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メルクニア戦記  作者: 風花
第四章
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王軍親征

 アイゼン要塞、奪還。

 その一報がもたらされた瞬間、王都の謁見の間を支配したのは、喝采ではなく「戦慄」に似た静寂だった。

 半年間、大陸最強の「軍神」と互角に渡り合い、隙を見せた瞬間にその喉笛を食いちぎったメルクニアという一族の底力。ユヌベクス王の前に跪く譜代貴族たちは、かつて「降将」と侮っていた自分たちの浅はかさを思い知り、その圧倒的な武威に冷や汗を流していた。

「……やはり、そう来たか。エジル・メルクニア」

 玉座に座るユヌベクスは、深く、満足げな笑みを浮かべた。

 彼は知っていた。アムル国を滅亡の淵に追い込み、エジルを捕縛したあの日から、この獅子たちが牙を研ぎ続けていたことを。鋼鉄卿という重石がわずかに浮いた瞬間を逃さず、要塞を文字通り「奪い取った」その手腕こそ、ユヌベクスが喉から手が出るほど欲した「最強の武」であった。


 列席していた第一王女イザベラが進み出る。

「父上。わたくしの選んだ夫、ウルフは期待に応えました。今やメルクニアの武は、王国そのものの剣でございます」

 彼女の瞳には、愛する夫を戦果で飾り、王室の一部として不動の地位に据えようとする執念があった。そして第二王女エレナも、マリスの無事を祈るように胸に手を当てながら、父を真っ直ぐに見つめた。

「マリスさんも、お父様を信じて戦っています。メルクニアの皆さんが命を懸けて繋いだこの好機、どうか無駄にしないでください」

 ユヌベクスは娘たちの言葉を肯定するように頷く。だが、その瞳の奥にあるのは、冷徹な政治家としての計算だった。

(メルクニアは強すぎる。要塞奪還という大功を立てた今、彼らを前線に放置すれば、軍部における彼らの発言権は王室を脅かすほどに肥大するだろう。……ならば、予が直接赴くしかない)

 ユヌベクス王は、元々謀略好きで猜疑心の強い彼らしく、要塞奪還という大功を立てたメルクニア家の肥大化をいつしか危惧するようになっていた。そこで彼は、メルクニアを「王家の柱」として取り込むという以前の大義名分を掲げつつ、その実、彼らを「最も過酷な前線で使い潰し、利用しつつその影響力を削ぐ」という冷徹な二段構えの策を講ずるようになっていた。


 ユヌベクスは立ち上がり、居並ぶ貴族たちを威圧するように見渡した。

「これより、我がアーシア王国はゼノス帝国への『逆襲』を開始する。防衛の時は終わった。これよりは、奪われた領土を蹂躙し、帝国の心臓部へと迫る進軍の時である!」

 力強い宣言に、貴族たちが一斉に平伏する。

「予が自ら王軍を率いて親征し、アイゼン要塞にてメルクニアと合流する。最強の矛であるメルクニアを先頭に立て、王軍の総力を以て、軍神を失った帝国を押し潰すのだ!」

 ユヌベクスにとって、この親征は二つの意味を持っていた。

 一つは、弱体化した帝国を叩く千載一遇の好機を逃さないこと。

 そしてもう一つは、「メルクニアという最強の刃のつかを、自らの手で握り直すこと」である。

「準備せよ。目標は、ゼノス帝都。……王国にメルクニアありという事実を、皇帝の脳髄に刻み込んでくれる」

 王都に鳴り響く凱旋と出陣を兼ねた鐘の音。

 ユヌベクスはこの時、自らの知略がメルクニアという武力を完全に使いこなしていると確信していた。

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