互いに同じ。……こんな身の上だ。それはもう、僕だって語り尽くせない〝いろいろ〟を経験して今に在る。
天下谷さんだって、その家族だって、きっとソレは同じだろうから。
「緊急性、必要性に合意がある……互いに合意する以外の選択肢が無いと判断しての、提案です。────僕を、あの『部屋』に置いてください」
僕は、天下谷さんが住んでいるという部屋……あの『蔵』を改造して用意されたのだろう『部屋』を見た瞬間から決めていた提案を、改めて二人に示して。
然らば、
「え……」
ぽつり、天下谷さんが声音を零して。
「天下谷さんは、今日から母屋に住めば良いかと」
僕は隣を見ないまま、千雨さんに対して断じるように言った。
「天下谷さんが隔離……また言葉を選ばず申し訳ありませんが、隔離されていた理由はわかってます。でも僕が居ればソレも必要ない、何か起こる前に警告できる」
────ここに来てからというもの、天下谷さんと千雨さんは目立って会話をしていないが、見ればわかる。時折に孫娘へ向ける視線や雰囲気から、それはもう。
「どれだけ〝足音〟が早かろうが、僕なら天下谷さんを助けられます。御祖母様に飛び火する可能性も、御祖母様側の〝足音〟を聞いて対応できる。万全です」
あんなところに天下谷さんを押し込めるのは不本意だろうと、確信できるくらいには。彼女を大切にしているであろう様子が、ありありと読み取れたから。
「…………あなたは、それでいいのかしら?」
「おばあちゃんっ……!?」
いまだ情緒に振り回され気味な天下谷さんはともかくとして、千雨さんは迷わず……かどうかまでは知る由もないが、乗ってくるだろうと察しがついていた。
ならば、あとは僕から答え返すだけ。
「秘密基地みたいで、ワクワクしますよ」
「芳野君っ……!?」
「……、…………うふふ、男の子ね」
特に嘘というほどでもないが、見え透いた建前を。
「今日から?」
「はい」
「今すぐ?」
「できる限りは」
「いろいろと、急な準備が必要だけれど……」
「手を出せることであれば、いくらでも手伝います」
「ちょ、ぇっ、あ、あのっ……!」
しつこいようだが、今この状況は命に係わる緊急事態。混乱、全くもって道理ではあるが、置いてきぼりが発生するのは仕方なしと置いておく他にない。
然して、あわあわと腰を浮かせ僕らの顔を……先の千雨さんよろしく高速で見比べながら、紛れもない当事者の身で取り残されていく天下谷さんを他所に。
今の今まで、最後の最後まで、何も聞こうとしない僕と、
同じく、見ようによっては倣うように、何も聞こうとしない御祖母様は、
「……では」
「えぇ、わかったわ」
差し出す手が一つ、迎える手が一つ。
合意と契約を意味する握手を、呆ける孫娘の目前で交わし────
「真っ暗になっちゃう前に、あなたの『お部屋』を整えましょうか」
「よろしくお願いします。手伝います」
所要時間、僅か数分。
「………………………………………………………………えぇ……?」
呆然とする声音の隣で、無事に僕の突発的居候が決定した。
続きは夜、おそらく真っ暗になった後に。




