【登場人物と第一章まとめ】
■ メルクニア家:父と八人兄弟
【当主】
父:エジル
元小国アムルの勇将。武門の長として一族を率いるが、ユヌベクスの謀略とそれによる主君から捕縛、処刑されかけたのがきっかけでアーシアに下る苦渋を味わった。息子たちを深く愛しているが、それゆえに「怪物」になりかけた四男を隔離し、未熟な年少組を戦場へ送るという、親心と当主としての責任の間で常に葛藤している。現状、帝国最強の「鋼鉄卿」に対抗できる唯一の戦力。
【兄弟たち】
長男:カルム
「王国の盾」と称される一族の象徴。誠実で厳格、非の打ち所がない武人。アイアン・ピークにて鋼鉄卿の軍勢に敗れ、全身に無数の傷を負う。現在は王都で療養中だが、無敗の誇りを砕かれた屈辱に震えながら、再起の機会を狙っている。
次男:ライル
一族随一の武闘派。勇猛果敢な性格だが、アイアン・ピークで重傷を負う。自分たちを逃がすために捕虜となった四男フランに対し、かつて彼を「冷徹」と蔑んでいた自分への後悔と、複雑な感情を抱いている。
三男:クリス
冷静さと情熱を併せ持つ男。フランとは意見が合わずよく対立していた。満身創痍の体で負傷した二人の兄を馬車に乗せ、三日三晩不眠不休で走り抜いて王都へ届けた生還の立役者。フランが街道を爆破して自分たちを救った瞬間の光景が目に焼き付いて離れない。
四男:フラン(私生児・現在帝国の捕虜)
一族唯一の私生児。感情を見せない無機質な軍師で一族の「智」で同時に卓越した剣技を持つ。アムル王都へ潜入し父らを救った救命主。アーシア降伏時、狡猾なユヌベクス王を相手に「所領安堵」を勝ち取った立役者。冷徹な合理主義ゆえに父によってアイアン・ピークへ隔離されていた。急襲した帝国軍を前に、救援に来た三人の兄を逃がすため殿を引き受け、街道を爆破。現在はゼノス帝国の捕虜。
五男:エルム
血気盛んな乱暴者。考えるより先に手が出るタイプだが、調練で一度も勝てなかったフランに対しては本能的な恐怖を抱いている。自分たちを見下していた(と思っていた)フランが、命を懸けて兄たちを救ったことに困惑する。
六男:ウルフ(第一王女イザベラの夫)
元々は繊細で気弱な性格。フランの過酷な調練で壊れかけたが、その後の隔離期間中にイザベラに見初められ、彼女の強引かつ深い愛によって「一人の男」として鍛え上げられた。すでに挙式し、公私ともにイザベラと深く結ばれている。
七男:ガイン
エルムと同じく荒々しい性質を持つが、エルムと同じく調練で一度も勝てなかったフランに対しては本能的な恐怖を抱いている。兄たちの敗北に激昂しており、その怒りは敵陣へ単身突っ込みかねない危うさを孕んでいる。年少組の中では最も好戦的。
八男:マリス(第二王女エレナの婚約者)
末子。かつては兄たちの背を追うばかりの気弱な少年だったが、第二王女エレナとの相思相愛の関係を守るため、独力で守護者としての逞しさを身につけた。エレナを心の拠り所として、戦場に立つ。
■ 王室と敵対勢力
【アーシア王室】
国王:ユヌベクス
冷酷な策略家。かつて「メルクニアが内通している」という偽情報を流し、アムル国内を疑心暗鬼に陥らせてメルクニア家を離反させた。今もなお、彼らを「便利な駒」として利用しつつ、王女たちとの婚姻でその武力を完全に取り込もうと画策している。
第一王女:イザベラ(ウルフの妻)
強かで執着心の強い女性。気に入ったウルフを強引に夫とし、公私ともに彼を支配し守り抜いている。その愛は本物であり、ウルフに害をなす者には一切の容赦をしない。
第二王女:エレナ(マリスの婚約者)
純粋で真っ直ぐな性格。マリスの優しさと、彼が自分を守るために積み上げてきた努力を心から信じ、愛している。
【ゼノス帝国】
鋼鉄卿
突如として現れた、メルクニアと同等かそれ以上の実力を持つ謎の軍神。圧倒的な武力を振るい、連戦連勝だったメルクニアの無敗神話を打ち砕いた。
■ 第一章あらすじ
1. 主君の背信と決別の脱獄
小国アムルの盾としてアーシア国の侵攻を止め続けたメルクニア家。当主のエジルを始めとして、8人の息子はいずれも一騎当千。その名声は大陸全土に轟いていた。しかし、アーシア王ユヌベクスの策により、元々メルクニア家を妬んでいた暗君や側近たちのため、小国アムルの王に処刑されかけた当主エジルら。彼らを救い出したのは、四男フランの鮮やかな単独潜入だった。フランは独立を説いたが、エジルは一族の生存を優先し、宿敵アーシアへの投降を決断。ここに、最強の降将一族が誕生した。
2. 屈辱と嫉妬の「所領安堵」
アーシアへの降伏に際し、フランはその冷徹な知略を駆使してユヌベクス王から「所領安堵」を勝ち取る。これが譜代貴族たちの激しい嫉妬を招き、メルクニア家は執拗な嫌がらせに晒される。血気盛んな五男エルムと七男ガインはこれに暴力で応じるが、そんな彼らですら、調練で一度も勝てなかったフランに対しては深い畏怖を抱いていた。
一方、軍才も個の武も「怪物」の域に達していたフランは、父エジルによって「自分を見つめ直させるため」に、最前線アイアン・ピークへ隔離された。その不在の間、ウルフは第一王女イザベラの強引な愛によって、マリスは第二王女エレナとの純愛によって覚醒していく。
3. アイアン・ピークの惨劇
しかし、軍神「鋼鉄卿」の襲来がすべてを打ち砕く。
隔離先であるアイアン・ピークが急襲され、上位三兄はフランを救うべく急行するが、鋼鉄卿の圧倒的な武力に敗北。フランは、負傷した三人の兄を逃がすため殿に志願し、街道を爆破。卓越した武と智を尽くして時間を稼いだが、鋼鉄卿というさらなる「武」の前に敗れ、捕虜となった。
「一族の誰もが勝てなかったフラン」が、初めて「鋼鉄卿」という壁に突き当たって敗北した。この事実は、メルクニア家全体に計り知れない衝撃を与えた。




