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姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


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森の異変

アシュレイト領。

その領地の北西には、広大な魔獣の森が広がっている。

昼なお薄暗いその森は、古くから人々に畏れられてきた。


そこは、豊かな大地を抱くアシュレイト領にとって、決して油断のできない場所でもあった。


魔獣は、森の奥に溜まった魔素の澱み――瘴気から生まれる。


だからこそ、アシュレイト家は代々、森を監視してきた。

領民たちはその澱みを見逃さないよう森を見回り、異変があれば速やかに排除する。


それは暮らしを守るための、何百年にもわたる務めだった。

ここ数百年――魔獣が領地へ降りてきたという記録は、一度もない。


――少なくとも、これまでは。


「なぜだ!」


クロードの怒声が、夜の領主館に響き渡った。


「澱みを消していなかったのか!?」


「違います、領主様!」


駆け込んできた領民が、必死に首を振る。


「俺たち、毎日見回っていたんです! 

今日の昼間だって異常はなかったんだ!」


「だったら、なぜ……!」


クロードが言葉を詰まらせる。


「急に……急に大きくなったんだ!」


別の領民が、青ざめた顔で叫ぶ。


「何?」


「気づいた時には、もう手がつけられねぇほどに!

あんなの……今まで見たこともねぇ!」


クロードの顔から血の気が引いた。


「……急激に、だと?」


クロードは唇を噛みしめた。

森の方角から、異様な魔力が立ち昇っているのがわかる。

遠くで、地鳴りがした。


これまでとは、明らかに違う。


「……くそっ」


拳を握りしめる。


「何ということだ……!」


けれど、嘆いている暇はない。


「とにかく避難を! 

近隣の村から順に、領都へ移すんだ! 急げ!」


「近くの村の者たちは、もうこちらへ向かわせています!」


男が答える。


「だが、迎え撃つにも人手が足りねぇ! 領主様、頼む!」


「もちろんだ!」


クロードは迷うことなく外套と剣を手に取った。


「私も行こう!」


「兄上!」


振り返ると、クラウスとクラリーチェが立っていた。

二人とも、すでに戦うための身支度を整えている。


「我々も参ります。兄上」


「お前、たち……?」


クロードは眉を寄せた。


「だが、お前たちは――」


二人は揃って首を振った。


「故郷の一大事です」


クラウスが、まっすぐ兄を見た。

隣でクラリーチェも頷く。


「ここで待っているなんて、できません」


二人の瞳には、強い覚悟が宿っていた。


「兄上。どうか、指示を」


クロードはしばし二人を見つめ――やがて、深く息を吐いた。


「……分かった。頼むぞ」


その時だった。

階上から、静かな声が降ってきた。


「私も行こう」


一同が振り返る。

そこに立っていたのは、エルヴィンだった。

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