魔獣の森
崖の上へ辿り着いた一行は、そこで馬を止めた。
「……っ!!」
誰も、すぐには言葉を発することができなかった。
眼下に広がる魔獣の森は、もはや森と呼ぶことさえ躊躇われるほどの惨状を呈していた。
黒々とした瘴気が、森の奥から濁流のように溢れ出している。
木々はなぎ倒され、大地には無数の亀裂が走っていた。
そして、その闇の中を――魔獣たちが蠢いている。
大小さまざまな獣たち。
鋭い牙を剥き、唸り声を上げながら、森から次々と這い出してくる。
その数は、到底数え切れない。
森の縁に築かれた村では、すでに火の手が上がっていた。
家々の屋根を炎が舐め、赤々と燃え上がる火が夜空を染めている。
逃げ惑う人々の姿。
必死に魔獣を食い止めようとする領兵たち。
けれど、あまりにも数が違いすぎた。
一頭が倒されれば、その後ろから十頭が押し寄せる。
リリアが息を呑む。
その隣で、クロードが愕然とした表情を浮かべていた。
顔から、血の気が引いていく。
領主として、何度もこの地を見てきた。
あの村には、顔を知る者たちがいる。
子どもたちも。
老人たちも。
毎年、収穫を届けてくれた農夫も。
幼い頃から見慣れていた村。
そのすべてが、今まさに魔獣の群れに飲み込まれようとしている。
「……ああ……」
クロードの唇が震えた。
「……村が……村がっ!」
拳が、強く握りしめられる。
声にならな叫びが、夜の崖に響いた。
その時だった。
「……え?」
リリアが、小さく息を呑んだ。
胸元が――光っている。
リリアが身につけていた、ひとつの宝。
レヴァフレアから託された――龍の逆鱗。
それが、胸元でまばゆい光を放っていた。
それはまるで、遠く離れた何かと呼応しているように。
「これは……」
リリアがそっと鱗に触れた、その瞬間だった。
――ゴオオアアアアアアッ!
天空を震わせる咆哮が轟いた。
空気が震える。
「な……なんだっ!?」
クラウスが空を見上げる。
そして――
魔獣たちが、一斉に動きを止めた。
唸り声が消える。
牙を剥いていた獣も。
村へ駆けていた魔獣も。
炎の向こうにいた魔獣たちさえ、何かに怯えるように空を見上げている。
その異様な光景に、誰もが息を呑んだ。




