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メルクニア戦記  作者: 風花
第一章
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暗君の疑惑

「……惜しい。実に惜しい」

 アーシア国王・ユヌベクスは、はるか前方に位置する敵軍を見て、そう呟く。先の戦闘で先鋒のビスクが同じことを呟いていたが、王もまたメルクニア家に関して同じ感想だった。二万の軍を五千で受け止めてしまった相手に対して、素直に称賛の声を発する。

 だが、その五千の軍が持ちこたえたのも、アーシア国の本軍が到着するまでだった。数で劣る彼らはズルズルと後退を余儀なくされ、今はボスコ渓谷で何とか守りを固めている最中であった。

 この天然の要害さえ抜けば、敵国の首都までは広い平野が広がるのみ。遮るものはもはや、何もなかった。だからこそ、このボスコ渓谷を抜けば、敵国アムルの併合に大きく前進するのである。今回、王みずから遠征軍を率いたのも、その決意の表れであった。

 だが、抜きそうで抜けない。未だメルクニア家は健在であり、乱れる様子が無い。力業で押しても、いたずらに損害を増やすばかりなのは明白であった。そしてそれは、ユヌべクスの本意では無い。

「だが、肝心の幹が腐っていてはな。戦以外での決着など、メルクニア家にとっては不本意だろうが……」

 それでも、躊躇いは一切ない。正々堂々とか、そのような戯言は、負け犬の遠吠えでしかないのだ。謀略に弱い国のその末路は、いつだって滅びでしかないのだから。



*****



「……メルクニアが、謀反を起こす」

 何の根拠もない、ただの噂。だが、それを笑い飛ばす余裕は、メルクニア家の面々には無かった。

(……王は、凡庸なくせに猜疑心がやたらと強いからな)

 あからさまな偽手紙に踊らされる宮廷に、メルクニア家の四男・フランは内心でため息をつく。

 これまでも、衝突はあった。猜疑心が強いうえに、嫉妬深い王は、大陸で武名を欲しいままにするメルクニア家を妬んでいた。それに加え、周囲の側近たちも自身の出世のために他人を貶めるような連中ばかりであった。そんな彼らが、メルクニア家を目の敵にするのは当然である。事あるごとに、いや、事が無くても、無い事無い事を王に讒言し、王もそれを信じてメルクニア家を冷遇する。そんなサイクルが繰り返されていた。

 それでも、メルクニア家の当主・エジルは馬鹿正直に現王に仕えていた。先代からの約束との事で、どのような扱いをされようと、現王を裏切る気は無さそうである。フランから見れば、現王は見限りこそすれ、忠義を立てる価値も無い暗君というのに。

 そんな状況の上に、アーシア国と裏で繋がっているという噂が流れると、王のメルクニア家に対する疑惑がさらに強まるのであった。そして、それを裏付けるかのように明るみになる、アーシア国からの密書。そこに書かれていたのは、アーシアの貴族とメルクニア家の親密さを表す内容だった。


「馬鹿が! 見え透いた手に引っ掛かりやがって!」

 宮廷からの使者の口上に、メルクニア家の五男・エルムは激高する。

「今まで誰が国を守ってきたと思ってやがる! それが、スパイの疑いで出頭しろだと! ふざけるな!」

 そして、エルムに続いて剣を引き抜き、使者に向かって行こうとするのは、七男坊のガイン。この二人、兄弟たちの中でも最も血の気が多い二人であった。いったん彼らがキレたら、大抵は流血沙汰になるのが常であり、兄弟たちの中で止められるのは長兄のカルムくらいであった。しかし、カルムを含む兄たち三人は今、アーシアとの最前線に居て本陣に居なかった。

 いや、止められる人は居るには居るが、四男のフランにはエルムたちを止める気は毛頭無い。となれば、彼らを止めるのは一人しか居ない。

「止めろ!」

 まさに、鶴の一声。威厳のある声で一喝したのは、メルクニア家の当主・エジルであった。

「今ここで使者を斬ったりすれば、それこそアーシアの思う壺だ」

「しかし、父上。王の命はあまりにも……」

 そう言ったのは、六男のウルフ。名前に似合わず、気の弱そうな男であった。彼とて憤りを感じはするものの、それ以上に動揺の方が大きかった。

「あまりにも理不尽だから、何だ? お前も、王の命を無視するというのか?」

 父に睨まれると、ウルフは黙り込んでしまう。

「ええい、ハッキリと喋らんか!」

 そして、いつもの如くエルムに怒鳴られるのであった。その様子を見て、末弟のマリスはオロオロするのみである。

「とにかく、我らは日頃から王に忠義立てをし、アーシアの猛攻を防いできたのだ。たかが偽手紙程度で、我らの忠義が無かったものになる訳では無い」

 家族内での会議が紛糾する中、四男のフラン一人だけが冷静である。彼は兄弟たちが騒ぐ中、我関せずとばかりに一人で静かにお茶を啜っていた。

(やれやれ、相変わらずの石頭だ……)

 フランが思う石頭というのは、父エジルの事である。先王の時代から王家に仕えている父は元来忠義に厚く、決して主を裏切ろうとは考えていない。生真面目で一本槍なところがあり、今回も王に直談判すれば誤解は解けるものと思っている節があった。

「お前たちが何と言おうと、主は王で、我らは臣なのだ。その王が出廷を命じるなら、それに従うまでだ」

 結局のところ、エジルは息子たちの言葉を一蹴し、そのまま王の要請に応じて出立準備を始めてしまった。自分たちは生粋の武人であり、小細工などできる筈がない。出廷して申し開きをすれば、自分たちの志が王に伝わるはず。エジルはそう信じて疑わなかった。


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