理不尽な捕縛
王の要請に応じ、王都へと出頭するエジル。引き連れているのは、六男・ウルフと八男・マリス。あとは数人のお供のみであった。四男のフランは特に普段から王に対する不敬が目立ち、まとまる話もまとまらない。そして五男エルムと七男ガインはあまりに乱暴すぎて話以前の問題であった。しかし、アーシアの猛攻が続く中、前線に居る長男カルムを呼び戻す訳にもいかないのである。
さて、息子二人を引き連れて宮廷に出仕したエジルであったが、結果的には王への目通りは叶わなかった。都についたとたん、王直属の近衛兵に囲まれてしまったからである。
「一体、何事ですかっ!」
物々しい様子で取り囲み、槍を突きつけてくる近衛兵を見て、マリスは誰何する。まるで、凶悪犯に対峙するかのような近衛兵の雰囲気に、納得がいかないのは当然である。
『王の命で逆賊を捕らえに来たのだ。大人しく武器を捨てろ』
「ぎ、逆賊?」
「な、何を言っているんですかっ!」
近衛兵の言葉に、さすがにウルフとマリスは怒りをあらわにする。いくら気が弱く、兄に怒られてばかりの彼でも、このような仕打ちをむざむざと受け入れる気は無い。相手が近衛兵ともいえども、自分らなら切り抜けられる筈。マリスとウルフは近衛兵に対抗すべく剣に手をかける。
だが、一触即発のその事態を止めたのは、エジルであった。
「お前ら、やめろ」
「ですが父上、このままでは逆賊に……」
「剣を抜けば、それこそ本当の逆賊になるぞ」
息子たちの言葉を一蹴するエジル。これほど忠誠を尽くしているのに何故。一体父のどこに咎められる様子があるのか。理不尽な仕打ちに怒りが収まらないものの、当人たちにはどうしようもなく、ウルフとマリスは父に従い、結局は大人しく連行されるのであった。
*****
さて、不当にも捕縛され、投獄されたエジルたちの話は、前線で敵軍の猛攻を耐えている兄弟たちにも伝わってきた。いくら素早く事を運んで箝口令を敷いたとしても、人の口に戸は立てられないのだ。
(だから、言わんこっちゃない)
風の噂で父と弟たちが捕縛された事を聞いたフランは、呆れたように呟く。忠義に厚いのは結構だが、それは相手に仕えるに足るモノがあっての話。あんな凡庸な主君など、敬う価値すら無い。今回の事でその事を父も思い知ったであろう。
だが、思い知った頃には、後の祭り。フランが見たところ、王の性格を考えても、父たちは処刑されるであろう。ならば、ぐずぐずしている暇は無い。
「早く、助けに行くぞ」
今にも飛び出しそうなエルムとガイン。しかし、フランはそれを制する。
「……ちょっと待て」
「何故だ。父を見捨てるというのか!」
「兄者も、王の意向とやらに臆病風に吹かれたか」
頭に血が上っているのか、フランに食って掛かるエルムとガイン。だが、その弟の一言は余計だった。
「……誰が、臆病風に吹かれただと?」
すうっと目が細くなり、剣にかけられる手。その様子を見て、内心で拙いと感じるエルムたち。というのも、エルムとガインは兄弟たちの中で腕っぷしも強い方なのだが、その二人が最も苦手にしているのが、実はこのフランであったのだから。いったんキレたら、何をしでかすか分からないこの兄の様子に、さすがに二人は背筋に冷ややかなものを感じ、一瞬で我に返る。
だが、フランの腰から剣が抜かれる事は無かった。
「……真正面から行けば、事は敗れる。だが、お前らでは隠密に向かん。だから、俺が行く」
「待て。兄者一人で行く気か。俺も行くぞ」
そう言って立ち上がるエルム達だが、フランは再びそれを制す。
「……馬鹿かお前ら。今ここにいる全員が前線から抜けてみろ。兄たちだけで敵の全軍を相手する事になるんだぞ。お前らは、最前線の兄の元へ行け」
有無を言わさぬフランの鋭い視線に、二人は気圧される。
「……案ずるな。必ず父たちは連れ帰る。それまでに敵に谷を抜かれたら、お前ら斬るぞ」




