ご挨拶
目配せをする天下谷さんに頷き、戸を引こうとする彼女を制して自らの手で覆いを掃う。然らば、外から内から遮るものなく視線が通り……────
「……あらまぁ、本当に真っ白け」
僕は、僕を見据える榛色の瞳と目を合わせた。
天下谷さんの瞳よりも、やや色濃く力強い。全体的に色素が抜け始めている黒髪は自然なままの白髪交じりだが、形は品良く丁寧に纏め上げられている。
……天下谷 小幸さんと、あまり似てはいない。けれども、
「────初めまして。芳野 律人と申します」
綺麗な人だ。素直にそう思わせる雰囲気がある彼女は、
「これは、ご丁寧に────初めまして、天下谷 千雨と申します」
頭を下げて名乗った僕を、鏡写しにするように。座椅子に腰掛けていたところを丁寧にも立ち上がり、歳を感じさせない所作で腰を折りつつ名乗り返してくれた。
◇◆◇◆◇
斯くして、挨拶を終えてから数分の後。
「やっぱり、ご家族は見えているんですね」
「あら、本当に詳しいのねぇ」
「えぇ、まあ。詳しいというより、同じなので。僕の家族もそうでした」
「あらあら、まあ……」
僕は御祖母様こと天下谷さん────もとい、千雨さんと卓を挟んで向き合っていた。手元には、彼女が手ずから用意してくれた緑茶入りに湯呑が一つ。
そして、
「………………………………………………………………………………」
隣には、どんな顔で居ればいいのやらといった天下谷さん(孫娘)が一人。
そして、そして────
「本当に、本当なのねぇ……驚いたというか、なんというか…………」
千雨さんの手には、スマホが一台。
その画面に映し出されているのは、これも彼女が手ずから撮影した僕の写真だ。当然のこと真っ白けではなく、面白味もない、黒髪の。
然して、結論というか、なんというか。
ほんの数分、僕が改めて語った説明は端的かつ僅か。けれども、偽りようのない証拠や孫娘の態度も手伝い……そして、おそらくは持ち前の性格なのだろう。
「────全く、難儀な世界だこと」
こちらこそ驚くほどにサッパリと状況を呑み込んだ彼女は、あまりに胡散臭いはずの僕ではなく、同じくらい胡散臭いであろう世界に対しての文句を零した。
そして、千雨さんは溜息を一つ。
「芳野……律人君。で、いいわよね」
「はい」
静かに証拠を置きながら、孫娘とよく似た瞳で僕を見据えた。
……その色は、
「あなたは、大丈夫なの? なにか、助けが必要だったりしないのかしら?」
疑いではなく、どこまでも純粋な心配で。思わず、僕は────
「…………はは」
堪えられず笑ってしまったことを、即刻。恥じると共に。
「……大丈夫です。お孫さんよりは、確実に」
僕は、呑み込みが良すぎる御祖母様に誠実を努めて事実を告げた。
────僕らを『普通』と異であると示す白髪は、僕らと縁濃い血縁者だけが僕ら同様に認識できる。それゆえの、単純な推測。簡単な推理。
天下谷さんの家族が彼女の〝不幸〟を認知しているだろうことは、疑っていなかった。決して普通とは言えない生活の形も見れば、より疑いようがない。
だから……まあ、なんだろうか。
良かったな、と。ただ思いながら。
「でも、この〝不幸〟……────呪いの重さは、重々承知しています」
最悪の想定からは程遠い、まだ救いがある環境だと。天下谷 小幸の境遇に、僕|は、僕の方こそ心の底から救われた気持ちになりながら。
「千雨さん」
「はい、なにかしら」
とっくに固めていた意思を、そのまま。
しかし思いの外、幾分か軽い気持ちで躊躇わず────
「今日から僕を、この家に住ませてはくれませんか」
────堂々と、宣った直後。
「「………………………………………………………………………………」」
室内を満たしたのは、沈黙。
そして、十秒後。
「……………………あ、ら…………あら、あらあら、まあ……」
呆気に取られていると思しき千雨さんの声が、静寂を破り。
そして、更に十秒後。
「……………………………………………………へ?」
呆気に取られていると思しき天下谷さんの声が、すぐ隣から────刹那。
「へ、は、ぇ、ぁ……っ……ッ…………なに言っ────────!!!!!」
聞き取れないほどの大音声が、僕の右耳を亡き者にした。
おいヤベーぞコイツ!!!!!
なんかもう諸々ブレーキねぇぞコイツ!!!!!
楽しくなってきたなぁハイまた来週ッ‼︎




