少々ゆき先、不穏なれど
……さて。
無事に叱られ、これで申し訳程度の禊も済んだと判断して良いだろう。そう思い、お赦しの証左と見るべき『おかわり』で喉を潤した後。
「それじゃ、最低限お互いのことがわかったところで」
僕は漸く、本題を切り出す。
「『どうやって僕が天下谷さんを助けるつもりか』について、説明するね」
この場に於いて、最も重要かつ危急の事柄を。
然らば、すぐさま天下谷さんも半眼を引っ込め居住まいを正した。────当然のこと、榛色の瞳に宿るのは期待と不安。そして今まで抱え続けていたであろう、
避け得ず、特大の疑問。
どうやって、僕は、これから天下谷さんを〝不幸〟から救うつもりなのか。
どうやって、僕は、あの致命的な〝不幸〟から彼女を救ったのか。
「端的に言うよ。────僕には、他人に訪れる〝不幸〟の足音が聞こえる」
その答えを、僕は悩む必要性を感じないまま素直に打ち明けた。
「不幸の、足音……?」
対して、天下谷さんが首を傾げるのは道理だろう。端的に言おうが、端的に意味不明な戯言なのだから────しかし、違わず言葉通りだ。
「予感、直感、言い表し方なんて何でも構わないけどね。少しずつ近付いてくるのを察知できるような感覚だから、なんとなく『足音』が近いかなって」
然して、それが。
「まあ要するに、僕の『願い』に関係する〝おかしなこと〟だよ」
と、いうことだ。
「ねが……────えっ」
重ねて、要するに。
「『聞かない』とは言ったけど、僕が『言わない』とは言ってない」
と、いうことで。……まあ、別に全てを話すつもりはないとしても。
「どこかの誰か、ただし『僕が意識を向けている誰か』に限られるけど、その人に何か良くないことが起きるのを事前に知ることができる。そんな力が僕にはある」
証明は今更必要ないよね────と視線で問えば、天下谷さんはポカンと口を開けながらも小さく頷いた。先に証明したばかりだ、それは頷く他ないだろう。
すんなり呑み込んでくれるのは有り難いばかり。
「つまり、そういうことだね」
これを信じてもらえないのであれば、僕は天下谷さんを助けられないから。
「────これから先、僕は君の元に訪れる〝不幸〟の足音に耳を傾け続ける。そうして、僕の手が届く限りは君のことを助けようと思う」
今日、そうしたように。
「だから、天下谷さんに僕が求めることは一つだけ」
そして、これから、そうするために。
「僕の傍から、離れないで」
天下谷さんの不幸が、僕を救うために。
天下谷さんを不幸から、僕が救うために。
そうとしか言いようがない、ただ単純なる絶対条件を言い告げれば────
「────…………、……………………………………、……は」
榛色の瞳は、真ん丸に見開かれて。
「……………………はい」
桜色の唇からは、とても小さな……。
けれども確かな『了承』の声が、彼女へと傾けた僕の耳に、しかと届いた。
◇◆◇◆◇
「…………っ、……と、とは、言いましてもっ……!」
斯くして、数秒の後。
何やら顔を赤らめたかと思えば、自分のコップから麦茶を一気飲み。謎の勢いを以って気を取り直すように、天下谷さんは上ずった声を上げた。
「が、学校! クラスが、違いますっ……」
「そのくらいなら『傍』の範囲だよ」
「じゅ、授業、別々でっ、離れたり……!」
「学校の敷地内程度なら、端から端でも大丈夫。駆け付けるから」
「かっ、へぁっ……ぇ、あ……え…………!!!」
そうして、なにを突然に慌ただしく盛り上がっているのか。
不安やら何やらを一時まるっと忘れたかのように、何がしかに言い訳を並べ立てようとでもするかのように、天下谷小幸は捲し立てて────
「心配しなくていい。今日程度の〝不幸〟なら……別に、それ以上でもだけど」
「は、はいっ……はぇっ……」
「僕は必ず、君を助ける」
「…………………………………………………………、……」
念を押す僕の目前、納得してくれたのか無事に沈黙した。
……状況が状況だ。あれやこれやと興奮するのも仕方ないし、実際に命が懸かっている話なのだから本気になって隅々まで考えるのは然り、そうあるべきだろう。
とはいえ、顔が赤すぎる。
首まで熱を持ち始めている様子だが、大丈夫だろうか────と、
「…………よ」
「よ?」
「芳野君からは、誰が、守ってくれますか……」
「は?」
訳の分からないことを言い始めたので、どうやら大丈夫ではないらしい。
守るも何も、僕が天下谷さんに危害を加える理由は存在しない。彼女のためも勿論のこと含んではいるが、僕も僕のために彼女を助けるのだから加害など論外だ。
おそらく混乱しているのだろう、無理もない。
「頭がついていかないのは、わかるよ。仕方ないと思う」
「いえ、あの、追い付かなくなってきたのは、頭というか、心というか……」
「わかるよ、怖かったよね。でも、これからは大丈夫だから」
「大丈夫になりそうだから、大丈夫じゃなくなりそうというか……!」
「……? まあ、落ち着いて」
「誰のせいだと……っ!!!」
とはいえ、時間は……──今日は、有限だ。いつまでも騒いで宥めてを続ける訳にもいかないので、彼女のメンタルケアは後回しにさせてもらおう。
そう考えて、
「つまり、学校に居る間は心配いらないんだけど」
「なにからの、つまり……!」
「問題は、それ以外。学校の外で過ごす時間だ」
僕は、状況を先へ進める。
「主に、天下谷さんが家に居る時間の対応をどうするか」
「……、…………」
とどの、つまり。
「ということで……────そろそろ、ご家族に挨拶をさせてもらえるかな?」
まあ、避け得ず。そういう話になっていくわけだ。
おいヤベーぞコイツ!!! 古に伝わりし天然ジゴロだ!!!!!
ぁ、夜にまた追加更新します。




