魔獣の森2
そして――
「……あ、あ、あれは……っ!」
誰かが、震える声で叫んだ。
夜空。
雲を裂くように、巨大な影が現れる。
ひとつ。
ふたつ。
――やがて数えきれないほどの影が、月明かりの向こうから姿を現した。
巨大な翼を広げ、月明かりを遮るほどの龍の群れが、こちらへ向かってくる。
やがて、その群れから一頭の龍が大きく旋回し、崖へ向かって降下してきた。
まっすぐに、リリアのもとへ降りてくる。
風圧が、一行の髪と衣服を激しく揺らす。
『リリア!』
「レ、レヴァフレアっ?!」
次の瞬間には馬から飛び降り、その首に、ぎゅっと抱きつく。
龍は嬉しそうに目を細め、リリアへ頭を擦り寄せた。
大きな鼻先が、甘えるように彼女の肩へ触れる。
『リリア、助けに来たよ!』
「レヴァフレア……!」
レヴァフレアは、誇らしげに翼を広げる。
『もう、大丈夫だよ!
兄さんも、快く力を貸してくれるって!』
「……兄さん?」
リリアが瞬きをする。
レヴァフレアは嬉しそうに頷いた。
『そう! ヴォルフレアっていうんだ!』
「ヴォルフレア……」
その名を聞いた瞬間。
クロードの表情が凍りついた。
「……ま、さか……」
災害級の古龍種。
かつて幾つもの土地を焼き、大地を震わせ、天災と恐れられた伝説の龍。
「暴龍、ヴォルフレア……」
クロードの喉が鳴る。
「なぜ、そのような龍が……」
その時だった。
龍の群れが、ゆっくりと左右へ分かれていく。
そして、その奥から――
一頭の龍が姿を現した。
夜空を覆い尽くすような巨大な影。
先ほどまで見えていた龍たちでさえ、小さく見えてしまう。
長い角。
幾重にも重なる古い鱗。
そして、すべてを見通すような深い瞳。
レヴァフレアが、嬉しそうに声を上げる。
『兄さん!』
巨龍は、静かにリリアたちを見下ろした。
その瞳が、ゆっくりと細められる。
そして――
『……お主が、リリアか。
我が弟、レヴァフレアを助けてくれた礼を』
低く、深い咆哮が、再び夜の世界を震わせた。
魔獣たちは身をすくませる。
絶望しか見えなかった夜に――今、希望が舞い降りた。




